第12話 第二王女
腕にくっついたまま離れない少女をそのままにして、代わりに魔法を見て呆けていた三人の騎士を復活させた。
「はっ。ま、魔物は……。
そういえば、黒髪の男が魔法で……。
て……、え、ひ、姫様!
何をしておられるのですか?」
「アイラ、私は魔法使い様に感謝しているだけです。
ええ、それだけです。
気にしないでください!」
腕に抱き着いているお姫様は自分の騎士にそう釈明した。
ただ、騎士の方は必死だ。
「姫様! そんな事をおっしゃってないでとりあえず、こちらにお戻りください!
姫様の身に何かあったらどうされるのですか!」
「この魔法使い様は大丈夫です。
私が言うんだから大丈夫です!」
姫様の釈明の押しは強く、僕の腕を掴む強さも強くなっていく。
それを見ていた騎士も呆れ顔をしながら折れたようであった。
「はぁ……分かりました。
すいません、魔法使い様、姫様のことはそのままでお願いします」
そう言って騎士は綺麗に一礼した。
お姫様は、引き続きこのままのようだ。
「あ……そう言えば自己紹介が遅れてしまいました。
私はドゥルヒブルフ王国第二王女直属騎士団【蒼】の団長アイラ・プリミラ。
そうして、魔法使い様の腕にくっついていらっしゃるのが、この国の第二王女のリリィ・ドゥルヒブルフ・フィアル殿下です。
ご助力、感謝します」
それから、腕に抱きついていたお姫様、この国の第二王女が僕の腕を離して
一瞬にして少女の雰囲気が気品のあるものに変わるとスカートの裾をつまみ上げて自ら挨拶をする。
「改めまして、私はこの国の第二王女。
リリィ・ドゥルヒブルフ・フィアルと申します。
どうぞ、リリィとお呼びください。
それで、魔法使い様、名前をお伺いしても良いですか?」
「Bランク冒険者のナギ・ノイントです」
僕は、そう名乗った。
この世界では日本式である苗字、名前の順は存在しない。
また、和名自体もあまり浸透していないため目立つと思ったので冒険者登録をする際に異世界で使うミドルネームがあったので、先ほど名乗ったナギ・ノイントとして登録してある。
「ナギ様、ですね。
ありがとうございます。
先ほどの魔法、凄かったです!」
先ほどの気品はどこにいったのやら見た目相応であるまだまだ子供らしい態度に戻り再び僕の腕に抱き着く。
アイラさんも何も言えずに苦笑している。
ただ、アイラさんも騎士の職務上やらなければならないことがあるそうでお姫様をそのままに話しかけてきた。
「ナギ様、すいませんが確認の為に冒険者証を見せてもらっても良いですか?」
<アイテムボックス>にしまっていた冒険者証を取り出して手渡した。
冒険者証は小さな魔石と金属製のプレートでできており、基本的な情報はプレートに刻まれているがステータス確認は魔石に魔力を流すことで自身の現在のステータスを表示できる作りだ。
それを受け取ったアイラさんは冒険者証に一通り目を通した。
「はい、問題ないですね。
こちらはお返しします。
それで、ご提案なのですが、ナギ様、野営をご一緒にされませんか?
もう辺りは暗いですし姫様もナギ様と一緒におられたいようですしどうでしょうか?」
断ることを許さないような気迫。
そして、真下からは期待の目線。
僕はその提案に即座に頷いた。
そして、一緒に野営をする事になり、僕は手伝うと申し出をしたのだが、私たちでやるから大丈夫だということで騎士三人は言い張り、既に作られていた焚き木の傍にイスを二脚並べると僕にリリィ王女の相手をしておいてくれと言われたので二人でそこに座る。
暇になった僕はリリィ王女と話をすることになった。
「リリィ王女はどうしてこんなところに?」
「む、リリィです!
リリィって呼んでと言いました!」
リリィ王女はぽかぽかと僕の右肩辺りをポカポカと音がつくような感じで叩いてくる。
さらには頬を膨らませているため怒っているのであるが可愛さが勝っているようにしか思えない。
「すみません。
リリィ王女」
「もう! 敬語も不要です!
今度こそリリィって呼んでくださいね!」
顔を近づけてそう迫ってきたのでたまらずにリリィ王女の肩を掴んでとりあえず座らせる。
本人はずっといたってまじめでありかなり怒っているようだった。
僕自身は初、王族の相手だということで失礼が無いようにという想いが強い。
ただ、リリィは何度も言ってくるためよほど呼び捨てにしてもらいたいのだろうとも思う。
一瞬の内にそんなことを考えてからアイラさんの方を向けばニッコリと頷いてくれた。
僕はそれを許可だと捉え、リリィと呼び捨てで読んであげることに決断する。
「リリィ」
「はい!」
名前を呼んだ瞬間に即答が返ってきた。
さっきまでの怒りっぷりはどこにいったのやら今のリリィは打って変わって笑顔に変わっている。
「リリィはどうしてこんなところにいたの?」
今回のことは機密だそうだが、僕のお願いだからとすんなりとリリィは答えた。
リリィたちはお忍びで行ったマルスリオン帝国からの帰り道だそうだ。
日のお昼過ぎに五十人程の野盗の集団に襲われたがリリィ直属の騎士団【蒼】の人たちがすぐに制圧した。
ドゥルヒブルフ王国では野盗は基本的に街まで連行することになっているそうで、今回襲ってきた人たちも街まで連れていかなければいけない。
ただ、さすがに人数が人数であり、リリィの進行速度に合わせて連行は出来なかった。
そこで、街が近かったため野盗を連行するため六人の団員の内の半分の三人が捕獲した野盗を後から連れてくることにしたそうだ。
ただ、その時に時間を掛けすぎてしまったようで今日には街に着く予定だったのが到着できなかった。
そこに、運悪くあの強いもやを纏った魔物に遭遇し、僕と出会ったというのが今回の経緯だそうだ。
魔物相手に六人いれば今回、苦戦することは無かっただろう。
ただ、不幸が重なっただけだと言える。
「そうだったんだね。
う~ん、リリィは何歳なの?」
「十二歳です!
ナギ様はおいくつなんですか?」
「十五だよ」
一瞬、リリィの目が大きく開いたかのように見えた。
が、直後には普段通りだったので気のせいだったのだろうか。
僕がそんなことを考える間にもリリィは話を続ける。
「わぁ、二年しか変わらないのにとっても強いんですね。
そういえば、ナギ様はどのような目的でこちらにおられるのですか?」
「ああ、うん……と、」
僕の目的を教える上でけっこう教えられないことが多い。
そのため、忍びないが話を作る必要があった。
作った話は纏めると以下のようなものだ。
僕は秘境で師匠に戦闘とか魔法の事を教えて貰いながら修行してた。
それで、最後の試験として師匠の本来の職務である邪神を倒して来いって言われ、僕がその邪神の討伐をしに来たという話だ。
秘境は“花園”、師匠は真美さんと茜さん。
そう置き換えれば嘘でもない話にもなる。
「邪神、ですか……」
リリィはその話を聞いて思慮に耽る。
と、そこに野営の準備を終えたアイラさんが話に入ってきた。
「私たちの国には神様がおられますがまたそれとは違ったものでしょうか?」
「神様、ですか?」
「そうなんです!
ドゥルヒブルフ様って言って私たちの国を創った神様なんです。
それと、たまにきていろんなお菓子をくれるいいおじさんです!」
リリィは僕の質問を聞いて即座に反応した。
アイラさんの言っている神とはこの国を創った神のことであろう。
普通に神が人間界にいる世界もあるので、リリィの言っていることは間違いない。
「ええ、姫様のお話に一切の嘘は御座いません。
ドゥルヒブルフ様はたまに王城の方に来られては国の状況を確認していかれます。
国を創られた神様ですから気になるのでしょう」
アイラさんは一言そう補足を入れてから僕とリリィに夕食を渡してくれる。
そうして、リリィたちに混ざって食事を開始した。
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