第10話 王都のギルドマスター

 リリィを娶ってから一週間が経った。

 昨日、この世界についてのガイダンスが終了したのだ。

 そのため、討伐隊不参加の生徒にも王都内での自由外出が許可された。


 討伐隊の訓練もゆっくりとは言っていたがかなりのペースで進んでいるようで、ダンジョンに入って対魔物の実践訓練に入るそうだ。

 そうして、僕たちも城を出発しようとしている。


「華奈、リリィ、準備は出来た?」


「大丈夫だよ」


「はい! 

 私も問題ないです」


「よし。

 じゃあ城下に出ようか」


 準備は万端。

 荷物を持ってリリィの部屋を後にすると、城門を徒歩で抜けて城下町へと繰り出した。

 最初に行く場所は既に決まっている。


「ナギ様、最初はどこに向かうんですか?」


「王都を出る前にギルドに行こうと思ってる。

 そういえば、リリィはギルドに登録してあるの?」


「はい。

 二年前に登録して、Cランクです」


「おお。

 頑張ったんだな」


 僕は歩きながら隣を歩くリリィの頭をなでる。

 それに対し、リリィは嬉しそうに顔を綻ばせた。


「じゃあ、私が一番下か~」


「そうだな。

 華奈のランク上げもしながら移動していこうか」


「よし。

 一気に上げてくぞ~」


 王都の街並みは三年前とほとんど変わっていない。

 様々な服装や種族の人が行き交ってにぎわっている。

 現在の季節は春。

 人々の賑わいに加え、頭上に綺麗な桜並木を見ることができた。

 ギルドは城門を出た大通りを進めばたどり着く。

 簡単に言うが王都はかなり大規模なもので、外周にある門から街の中心にある城門まで歩いて一時間はゆうに掛かる。

 そのため、三十分ほど歩いて大通りの途中にあった中央広場にたどり着いた。

 ここは、王都で様々な催しものをおこなう際に中心とされ、広々としたスペースに噴水やベンチ花壇が置かれる憩いの場。

 普段は屋台が出店されていたり、大道芸によるパフォーマンスがおこなわれている。


「あれだね」


 僕がそう言って指を指し示す。

 広場を囲むようにカーブして建てられている二軒の建物。

 その内の左側の三階建ての石作りの建物が目的の建物だ。

 ちなみに反対側は商業協会の建物である。


「あれがギルド?」


「そう。

 あれが王都のギルド。

 よし、中に入ろう」


 二人を連れて僕は中に入る。

 ギルドは二十四時間営業。

 そして、特にここ王都はギルドに人の出入りが激しいためギルドの入り口にドアは取り付けられていない。

 中に入ってみればまだ午前中ということもあり、遅出の冒険者たちで賑わっていた。

 一階は総合受付、買取カウンター、依頼掲示板、酒場、そして、別のギルドには無い施設としてシャワールームや薬屋などの施設もある。

 また、二階では貸し会議室と本格的なレストラン。

 三階は高位ランクの冒険者・パーティーでの入場制限があるが、一階と同じだが上質なサービスを受けることが出来る店舗がある。

 また、この階にはギルドマスターの執務室もある。


「うわっ。

 思ってたより凄い」


「華奈ちゃんの世界には無かったんですよね?」


「うん。

 そうだよ。

 でもね、ラノベっていうこういう世界を題材にした小説のがあったんだ~」


「へ~。

 そんなのがあるんですか。

 気になります」


「今度、リリィちゃんに見せてあげるよ♪」


「ありがとうございます」


 ギルドに入ってすぐの所でこうして喋っているが、ずっとここに居るのは邪魔だ。

 とりあえず、二人を促して移動する。


「華奈、リリィ、カウンターに行くよ」


「はい」


「凪、そこで何するの?」


「お金を下ろそうと思ってね。

 二人は待ってる?」


「私は凪に付いてく~」


「私もそうします」


 二人もついてくるということなので三人は総合受付の列に並んぶ。

 ギルドの冒険者証に紐づけてこの世界の通貨である金貨を預けておくことができる。

 僕は、活動資金として三年前に預けていた金貨の一部を引き出すつもりだ。


 さすが王都と言うべきか職員の仕事は早く、列の進みは早く数分とせずに順番が回って来た。

 そして、僕たちは受付の前に立った。


「おはようございます。

 本日はどのような御用でしょうか?」


「引き出しをお願いできますか?」


「はい。

 冒険者証の提出をお願いします」


 自分の冒険者証を職員に提出する。

 職員は慣れた手つきで冒険者証を受け取って確認のために目を向けた。

 そうして、動きを止める。


「……っ⁉ 

 すいません。

 少々お待ち頂けますか?」


「はい。

 大丈夫です」


 再び動き出した職員は冒険者証を持って慌てて裏へと入っていく。

 そして、数分経過して職員は一人の男性を引き連れて戻って来た。

 その男性は王都のギルドマスターのクレイヴェインさん。

 三年前にも会っているので面識があった。


「お久しぶりです。

黄昏の焔ラグナロク】ナギ様。

 本日は大陸通貨の引き出しとの事でよろしいでしょうか」


「間違いないです。

 白金貨3枚と金貨20枚でお願いします」


「かしこまりました。

 ところで、準備の間に執務室で少々お話を伺っても宜しいでしょうか?」


「いいですよ。

 連れの二人も良いですか?」


「もちろんどうぞ。

 それではついてきてください。

 ご案内します」


 クレイヴェインさんから話があるとのことで、僕たちは案内に従って部屋に移ることになった。

 カウンターの中に入って職員用の通路に入って裏にあった階段を登っていく。


「凪、さっきの【黄昏の焔】ってどうしたの?」


「まあ……あれはね称号と言って基本的にSランクになった時に付けられるんだ。

 まあ、これは基本名前だけのものでステータスの補助効果は何もないけどね」


「ふ~ん。

 けどなんで、【黄昏の焔】なの?」


「それはね、前に来た時は基本黄昏シリーズの魔法使ってたからじゃないかな~って。

 だから、それでそうなったと思う」


 黄昏シリーズとは、<聖火魔法>の中にあるものと、<完全魔法>で作成した、黄昏の名を持つ魔法のこと。

 三年前に使える魔法の中で制限はあるものの魔力消費に対する火力・範囲が発動できる魔法の中で断トツで、夕方の戦闘が多かったので使用回数が多かった。

 それを鑑みてのことだと思う。


「へ~。

 そうなんだ~」


「因みに私が提案しました」


 ババーンみたいな効果音がつくような感じに胸を張ったリリィからカミングアウトされる。

 さすがに、そこまでは知らなかった。


「え」


 僕の口から驚きの声が漏れる。

 それだけでは無く話を聞いていたクレイヴェインさんもこちらを振り向いて驚いた顔をしていた。


「もしかして、第二王女殿下でしょうか?」


「はい」


 クレイヴェインさんは目を大きく見開いた。

 王都の人にばれないようにリリィに顔をフードで隠させていたのに合わせて認識阻害系の魔法を発動させていたため、リリィの事を今まで認識できていなかったようだ。

 お忍びのために認識阻害をおこなっていたが、今の話を聞いてリリィだと認識してしまったためか、魔法の効果が切れたのだろう。

 そのため、リリィだと知ったクレイヴェインさんは驚いたのだ。

 すぐさま気を取り直したクレイヴェインさんの案内で、三階の執務室へとたどり着いた。


「取りあえずこのようなところですがお座りください」


「では、失礼して」


 僕たちはソファに腰を掛けた。

 反対側にはクレイヴェインさんが座る。


「では、改めまして、リリィ殿下、ナギ様、それと……」


「凪の妻の華奈です」


 クレイヴェインさんが名前が分からず口ごもったところで、華奈が名乗る。


「ああ。

 奥様でしたか。

 御三方、本日はご利用いただきありがとうございます。

 それで、少々話を伺いたいのですが宜しいでしょうか……?」


「大丈夫ですよ。

 何の事でしょうか?」


 クレイヴェインさんがおずおずと聞いてくる。

 僕がLランク冒険者とリリィがいるということで下手に出ているのだ。


「ここ三年の事をお伺いできればなぁ……と」


「リリィ、話していいかい?」


「はい。大丈夫です」


「それじゃあ少し長くなりますが……」


 話せないことは色々とぼかして大まかな説明をする。

 僕は異世界の人間で神に伝手があってある頼まれごとをして三年前に来ていた。

 そして、今回の勇者召喚で再びこちらに呼ばれ、魔王討伐をすることになった。

 これが大まかな話だ。

 もちろん、口外はしないようにとの念押しは欠かさない。


「そういうことでしたか。

 すっきりしました」


「よかったです」


「それで、御三方はこれからどうなさるのでしょうか?」


「今の所、〔要塞水都フィル〕まで依頼を受けつつ北上していくつもりです」


「そうですか。

 おっと、通貨の方も準備ができたようです」


 隣の部屋からお盆に金貨を乗せた職員が入って来た。

 クレイヴェインさんがそれを受け取ってこちらへと持ってくる。

 お盆に乗った金貨を全て受け取ると一部をそれぞれの懐に。

 残りを<アイテムボックス>に仕舞う。


 そうして、用事が済んだので執務室を後にした。

 ギルドの建物を出て時間を確認してみればちょうどお昼時だった。


「う~ん、意外と時間食っちゃったね。

 今日は時間潰して宿に泊まって、明日出発にしようか」


「凪、デートしよう! 

 それでいいよね?」


「私もデートしたいです!」


 二人がそう言って迫って来た。

 まあ、僕もそのつもりだったので異論はない。


「よし、そうしよう。

 じゃあ早速行こうか」


 僕たち手を繋ぎながら寄り添って王都の街中に繰り出した。

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