第9話 最終試験

 僕が特訓を始めてから“地球”の時間で一年が経過した。

 ちなみに、僕は中三になり受験生である。

 そのため、勉強を頑張らなければいけない……ということになっているわけでは無く、記憶力系統が強化されているため、しっかりと授業を受けて家ではその応用問題を解いていれば受験対策としては問題ない。

 まあ、そんなことは置いておいて思い返せば、次期神皇として任命されたのもけっこう昔のことのように思える。


「今回で遂に神皇の正式な代替わりをおこなうわよ。

 だから、最終試験をやるわ」


 遂に教えることは無くなり、代替わりをおこなっても問題ないと真美さんは判断したようだ。

 ただ、いきなり仕事を僕がやってもうまく回らない可能性もある。

 そのため、いちど一人で実際にやってみようということだ。

 加えて、僕の能力の確認も一緒におこなう。

 早速、真美さんに連れられ僕は転移することになった。





 転移が終了した瞬間、僕の目を茜色の光が突き刺した。

 そのまぶしさに反射的に目を閉じ、状況を理解した所で再び目を開く。

 真正面に見えたのは綺麗な夕焼け。

 足元には一面に花が咲いており、夕日を浴びて燃えているようにも見える。

 そして、この光景には一部の違いがあれど見覚えがあった。


「ここは……“花園”?」


「正解。

 まあ、正確に言うならここ“花園”」


 背後から声がする。

 突然のことに少し驚いたが、すぐに後ろを振り返る。

 後ろにいた真美さんの隣にはもう一人女性が立っていた。

 この花園に浮かぶ夕日と同じような温かみを持った緋色の目。

 足元にある花に引っかかるか引っかからないか位の長い黒髪は夕日を浴びて美しい輝きを見せている。

 そして、緋色の和服を着ていた。


「君が凪君?

 私はこの“花園”の主、第五世界線神皇《薄暮》日暮茜。

 よろしくね」


 そう言ってニッコリとほほ笑んだ。





 それから、僕も一応名前を名乗ると真美さんからの話が始まった。

 事の始まりは一年前。

 僕が後継者になってすぐのことだ。

 世界線が十あるということは既に教わっているが、それぞれに神皇がおりその十人が集まる集会があった。

 そこで、世界システムと呼ばれるものからの意思表示があったそうだ。

 これは、考えられないがおよそ一億年ぶり位のことである。


 世界システムと言うのはすべての世界のすべての情報が集約されたものでリアルタイムで情報が更新され、<鑑定>などの情報を調べる系のスキルはここから情報が来ている。

 他には、称号を付与しているのも世界システムだそうだ。

 ただ、実態は不明で存在する場所すら分かっていない。

 情報を集約するだけではなく、意思が存在するようで過去何度か意思を示したことがあったそうだ。

 ここの情報は神皇とそれに許可された者であれば自由に見ることができる。

 見る方法は、スキルと同じように頭の中で世界システムを意識すると接続でき、そこで世界ごとに分けられたファイルを見ることができる。

 二種類の情報を見る方法があり、世界のステータスを見る方法と直接探す方法。

 ステータスの方はその世界の基礎情報で住んでる種族や国家、地図、後は軽い国ごとの歴史と使用通貨などが分かりやすくまとめられている。

 もう一つの直接見る方法は世界の全ての情報を細部まで確認できる。

 時間や場所などは大まかに分かれていて、そこからは知りたい情報を細かく確認できる。

 情報量は膨大であり、特定の一つの情報を見つけ出すには砂漠の砂の中から米粒を拾うなんて比じゃないほど難しいらしい。

 情報は常に入ってきているため、情報の多さから脳がやられる可能性もあるため十分注意してほしいそうだ。


 と、話はそれたが続きだ。

 その場で通達された内容は僕のことだそうだ。

 内容としては、僕が全ての世界線を統括するようになる、とそのようなことを示唆したような抽象的なもの。

 これが初めてでは無く、同じような通達は今までで九回あった。

 ただ、そのすべてが叶うことは無かったそうだ。

 それを踏まえて十人の神皇で話し合い、二つのことが決定した。

 第一に凪君を第三世界線神皇にすること。

 第二に凪君にはそれぞれの世界線の神皇が対応しきれない部分を補う。

 これは、それぞれの神皇から要請があるためそれに答えていけばいいそうだ。

 ちなみに、他の世界線に行っている間は真美さんが代理として第三世界線の補助に入る。

 この二つを僕が引き受けることになった。


 そして、最後に真美さんから最古参の神皇から僕に伝えるように言われた言葉があった。


 ――自分の信念を突き通せ





 と、そんな前提が話された上で最終試練の話になった。

 最終試練に関しても世界システムの意志が反映されており、第五世界線の内の一つの世界でおこなうことになった。

 そうして、今回の目的が茜さんの口から語られる。


「私が凪君に頼みたいのは潜伏している異世界の邪神の討伐」


 今回の目的地は第五世界線幹根世界“アルメア”。

 約百年ほど前、ある世界を滅ぼそうとした邪神がその世界に訪れた勇者の手で世界と世界の間である世界の狭間と呼ばれる場所に封印されたまま放棄された。

 世界の狭間のものは基本的に徐々に崩壊していく。

 しかし、封印の強度が強かったため、封印はそこまで崩壊することなく漂い続け、“アルメア”と言う世界に衝突し、封印ごと侵入した。

 その衝撃で多少崩れかかっている程度だった結界が崩れたそうだ。

 そのため、現在において邪神は“アルメア”で潜伏している。

 さらに厄介なことに、邪神は元々九体おり、それらが統合してできた存在として封印されていたのだが衝突の衝撃で分離し、“アルメア”の中で散り散りになっているそうだ。

 世界に悪影響をもたらすため即排除しなければならないが、未だにどの邪神も討伐できていない。

 それどころか、微妙に封印が残っていた影響で所在地が確認できていないそうだ。


「その九体の討伐ですか?」


「ううん、そこまでは求めないよ。

 今回はその内の一体の討伐をお願いしたい。

 その一体だけ大まかな位置が捕捉できたから」


 神の討伐それが今回の試験内容だ。

 前に真美さんに聞いたことだが神を相手にすることが地味に多いらしい。

 それを踏まえての今回の試験だろう。

 試験と言いつつも内容は本番の仕事と変わらない。

 その世界に住む人のためにも失敗はできない。


 茜さんの説明が終わると、真美さんが一本の剣を差し出してくれた。


「これは、神装・アルア。

 私が作った剣よ。

 ちょっと早いけど正式に神皇を名乗るようになることへの私からのプレゼント。

 思ったように形状を変化させるスキルが付与してあるから上手く使いなさい。

 後は、自分で思い思いの強化をするといいわ」


「ありがとうございます」


 受け取った剣を鞘から抜くとうっすらと金色を纏った白金色の刀身が出てくる。

 気になったので試しに、魔力を流しながら短剣をイメージしてみた。

 すると、光に一瞬包まれると光が元の剣の大きさよりも小さくなりながら消えていき、そこには想像通りの形状になっている剣があった。


「真美さん、ありがとうございます」


「じゃあ、私からも」


 今度は茜さんが一つのリュックをくれた。


「これは着替えと食料、野営道具のセット。

 おまけで向こうの通貨ね」


 これから“アルメア”に行くのに便利なセットが入っていた。

 服に関してはふさわしいものを追加で真美さんがいれたとのことで少し気になる。


「茜さんも、ありがとうございます」


「じゃあ、そろそろ行くわよ」


「はい、お願いします!」


 そうして、僕は目的の地。

 第五世界線の幹根世界“アルメア”に転移した。

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