第7話 その答えは

 魔王討伐メンバーと別れた後に説明されたのは今後の過ごし方に関してだ。

 説明によると討伐メンバーとは別メニューでこの世界の常識を一週間学べば城下町へ行くことが許可される。

 また、討伐隊への後からの参加も大変らしいが一応可能だ。


 本格的にこの世界についての学習をおこなうのは明日からのようで説明が終わってからは解散し自由時間となる。

 僕たちはそれから昼食が届けられるまで部屋で待つことにした。

 部屋に戻ってからは昨日と同じように二人でソファーに深く座る。


「凪、この世界の魔法水準はどのくらいなの?」


「大体一人一属性は持ってるはずだよ。

 レベル平均としては基礎属性のLv6辺りで上位魔法のLv4以上を一属性でも持ってればトップクラスの魔法使いとされてるね。

 そういう人たちは大抵軍か宮廷魔法使いの要職に就いてるね。

 冒険者でもSランクはあると思うよ。

 基本属性以外の属性は国に数人いるかいないかだね」


「ふ~ん。

 思ったより高いんだね」


「ここは根源世界だから成長しやすいんだよ」


「へ~そうなんだ。 

 それで町はどんな感じ?」


「街並みはぱっと見た感じだと中世と同じなんだけど魔道具を使って上下水道はしっかり組まれてるから不便はしないと思うよ。

 魔道具も一般に広く普及しているみたいだから、電化製品の代わりになってるね。

 だから、街中は夜でも明るいよ」


「確かにそうだね。

 この部屋も色々と魔道具が置いてあるもんね」


「そうだね。

 よし、街に今度デートしに行こう」


「うん♪ 良い考えだね。

 楽しみにしてる。

 ……気を付けることはある?」


「少しだけね。

 貴族に関してなんだけど、国王様はね昨日見てもらった感じだけど他は選民思考が未だ根深いみたいでね……。

 それだけは覚えておいてほしいな」


「お決まりだね」


「そ、絡まれたときは僕が対処するからね」


「うん、よろしくね」


 それからもこの世界に関して華奈が質問しそれに答える形で話を進めた。

 そんな話を続けるうちに時間はどんどんと経過していき、部屋に昼食が届けられたのでそこで話を終わらせて食事にすることにした。


 そうして昼食を終え、僕は華奈と共に部屋を後にした。

 向かう先はリリィの部屋だ。

 昨日の返事を返すために話をしに行く。


 今日もアイラさんにコインを提示すると扉を開いて部屋に入る。

 リリィは部屋の中のソファーに座ってお茶を飲んでいた。


「お待ちしておりました、ナギ様にカナ様」


 僕と華奈はリリィに招かれてソファーに座る。

 座り方は昨日と同じで華奈とリリィの間に挟まれて座ることになった。


「ナギ様」


 リリィが発したのはたった一言。

 僕の腕を抱きしめて下から見上げていた。

 だが、その目は真剣そのもの。

 少し雑談を挟んでからにしようと思っていたのだが、それをしようとは思えなかった。

 なので、僕も気持ちを切り替えてしっかりと答える。


「……昨日よく考えたんだ」


「はい……」


 ゴクリと息をのむ音が聞こえてくる。

 それに合わせて僕の腕を抱きしめる強さも強まる。


「華奈とも一緒に話し合って……リリィのことを受け入れようと思う」


「ッッ!!」


 それを聞いたリリィは声にもならない歓喜の声を上げる。

 リリィの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 このままリリィを抱きしめて思う存分涙を流してほしいと思うのだが、まだそれをする時ではない。

 だが、一番大切な質問がまだ残っている。


「リリィ、期待を裏切るようで悪いんだけどちゃんとした返事をもらう前に一つだけ知っていて欲しいことがあるんだ。

 僕と華奈に関することでこれからリリィにも関係してくるかもしれない大事な事なんだ。

 良いかな?」


「ナギ様?

 ……分かりました。

 けど、どんなことがあろうと私はナギ様のお傍にいると決めていますので答えは絶対に変えませんからね」


 リリィは僕の声のトーンが変わったことに一度首をかしげた。

 だが、瞳に溜まった涙を拭いてそう答える。



「取りあえず場所を移そう。

 リリィ、華奈、準備は良い?」


 リリィは既に僕の腕に抱きついていたので問題は無い。

 そして、僕の言葉と共に華奈ももう空いていた方に腕を絡ませてきた。

 準備は整った。


「『境界転移』」


 僕の魔法の発動と共に僕たちの体は光に包まれて、そして姿を消した。

『境界転移』は『転移』とは違って世界間転移に特化した魔法だ。

 この魔法か一般的に言う勇者召喚の魔法の二つ以外は基本的に異世界へと移動する手段は無い。


 転移の際のまぶしい光で目を閉じていたリリィが次に目にした光景は一面に花が咲き誇った広大な草原であろう。

 僕たちが移動してきたのは第三世界線の“花園”。

 程よい風が吹いており、色とりどりの波が生まれる。

 その風は波を生み出しただけでは無く、花の香りを僕たちの鼻まで届いてくる。

 見上げる空には雲が浮かんでおり、たまに太陽の光を遮っては花畑に影を落とす。


 たまに思うのだが、やはりこの景色はどの世界でも見ることのできないものだと思う。

 それは、現在のリリィの反応が裏付けているとも言える。

 リリィは花園を見て目を爛々と輝かせている。


「……うわぁ。

 ナギ様! 

 ここはどこなんですか」


「ここは第三世界線慈愛の“花園”だよ」


 まあ、そう答えたところでリリィには理解できないだろう。

 現にリリィの頭には?が浮かんでいる。

 まあ、ここからの説明に関連するので説明は後回しだ。


「それは後で教えるよ。

 それよりも先に僕の正式な自己紹介をさせてもらうね」


「正式、ですか?」


「うん。

 ちゃんとした肩書を含めた上でね。

 僕の名前は朔月凪。

 第三世界線慈愛の神皇でこの“花園”の主だ」


 僕の名乗りに合わせて僕の横に並んだ華奈も名乗りを上げる。


「私は朔月華奈。

 第三世界線慈愛の神皇妃よ」


 名乗りに合わせて制限を掛けていたステータスを全て開放する。

 それによって、神のオーラとでも言うべきか強い威圧感が発生した。

 種族が神系統の魔力には神気というものが含まれており、それが漏れ出したことで威圧感が生まれている。

 神気は根本的には魔力とは変わらないが、高密度の魔力に各種属性が込もったものでありその属性はそれぞれの適性によって変わる。

 魔法に使えば、魔力消費量減少や威力増加など様々な効果を生み出す。

 神気は神が存在するだけで少しずつ滲み出して一定期間その場に滞留するので神を探すのによく用いる。

 まあ、僕の場合は能力制限をかなり強力に掛けているのでその時の神気の流出はほとんどない。


 色々と説明したが、僕たちのオーラを感じとったリリィは目を大きく見開いた。

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