第13話 別れとネックレス

 グフッ


 翌朝、自分のテントの中で寝袋に入り寝ていた僕の体に強い衝撃が襲い掛かってきた。

 その衝撃を受けて一気に目が覚める。

 目を開けてみれば辺りは明るくなっていた。

 そうして、視線を自分の体の方に移せばリリィが僕に抱き着いてきている。


「ナギ様! おはよ~ございます!

 起きてくださ~い。朝ですよ~」


 上に乗ったリリィはその状態で右に左にと僕の体と共に揺れる。

 リリィの動きはけっこう大きく、すぐにたまらなくなり起き上がる。


「うん。おはよう、リリィ。

 それで、……降りてくれないかな?」


 その後も、リリィは僕の上で暴れ続ける。

 それから紆余曲折を経てリリィと一緒にテントの外に出れば既に朝食の準備が出来ていて、朝食を摂った。


 朝食を終えるとすぐに出発の準備が始まる。

 僕の方も一緒に出発するための準備を整え始めた。


 昨晩の食事の際に、改めて僕の目的を話を話した。

 僕の目的地が王都であることを伝えればリリィが一緒に行きましょうと言うので、色々話し合った結果、僕も護衛として一緒についていくことになった

 そして、出発した僕はなぜだか分からなかったがリリィの指示により、リリィの隣で馬車に揺られ王都への道のりを進んだ。





 時は早々と過ぎていき、僕がこの世界にやってきてから五か月が経った。


 王都のギルドでも情報は中々集まらず、邪神の位置をやっとのことで確認した。

 その間にも、様々なことがあった。

 一番の問題は泊まっていた場所だ。

 僕は五か月の間ずっと王城の客室に泊まることになった。

 なぜ、王城で止まることになったのか。

 これはリリィによるところが大きいだろう。


 リリィと一緒に王都に向かった日、そのまま王城までリリィに連れ込まれ、あれよあれよと玉座の間で国王陛下と謁見することになった。

 さらに、そこにはたまたま来ていたドゥルヒブルフ神が居たのだ。

 ドゥルヒブルフ神は真美さんと茜さんから話は聞いていていて、多少のサポートは許可されていたようで、邪神の位置の補足を手伝ってくれることになった。

 それだけでは無く、ドゥルヒブルフ神はリリィの邪神を発見するまで僕を城に泊めるという意見に賛同し、城で過ごすこととなったのだ。


 情報集めに通ったギルドでは中々情報が入ってくることが無く、さすがにそのまま帰るのは忍びなかったので依頼を毎回受けていったのだが、ひたすらにランクが上がっていくだけであった。

 これは、僕が現状を見て解決できなさそうなものを選んで受けていたというのも原因の一端にはあると思う。

 登録時のランクはBだったのだが、受けた依頼一件に当たる難易度が高かったのでその分、ランク昇格に必要なポイントが集まる。

 また、邪神の影響からか滅多に無い超高ランク依頼も数件発生していたためランクは依頼達成のみであがる最高ランクSSに約三か月で到達した。


 そして、一か月前に色々とあり最高ランクまで到達した。

 魔獣ベヒモスがドゥルヒブルフ王国王都近郊に現れたのだ。

 王国軍や冒険者たちが動員されることになったが、そこで僕がほとんど単独で討伐してしまった。

 それに合わせて、リリィのお願いに答える形となった国王陛下がLランクへの昇格条件の一つである推薦を出したのだ。

 そして、その他にあった条件も既に満たされていたようでLランクへの昇格が決定した。


 それ以外で特別なことと言えば城での生活だろう。

 城に居る際にはほとんどの時間において横にはリリィがついて来ていた。

 そのため、何度かリリィの家族の食事にも招待されたのだ。

 リリィの家族構成は国王様と王妃様、そうして兄三人に姉が一人で、王子たちに頼まれて剣の扱い方や魔法を教えれば熱心に聞いてくれてかなり親しくなった。

 そういったことも、Lランクの推薦をくれた後押しになったと思っている。


 そして、本題の邪神だ。

 最初の二か月ほどは眷属の魔物はリリィを襲っていたオーガが最も強くいもので、報告のあった中では眷属化ゴブリンがせいぜいだ。

 四か月目に入った頃に状況は一変してオーガの出現が多くなり、さらには近くの森に存在する固有種の眷属化も確認された。

 ただ、それが邪神の位置特定の最後の一押しとなる。

 その後は、固有種の存在する森の中に的を絞り、おおよその位置をドゥルヒブルフ神と共に割り出すことに成功した。





 邪神の位置を特定した翌朝、ドゥルヒブルフ神と共にそれを国王陛下へと報告し、城を出ていくことを報告する。

 国王陛下からは五か月間の感謝を伝えられると共にこの国に残らないかとの提案を受けたのだが、この世界にずっといられるわけでは無かったので断った。

 国王陛下への挨拶を終えると、今度はリリィの部屋へと向かう。

 王城の至る所には警備の騎士がいるが、城内の自由移動、及び侵入に許可がいる場所に入る場所への許可証として王族それぞれが発行する金のメダルをリリィから貰っていたため一人で動き回ることができる。

 そのため、ドゥルヒブルフ神と分かれた僕は一人でリリィの部屋に向かった。

 リリィの部屋に着くと、僕はいつも通りにノックして中に入る。


「リリィ、時間大丈夫?」


「はい! 今日はなにもないので大丈夫です」


 リリィは部屋の中で本を読んでいた。

 だが、僕の声を聞いてすぐに本を閉じると笑顔で僕の方に寄ってくる。

 とりあえず、リリィと一緒にイスに座りなおすとすぐに本題を切り出す。


「突然だけど、僕は今日でここを出ていくことになった。

 リリィには話してあったと思うけど邪神の位置が分かったんだ。

 だから、僕の目的のために討伐に向かう」


「え!?」


 リリィはそれを聞いて表情を固めた。

 僕としてもリリィといるのは楽しかったのでこの時間がもっと続いてほしいとも思っているが、やはり、何事にも終わりと言うものはやってきてしまう。

 リリィの頭を撫でながら僕は言葉をつづけた。


「リリィと一緒に過ごすのは楽しいよ。

 ……ただ、僕にはやらなければいけないことがあるんだ」


「……」


 リリィは下を向いたまま黙り込んでしまった。

 僕は掛ける言葉が思い浮かばず、ただ頭を撫で続ける。

 が、そこで何かを思いついたのかリリィは涙をこらえた目をしながら顔を上げた。


「そうだ! 

 ナギ様にこれをあげます」


 リリィは自分の首に掛かっていたネックレスを外すと僕の首へと掛ける。

 ネックレスにはリリィの髪の色と同じ空色をした宝石が嵌まっていた。

 僕はそれを手で持ち上げるとしっかりと握りしめる。


「ナギ様はここに戻ってきますか?」


 僕にはその問いを答えることができなかった。

 ここは第五世界線であり茜さんの管轄だ。

 管轄が違うため、またこの世界に戻って来れるという保証は無い。


「分からない。

 けど、リリィがそれを望むんだったらいつか絶対に戻って来るよ」


 僕のその言葉を聞いてリリィは少し下を向く。

 だが、何かを決意したのか力強い目をしたリリィが僕の方をみて言った。


「絶対ですよ!

 絶対、絶対、絶対、ぜ~ったいですよ!

 私は、永遠にナギ様のことをお待ちしていますから!」


「うん。

 絶対戻る」


 僕はリリィにしっかりと目線を合わせてそう答えた。

 そして、部屋を出る直前にリリィは笑顔で僕のことを送り出してくれる。


「ナギ様、お気を付けていってらっしゃい!」

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