第2話 三年の月日

「凪~、時間だよ!

 早く~!」


「うん。

 すぐに行く!」


 神皇となって約三年の月日が経過した。

 現在は第三世界線根源世界“地球”、つまり元々の世界で高校に通っている。

 今は高校三年生だ。


 僕に声を掛けている女性は生まれた頃からの幼馴染みの華奈だ。

 何と言うべきか……、十八歳の誕生日の日に色々すっ飛ばして結婚をしたため僕の妻ということだ。

 まあ、神皇の嫁という扱いになるにあたって色々なことが起こった。

 最終的には晴れて華奈は神姫、つまりは神の嫁という立ち位置となったのだ。

 この話はおいおいするとして、僕たちはそれぞれの両親の勧めで学校の近くに家を借りて二人で同居生活をしている。

 神皇としての役目も華奈結婚してからは一緒に神皇の仕事を何度かこなし、生活にも慣れてきたところだ。


「華奈。

 お待たせ」


 既に靴を履いて待っていた華奈に一言声を掛ける。

 その後、ドアの鍵をしっかりと閉めると家を出発した。

 今日は雲があまりなく、太陽の光が満遍なく街を照らしている。

 僕たちが歩く並木道の木々は緑に覆われていて、歩道に大きな影を下ろす。

 セミの鳴き声が聞こえ始め、夏が近づく中で道に影ができるのは嬉しい。


 家を出てから二十分ほど歩いてビル群に囲まれた大通りを進み、曲がり角を曲がった先のちょうど突き当りには、多くの学生が登校していく門がある。

 そこが、僕たちの通う月野宮高校だ。


 月野宮高校は都内にある学校で、学力は上の下くらいの中高一貫の学校。

 生徒数は各学年六百人程で全体としては三千人を超える。

 都内にしてはかなりの土地を確保しており、本校舎、特別教室が揃った東館、図書館や食堂のある西館、部活動の部室が集まる部室棟、校庭、体育館と道場が二つに弓道場と豪華な施設がそろっている。


 今は七月で、定期テストは終了し向かうところは夏休みということで校舎は賑わいがある。

 校門を抜けて少し歩いた昇降口へと向うと靴を履き替えて自分の教室にいく。

 僕と華奈は同じクラスで三年A組。

 校舎本館、最上階である四階の左側一番奥に教室はある。

 階段を上って左に進み、後ろのドアから教室に入ると僕たちの今の席である窓側の後ろ二つに向けて一直線に向かった。

 席に着いて、辺りを見渡せばもう登校時間ギリギリになっていたようで生徒はほとんど登校を済ませていてそれぞれの集団ごとに集まって話しをしている。

 僕たちが教室に入ってから二、三分。

 始業のチャイムが敷地内に鳴り響いた。

 それを聞いた生徒達は急いでそれぞれの席へと着席する。


「朔月くん、華奈ちゃん、おはよう」


「福村さん、おはよう」


「おはよ~。碧」


 挨拶をしてきたのは華奈の隣の席の福村碧。

 僕と華奈はそれぞれ挨拶を返した。

 その後、凪は隣の席の日村一輝にも声を掛ける。

 その時、勢いよく教室の前のドアが開きこのクラスの担任村瀬頼が入って来た。

 村瀬先生により、出欠確認と諸連絡をおこない朝のHLが終わる。

 村瀬先生はそのままドアから出ていき、代わりに一限の教科担任が入って来て今日の授業が始まったのだった。


 それから約六時間後、今日の授業がすべて終了した。

 今日の授業は、一時間を雑談で潰してくれた先生がいたので気分的にはけっこう楽だったと思う。

 そうして、一日中授業を受けながら色々考えていたら、気づいた時には本日最後の授業終了のベルが鳴った。

 僕と華奈は何の部活も入っていないので授業が終わるとすぐに、帰路についた。





 その日の夜、僕は華奈と一緒に夕飯の料理をしていた。

 その時に、来客を知らせるチャイムが鳴る。

 同時に反応し、華奈と目を合わせると僕は料理の続きを華奈に任せて玄関へと来客を確認しに向かう。

 ドアを開いたそこに立っていたのは前第三世界線神皇の真美さんだった。


「あ。

 真美さん、お久しぶりです」


「凪君も久しぶり。

 今日は伝えたいことがあったから来たの。

 時間は遅いし、やめておこうとは思ったんだけど……。

 久しぶりに直接会っておきたいと思ったから」


「構いませんよ。

 まあ、取りあえず上がって下さい。

 それとこれから夕飯なんですが一緒にどうですか?」


 幸いにも料理はいつもちょっと多めに作ってある。

 と、言うのも異世界に行ったときに料理の手間を省くためにコツコツ多めに作っては食べなかった分を<アイテムボックス>に収納して備蓄しているのだ。

 真美さんを家へと上げるとリビングへと案内し、待ってもらうことにした。

 真美さんを連れてリビングのドアを開けて中に入ったところ、併設されているキッチンより華奈が出てくる。


「凪~。誰だった~? 

 って、真美さん。お久しぶりです!」


「華奈ちゃんも久しぶり。

 久しぶりに二人に会いたいと思って、今日は連絡があったからちょうどいいと思ってお邪魔させてもらったわ。

 それと、凪君にも勧められたしせっかくだから夕飯もご馳走になるわね」


「そうなんですか。それじゃあすぐに準備します!

 ちょっと待っててください。

 それじゃあ、凪、完成したから運ぶの手伝って」


 僕はそのままかなと一緒にキッチンに入り料理が盛り付けられたお皿をリビングにあるテーブルに運ぶ。

 テーブルにはどんどん料理が並べられ、すぐに準備が整った。

 そして、僕と華奈もイスに座って食事が始まる。


 僕たちはお互いの近情などを話しながら楽しく食事の時間を過ごした。

 食事が終わってからは、片付けくらいは手伝いたいということで真美さんも加わったことで片付けの速度はとても早かった。

 それから片付けを終えて、お茶を入れると僕たちは再び席に座ると一息つく。

 そこで、真美さんから今日の本題の話を聞くことになる。


「それで真美さん。

 話って何ですか?」


「茜に伝言を頼まれてね、“アルメア”で魔王が出現したらしいの。

 ドゥルヒブルフ王国が数日以内に集団型勇者召喚をおこなうようね。

 それで、茜からの伝言なんだけどその魔王に邪神が絡んでるみたいで、そろそろリリィちゃんに会うのと合わせて対応してほしいそうよ。

 今やっている別件が長期なうえに目が離せないそうで、できれば向こうに行くだけでもいいからしてほしいみたいね」


「そうですか……。

 ちなみに、僕が行く場合には真美さんにサポートに入ってもらえますか?」


「ええ、もちろん」


「分かりました。

 じゃあ、数日以内に“アルメア”に向かいます」


「よろしくお願いするわね」


 それから、帰ると言う真美さんを玄関まで二人で見送った。

 リビングに戻ると、僕は“アルメア”との関係を話しながら華奈と一緒に現時点での情報を整理した。


「華奈は僕と一緒に来る?」


「え、もちろん。 

 凪と一緒に行く以外に何があるの?」


 と、華奈は何を聞いているのかと言うような顔をして返事をしていた。


「そうだね。

 じゃあ、取りあえず荷物の準備を始めよっか」


 出発を三日後に決めると、とりあえず必要なものを今準備できるだけ用意することになった。

 異世界へ渡る準備は主に武具とアメニティグッズ、食料などで武具は基本的に<アイテムボックス>に常備されている。

 アメニティグッズも家に常備してあるもので十分だ。

 食料はある程度は保存してあるのだが、期間も分からないのでもう少し仕入れたいところである。

 そのため、明日の学校帰りに買い出しに行くことに決めた。

 その後は、明日も学校があるということで華奈と一緒に早めに就寝したのだった。





 翌朝、いつも通りに家を出発した二人は時間通りに学校に到着した。

 だが、いつも通りだったのはそこまで。

 一限開始のチャイムが校舎に響き渡り、少し遅れて凪たちの三年A組に入った強化担当の教師が目にしたのはいつもは綺麗に並べられていた机と椅子がバラバラになっており、机や床にカバンやノート、文房具などが散乱している誰もいない教室だった。

 その教師によると、床が少し光っていたという。

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