第4話 再開
「数日前のことであった。
突然、ドゥルヒブルフ様が神託を届けに訪れられたのだ。
曰く――魔王が発生した、と。
早急に調査団を派遣し、翌日には魔王の確認の報告が届けられた。
この世界の魔王は二種類の意味を持っている。
魔族と言う種族の王と魔物が進化し、統率個体としての力を持ち統率個体数などの一定の条件を満たした魔物の王と言う意味の魔王。
うち、報告があったのは後者の意味での魔王だ。
最初の内は監視要員が持ち回りで魔王を監視していたのだが、一昨日、地中に潜っていき現在の所在地は不明。
だが、今のところ国内で魔王による被害は一切確認されていない。
もう一つ、隣国のマルスリオン帝国が怪しい動きをするようになっていて現在はそれに関しても警戒中である。
そのせいもあって、現在このドゥルヒブルフ王国は戦力が不足しているのだ。
国に関してのことは勇者に任せるわけにはいかない。
そのため、諸君らには魔王の討伐を手伝ってほしいのだ。
そして、魔王についてドゥルヒブルフ神ご本人から説明がある」
国王クルスが下がっていくと、今まで僕たちの後ろに立って見ていたドゥルヒブルフ神が動き出し、クラスメイトたちのいるテーブルの間を通り抜けていく。
歩みを進めるドゥルヒブルフ神が纏っていたのは威風堂々とした神の風格。
それを見るクラスメイトたちは畏敬の念を抱いているようであった。
静けさが部屋を支配する中、足音を響かせながら前に到着すると僕たちを一通り見渡してから説明を開始する。
「改めて私からも、突然の召喚について謝罪させてもらおう。
すまなかった。
そして、どうか力を貸して頂きたい。
通常ならば、この世界では勇者を召喚する必要は無かったのだが、どうして勇者を召喚すべきと言う結論に至ったのか簡潔に説明しようと思う。
それは今回の魔王が持っていたスキル。
言い換えれば、能力だが、それが原因だった。
<世界耐性>というスキル。
この世界の存在による干渉をほとんど無効化し、この世界の生物からの攻撃は全て無効化されてしまうのだ。
たとえ神であってもこればかりはどうにもできなかった。
そこで、異世界から勇者と呼ばれる人々を呼ぶことにしたのだ。
どうか、我々に諸君の力を貸してほしい」
話を終える。
ドゥルヒブルフ神はそのまま元々いた場所まで戻った。
空気が少し重くなっている中で、国王クルスが声を上げる。
「よし!
今日はここまでとしよう。
返答は一度聞いたが、個人でもう少しよく考えてほしい。
一人につき一室を割り当てる。
今日は部屋で体を休めながらよく考えるといい。
夕食はメイドがそれぞれの部屋に運ばせる。
この続きは明日。
その他の連絡は夕食を運ぶメイドから聞いてくれ」
今日の分の説明はこれで終わりのようだ。
それから、クラスメイトたちが順番に部屋に案内されていく。
僕と華奈は一番後ろに居たため、最後まで残った。
部屋の分配はそれぞれ一室。
ただ、華奈が一緒の部屋がいいというので、けっきょくのところ華奈用の部屋はそのままにしておいて僕の部屋で過ごすそうだ。
部屋に入って少しすると、メイドさんが夕食を持って来た。
分厚いステーキとサラダ、スープにパンだ。
こちらの食事は基本的に“地球”の洋食の分類に入る。
香辛料も安定的な生産方法が確立しており、珍しくない。
ただ、一部の料理や食材はこっちの世界では存在していない。
注目すべき米だが、存在しており大陸の中央部一帯にある国で生産されており流通している。
この世界ならではの部分もあり、肉などが魔物産であり、魔力の影響もあってかこちらの方が全体的に数段おいしい。
食事を終えた後は、部屋に備え付けられた風呂を交互に済ませた。
風呂を上がると二人でソファーに座ってまったりしながら話し始める。
「凪~。
この世界ってどんなとこ~?」
ソファーに深く座ってだらっと僕にもたれかかって聞いてくる。
「ここは第5世界線根源世界“アルメア”。
一言でいえばザ・ファンタジーの世界だよ。
魔法もあるし魔物もいる。
もちろん、ギルドもある。
ファンタジーの基本要素が一通り揃ってるね。
まあ、僕の立場から言えばちょっと荒れ始めてるかな」
「ふ~ん。
そうなんだ~。
ん~……。
ねぇ、凪?
世界線を超えちゃってるけど普通の召喚や転移だと世界線までは超えられないんじゃないの?」
「ああ。そこはね、ある理由があるんだ」
これは、基本的なルールなのだが異世界などから召喚や転移をする際には世界線の中にある世界で完結する。
と言うか、世界線を分け隔てる壁は突き破ることはできない。
例外は、高位存在による召喚・転移の行使であり、神皇と世界システムのみがそれに該当する。
そして、今回の勇者召喚はふさわしい人物を世界システムが選定し召喚の魔法によって開かれたゲートにその対象を送り込むものだ。
そのため、同一世界線外からも召喚される。
これは、勇者の役割を考えた上でのことだ。
勇者召喚がおこなわれるのは勇者の力が必要となった場合であり、即座に対応すべき問題が起こっている場合である。
召喚時に付与される能力があったとしても即座に対応するには呼ばれた世界への素早い適応力が必要だ。
そのせいか、勇者召喚はほとんどが決まった三つの世界の人が呼ばれやすくなっていて、そのうちの一つが第三世界線根源世界“地球”である。
「適応力って?」
「日本には異世界文化を知るのにちょうどいい文化があるじゃん。
二次元文化。
特に異世界ものを題材としたアニメ・ラノベの存在が大きいね。
そういうものは異世界への抵抗を無くさせて、逆に憧れとかを持たせるからね」
「ああ!
確かにそうだね♪」
華奈は僕の説明に納得してくれたようだ。
「今回はあんまり力を見せびらかしたくないんだけど……。
もしかしたらって言うかほぼほぼ僕が召喚に巻き込まれた要因がなにか、あると思うんだよね」
と言うのはさっき説明した勇者の選抜方法に起因する。
僕のような神皇と言う存在は基本的に召喚するようなことはできない。
だが、世界システムは位置づけ的には神皇の上位存在に位置するため、正式な理由さえあれば神皇であるとしても召喚をおこなえる。
僕を召喚するに値する要因と言えば……ぱっと思いつくのは行方知れずの邪神の話だ。
ひとまずは、邪神を討伐することを念頭に入れて動くべきだと思っておこう。
今のところ、華奈には前回来たことの話を含めて伝えた。
「そっか~。
前に来たことがあるんだ」
「うん。
それで、クルスさんとリリィに挨拶に行こうと思うんだけど華奈も来る?」
「うん、もちろん♪」
華奈のその返事を聞くと二人でソファーから立ち上がり、部屋を後にした。
城の造りは良くファンタジー物で見るような石造りの白亜の城だ。
廊下の中央には赤いカーペットが敷いてあり、基本的にこの上を歩く。
壁の両サイドには等間隔に電球のような魔道具が設置されており、その明かりに照らされた道を二人で進んだ。
前回来た時に城の構造はある程度は教えてもらっており、その時の記憶を引っ張り出して目的の場所まで向かう。
目的地は二か所で、それぞれ城の上層部付近にある部屋だ。
片方は国王の書斎でもう一つが第二王女リリィの私室。
アポイントメントは無いがこの時間であればどちらも起きているだろうと思い、僕は尋ねることにしたのだ。
階段をどんどん上って城の最上階付近まで上がる。
階段から出てみれば、そこの絨毯は下層のものよりも数段上質なものに変わっており、壁の照明用の魔道具もより明るい。
階段から左に少し進んで突き当たった丁字の角を今度は右に曲がって少し進む。
その突き当りにあったドアが一つ目の目的地だ。
ただ、そこには全身武装した騎士二人が通路の両側に立っていて警備をおこなっていた。
「何者だ!」
二人の騎士は手に持っていた槍をこちらに突き出して尋ねる。
隣で華奈が心配そうな視線を僕に向けているが心配はいらない。
僕は、事前に準備していた金色のメダルを騎士へと提示した。
それを見て、片方の騎士が槍を下すとそのメダルを確認するために顔を近づける。
「これは……リリィ第二王女殿下のメダルですね。
確かにここの通行許可は下せますが、来訪者のお話はありません。
国王陛下の方に確認を取りたいのですがお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
やはり、アポイントメントが必要だったようだ。
ただ、話だけは通してくれるそうなので僕はナギとだけ名乗る。
それを聞くと一人の兵士が扉をノックして中へと入っていった。
そのタイミングで横に居た華奈からわき腹をつつかれた。
「そのメダルは?」
「この国の王族がそれぞれ発行する信用の証みたいなものかな。
これがあれば国王とそれを発行した王族に面会ができる。
ちなみにこれはリリィが発行したメダルでリリィのメダルは今のところこの一つだけなんだ」
「凄いメダルだったんだ」
「うん。そうだよ」
そんな話をしている間に先ほど部屋に入っていった騎士が扉から出てきた。
「お待たせいたしました。
国王陛下より許可が出ましたのでお通りください」
それを告げると、二人の騎士はそれぞれ通路の脇に寄って槍を片手で持つと空いた手で敬礼をおこなった。
二人でその騎士に軽く会釈をおこなってから扉の前に立つ。
そして、僕は軽くノックした。
「入れ」
ノックからすぐに返事が返って来た。
返事を聞くと扉を開けて僕と華奈は国王の書斎に入室する。
「おお! ん?
ナギ君、で間違いはないのかね」
「はい。
三年前に数か月滞在させてもらった冒険者のナギです」
と、ふとなぜ驚いたのかの理由に思い当たった。
僕は<アイテムボックス>から一枚の外套を取り出す。
それは、この世界にいた時にはずっと着ていたローブだ。
このローブはLランク冒険者ナギの代名詞にもなっている。
それを羽織ったところで国王の懸念は払拭されたようだ。
「久しぶりだね、ナギ君」
「ええ、お久しぶりです。
今回は予想外にも召喚されてしまいましたね。
突然の訪問のことは……驚かせたかったのでドゥルヒブルフ神には黙ってもらいました」
「全く、驚かされたよ。
あの後、いくら調べても素性が全く分からなかった上に、ドゥルヒブルフ様からは問題は無いとだけ言われていたものだったから。
まさか、異世界の者だったとは」
「あ、ははは……。すいません。
神の方に少々伝手があったもので。
あまり口にすべき話ではないでしたのでね」
「ああ、その通りだな。
それで、何か用事があるのか」
「ええ、今回の召喚に関してで少し話が……」
僕は今回の召喚されたのが自分の意志ではないこと。
そして、何らかの要因(恐らくは邪神がまた現れたであろうこと)があることを伝え、個別行動の許可を求めた。
「了解した。
またもや邪神か……。
一応、こちらもドゥルヒブルフ様と共に探っておこう」
「ありがとうございます。
まあ、勇者自体は別の人なんで魔王に対しては彼が何とかしてくれると思います。
一応、サポートに入る準備はしておきます」
「魔王の方は彼らに頼むとしよう。
それで……ずっと気になっていたんだが隣の女性は?」
「あ、紹介していなかったですね。
彼女は妻の華奈です」
「な、凪の妻の華奈です。
よろしくお願いします」
「そうか、ナギの嫁か……。
うむ。
こちらこそ宜しく」
なんだか歯切れの悪い返事だ。
とはいえ、話すべきことは終わったのでそろそろおいとまさせてもらおうと思う。
「じゃあ僕達はこれでしつれいします」
「ああ、分かった。
最後に、一つだけ良いか。
リリィからネックレスを渡されていると思うが持っているか?」
「え?
はい、この通り胸につけてますよ」
その質問に対して多少の疑問を覚えたが、とりあえず首に掛けていたネックレスを見せる。
「ふむ。問題ないか……。
ナギ君、ここだけの話だがリリィに帝国の第一皇子との縁談の話がある」
「リリィに?」
予想外の話だった。
ただ、帝国との関係はそんなに良くないし、怪しい動きをしているということだったのでちょっと話は裏があると考えられる。
「ああ、そうだ。
まあ色々あって断ることにしたがな」
「そうなんですか」
「ああ、まあ一番はこの国の王族の慣習によるものだな。
ただ、詳しい話は本人から聞いてほしい。
本人の口から聞くべき話だと思うからな」
どうにもぱっとしない説明だが、次にリリィのところに行くのですぐに分かる。
「? わかりました。
では今度こそこれで」
「ああ。
どのような結果を出そうとも何も口を挟みはしない。
ナギ君の選択を尊重しよう。
では、また来るといい」
最後の最後まで謎の思わせぶりの言葉を残した。
リリィの話に関係するだろうことは察せたので心の中に留めて二人で部屋を後にした。
「じゃあ、リリィの部屋に行こうか」
「うん♪」
部屋を出て緊張感が解けたのであろうか、華奈は国王様の部屋にいた時より明るい。
僕と華奈はそれから同階にあるリリィの部屋へと向かった。
そして、数分後。
その後を追うように国王クルスの書斎から出てきたメイドも第二王女リリィの私室へと向かうのだった。
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