第3話 転移
気づけば僕たち三年A組一同は豪華な大広間の中心に立っていた。
足元には淡い光が残った大きな魔法陣が存在する。
「ドゥルヒブルフ様。
勇者集団召喚成功です」
魔法陣の外で術式を発動さていたであろう集団。
その中で先頭に立っていたひときわ良いローブを纏い大きな魔石の嵌った杖を持った男。恐らくこの中でリーダーと思われる魔法使いがそう声を上げた。
周囲を見渡せばクラスメイト達は何が起きたか分からず混乱している。
とりあえず、何が起きたのかを一つずつ確認していこうと思う。
昨夜、真美さんから伝言をもらった後に軽く準備をしてその日は就寝した。
そして、今朝もいつも通り華奈と二人で学校へ登校したのだ。
教室に着いた時間はいつも通りの始業ギリギリの時間。
席に着いて間もなく始業のチャイムが鳴った。
その後、教室に担任の村瀬先生が来て出欠の確認を取ってからその日の連絡を話していく。
そして、連絡も終わり最後に挨拶だ。
級長の起立の合図で僕たちは席を立った。
すると、足元に魔法陣が描き出される。
全員がそれを見て驚き、騒いでいる内に転移がおこなわれ周囲の景色が現在いる大広間に変わっていたということだ。
魔法使いが報告をしたのは三年前に出会った上位神である、ドゥルヒブルフ神。
それに気づいて視線を向ければちょうどドゥルヒブルフ神と目が合った。
状況確認のために<念話>を繋げようとしたところ、別の人から<念話>が入ったのだ。
それは、第五世界線神皇の茜さんだった。
⦅凪君、今、“アルメア”に勇者が召喚されたみたいだよ。
私は気にしないから自分の好きなタイミングで来るといいよ!⦆
⦅はい、そうみたいですね⦆
⦅そうみたいですねって、もしかしてもう“アルメア”にいるの?⦆
⦅はい。
その勇者召喚に巻き込まれたみたいです⦆
⦅え! それホント!?
うん、いや……確かにあり得るかもしれない。
世界システム経由の召喚をしたみたいだから何らかの繋がりがあったのかもね。
凪君がいれば安心だよ。
よろしくお願いするね⦆
⦅はい、分かりました⦆
茜さんの話から僕たちが召喚されたのは“アルメア”で間違いないようだ。
茜さんとの<念話>も切れたのでドゥルヒブルフ神に声を掛けることにする。
⦅お久しぶりです。
ドゥルヒブルフ神⦆
⦅おお、凪様ですか!
まさかとは思いましたが間違いは無かったですね⦆
⦅もう少ししてから自分たちで来るつもりだったんですけどね。
まあ、召喚されたので役割は果たしたいと思います。
一緒に召喚された人たちには僕の事情は内密にお願いします。
国王やリリィにもサプライズで挨拶するつもりなので報告は大丈夫です⦆
⦅承知した。
ナギ殿⦆
根回しを済ませたところで魔法使いの一人が前に出た。
「混乱するのは分かるが一度、お静かに願おう。
現在の状況の説明をしたいと思う。
別室に移動する。
私について来てくれたまえ!」
突然の提案だった。
それに、生徒たちはどうすればいいかわからずにそれぞれ顔を見合わせていた。
そこで村瀬先生が動いた。
「みんな、聞いてくれ!
これに関しては俺も何もわからない。
とりあえずはあの人が事情を知ってるらしいから従てくれ」
生徒たちはそれに頷くと、魔法使いの人を先頭に全員で移動を開始することになった。
召喚された部屋から出て、赤い絨毯の敷かれた長い廊下を進む。
途中にあった階段を下りて、下の階に移る。
すると、ある生徒が階段の途中にあった窓の外を見てあることに気づいた。
「うおっ。すげぇ!
みんな外見てみろよ!
絶対ここ異世界だぜ。
これ見てみろよ!
中世風の都市だなんてそうとしか思えねぇよ」
「うわ!
マジだ!
マジもんだこれ!
異世界転移とか俺初めて」
「転移ってそんな何回も味わえるものじゃないだろ」
「「はははは」」
そんなお気楽な会話にどこからかツッコミが入って、笑いが起こる。
全員、異世界トークでもりあがっていた。
と、そこで前を行っていた男性が止まって振り返る。
「ええ。
皆さんのおっしゃる通りここはあなた方の世界からすると異世界と呼ばれるものです。
会議室まではもう少しですので、もう少々お付き合いください」
軽い説明を終えてまた案内を再開する。
それから、その廊下の突き当りを曲がって少し進んだ所にあったドアの前で止まった。
「皆さん到着しました。
こちらの部屋にお入りください。
中にはテーブルとイスが準備されていますので、それぞれ前に詰めてお座りください。
説明の準備をおこないますので少々お待ちください」
男性はそう残して、一度部屋を出て行った。
男が部屋を出てから数分。
待っていた生徒たちは異世界ということの話で盛り上がる。
その時、案内をしていた男性が数名の人を引き連れて部屋に戻って来た。
それを見たクラスメイトたちは話し声を自然と収める。
それを確認したところで説明が始まった。
「皆さん初めまして。
この度、ドゥルヒブルフ王国とその建国神及び、この世界の最高神の一柱に名を連ねるドゥルヒブルフ神のご神託のもと、私どもが皆さんを召喚させていただきました。
まず、初めに、こちらの都合で召喚させていただいたことを深くお詫び申し上げます。
元の世界にお帰しすることに関しては確約させていただきます。
ドゥルヒブルフ様からは強制的に従う必要はないとのことですので、もしこの後にさせていただくご提案にご納得できない場合にはこの城に少しの間留まっていただき、送還の準備ができ次第、元の世界にご帰還していただくことも可能です。
最後の送還の際には、元の世界での時間経過は一日以内に収められると伺っております」
そこで、男性は話を切ってから、ちょっと待っていてくれと言って入り口に居たメイドに何かを伝えた。
メイドが部屋を出たかと思うと、すぐに戻って来る。
戻ってきたメイドの後ろには続いて、豪華な服を着た四人の男女が部屋に入って来たのだ。
僕はその四人を見て、英断だと思った。
部屋に入って来たのは国王陛下とその王妃、第一皇子と第一王女。
やはり、王族が持つ身分と言うのはこの場にいるクラスメイト達にとってはインパクトが大きいだろう。
国王陛下が中央に立つと、そのまま話し始めた。
「異世界の諸君、この度はこちらの都合でお呼び立てして大変申し訳なく思う。
お詫びと言ってはなんだが、こちらに居る間は出来うる最大限の便宜を図らせていただく。
自己紹介が遅れたが、私はこのドゥルヒブルフ王国の第三二代国王クルス・ドゥルヒブルフ・フィアル。
諸君、以後よろしく。
そして、後ろの者が我が妻のリリア。
隣が第一皇子レントと第一王女レイア。
ここに居ないが、あと息子二人に娘が一人居る」
誰だ、このおっさんは? と思っていた生徒たちは国王との名乗りを聞いた途端に目を見開き、唖然としてしまった。
そんな静まり返った中で、クラスの中心的存在である藤堂狩也ただ一人が声を上げると返事を返す。
「大丈夫ですよ!
僕たちで良ければ力になります!
な、みんな」
その言葉は国王クルスへの返事と共にクラスメイトたちに呼びかけるようなものだった。
それに応じるように半分のクラスメイトがうなずき、残りのクラスメイトは未だ戸惑っているようであったが周りに合わせて、次第に頷いていく。
そんな言葉を聞いた国王クルスは一瞬だけ意外そうな顔をしていたのだがすぐに引き締め直した。
「異世界の諸君。
力強い返答を感謝する。
順序は逆になってしまったが、なぜ諸君らの力が必要になったのかを説明させていただきたい!」
そして、そのまま国王クルス自らが説明を始めた。
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