第8話 殺す覚悟
日が昇ってから三十分ほど経った頃だろうか。
テントの中で目を開いた僕は寝袋から出るとテントを後にして真美さんの横に座った。
「一晩過ごしてみてどう?」
「そうですね。
まあ、やっていけそうです」
「それなら良かったわ」
真美さんはそう言いながら昨晩の食事の残りを温めなおしたものを渡してくれた。
僕はそれを受け取って口にする。
「それで、今後のことなんだけど――」
今後は今回のように異世界に来て魔物を倒すことや野営などの実習をおこなっていくそうだ。
また、森などで魔物を探索する方法なども教えてくれるらしい。
最終的な目標は異世界でも浮かないような知識を付けることと、盗賊などの人を殺せるようになっておくことだそうだ。
そんな話をしながら朝食を食べ終えると、今度は拠点の片付けの方法を教わりテントなどを収納し、移動の準備を整える。
そうして、昨日に引き続き魔物を倒す特訓として再び森の中へと入っていくのだった。
それから、一泊二日の異世界での特訓を十回ほどおこなった。
そして、ついに最大の目的を達成させる日がやって来たのだった。
僕はいつも通り真美さんと異世界に移動してきた。
前回の最後に教えることは一区切りついたようなことを言っていたので今回何をおこなうのかは一切分からない。
「今回は何をするんですか?」
「そうね。
盗賊を壊滅させようと思っているわ」
「……ということは」
「そう、お察しの通り人を殺してもらおうと思うわ」
遂にこの時が来たようだ。
ただ、これまでに時間的な猶予は週に一回程度の特訓なので三か月以上あったため心構えは出来ている。
そうして、盗賊のアジトの近くに向かうということで再び転移することになった。
二人が転移する少し前。
とある街と街を繋ぐ街道沿いの森の中を進んだ所に地下へと向かう洞窟の入り口がと大口を開けている。
入り口の辺りは軽く木々が円形に開けており、その周りは低木が意図的に生やされているようでかなり近づかないと洞窟が分からないように細工がされていた。
ガサガサ、ガサガサ
そこに、木々を掻き分けて迷わずに洞窟へ向かう集団が現れた。
「お頭、今回はかなりの儲けでしたね」
「ああ、そうだな」
「しかし、あんなボロボロな馬車で大量の宝石を運んでいたなんて、お頭の指示が無ければあんなの見過ごしてましたよ」
「ははは、そうだな。
なんたってこの俺はここら一体で名を馳せる錆鎌盗賊団の頭のディッタ様だからな!」
「よ! お頭」
「ははは、そんなに褒めるな」
お頭と呼ばれる男が率いる約二十人ほどの集団は近隣で名を馳せる錆鎌盗賊団の実働部隊だ。
錆鎌盗賊団は森の中の洞窟を拠点として盗賊活動に励んでおり今回も襲撃に成功し、多数の戦利品を抱え拠点に戻る最中であった。
そして、今回の略奪が成功したことに和気あいあいとしながら錆鎌盗賊団は洞窟へと潜っていった。
浮かれていたからか、その近くに二人の人影がいきなり現れたことには誰一人として気づかなかった。
真美さんに連れられて転移したのはどこかの街道脇にある森の中。
周囲を見渡してみれば、木々の隙間からはうっすらと石畳の道が見た。
街道からはさほど離れた場所では無かったが人目が一切なかったのでここに転移したようだ。
「それじゃあ、凪君これから盗賊団のアジトへ向かうわよ」
真美さんは拠点がこの森を少し入った所に上手く隠してあるという洞窟を拠点とした盗賊団がいることを確認したようだ。
方法は<千里眼>と言う自分の知っている場所を距離関係なく見ることができるというスキルの裏技を使って見たそうだが総勢五十名ほどの集団だそうだ。
名前は錆鎌盗賊団で現在は略奪が成功したため昼間から宴会を開くための準備をしているそうだ。
僕に言い渡された目標は最低五人殺すことだ。
この世界では、盗賊団を無力化して近くの町に突き出すことも可能なようだが基本的には確保した盗賊の食費や移送費などの出費が大きいため好まれないどころかいやな顔をされるそうだ。
そのため、殺して頭の首を討伐証明として近くの街に提出すればよい。
話を終えると僕と真美さんは盗賊のアジトが確認できる場所に移動すると、見張りにばれないように近くにあった低木の裏に身を隠した。
「それじゃあ、まずは入り口の見張りから。
二人いるから一人は私が殺して、もう一人は気絶させるから最後は凪君がやりなさい」
入り口近くには二人上手く隠れて周囲を見張っているようだ。
そうして、侵入するためには先に見張りを外す必要がある。
真美さんが気絶させてくれるのは僕のタイミングで殺せるようにとのことだろう。
もし足踏みしてしまった時に応援を呼ばれないようにするためだろう。
「ここに持ってくるから準備しておくようにね」
僕は言われた通りに自分の<アイテムボックス>からいつも特訓で使っている鉄製のただの直剣を取り出して真美さんを待つ。
それを見た真美さんは直後には飛び出していた。
真美さんが飛び出した勢いで目をすぼめたのだが、目を開いて視線を見張りの方に向けた時には既に一人は血を吹いて倒れ、もう一人は手刀で気絶させられている所であった。
真美さんはそのまま気絶させた方を引きずって戻って来た。
「首か心臓をグサッと一気に行くといいわよ」
真美さんはドサッと気絶した体を地面に落とすと、そう言い切った。
グサッと一気に~なんて言っているが実際に前にするとそんなことは考えていられなかった。
剣を振り上げるのだがそこから先が凍り付いたかのように動かない。
しかし、ここで一気にいかなければならない。
フゥゥゥ、ハァァッ~
大きく息を吸って吐き出す。
すると、固まっているように思えたからだが動かせるようになった。
僕は心臓があるであろう場所にあたりを付けると一気に手を振り下ろして剣を突き刺した。
少なくない抵抗と共に刺さった剣からビクッと大きい反応がいちど伝わってきた後に刺した周りからは血がにじみ出てくるのであった。
その後、剣を抜こうとしたのだが血が噴き出すとのことでいちど止められた。
死体を丸ごと凍らせて血の噴出を抑止してから剣を抜く。
「その感覚、忘れないようにしておきなさい。
人を殺すことに何の感情も持たなくなればお終だと私は思うわ」
「分かりました」
それから、遺体を近くの茂みに隠す。
処理は中で発生する遺体と一緒にするそうでそのまま放置することになった。
「それじゃあ、突入するわよ。
中は二つに分かれているみたいで、それぞれ倉庫と広間になっているわ。
だから、凪君は人が少ない倉庫の方に行ってもらっていいかしら?」
「はい。
それで終わったらどうすればいいですか?」
「その場で待っていなさい。
私の方から迎えに行くわ」
それに頷くと真美さんは洞窟へと移動を始める。
僕はその後に続いて洞窟入りを果たした。
洞窟の中は道が整備されており思ったほど歩きづらくない。
天井付近にはたいまつが置かれていて、足元もよく確認できる。
元々の洞窟から拠点としての利便性のため、手が加えられているようだ。
道なりに少し降りたところで分かれ道が出現し、僕は真美さんと別れることとなり、別れた僕は倉庫の方向に向かった。
松明が灯る洞窟の中を少し進むと、奥からはトントントンと一定のリズムで音が響いて聞こえてきた。
僕は音を出さないようにしながら索敵をして洞窟を道なりに進んでいく。
軽く蛇行している通路を少し進むと先の方が一際、明るい場所が見えてきた。
一層物音に注意しながら明かりに近づいていくと、明かりが漏れていたのは横穴からであり、入り口に張り付き、注意深く中を覗き見れば中では四人の盗賊団員が料理を行っていた。
手前に置かれた台では二人が手慣れたように大量の野菜を切っていた。
その奥の広いスペースでは猪の解体をしているのが一人。
そして、最後の一人は一番奥に作られたかまどでスープを煮こんでいる。
この場にいる全員の手つきは手慣れており、盗賊なんかをやらなくても食っていけるだろうとも思えた。
ただ、<鑑定>すれば称号欄には盗賊団であるということが確認できたため殺さなければならない。
僕は全員が作業に集中していることを確認して音を立てずに入り口から低姿勢で侵入する。
まず始めに抵抗されると厄介である包丁を持った二人をターゲットにする。
音を立てないように一息つくと覚悟を決める。
ごめんなさい、頭の中ではそんなことを考えながら一気に飛び出して横並びで作業をしている二人の背後に近づくと一気に剣を振る。
ドサリ
少し重苦しいような音を立てて血をふきながら二つの首が落ち、その持ち主であった体が崩れ落ちる。
僕は剣を振ってから止まることなく二人目の真後ろまで近づくとちょうど振り返った所の解体をしていた男の首を落とす。
その後、最後の一人に目を向けると一部始終を見られていたことに気づく。
「ヒ、ヒィィィィィィ。侵入者だ~!」
目が合った最後の一人は、こちらを向いてから血まみれの剣を見て尻もちをつき壁際に恐怖の叫びと共にまだ多少の落ち着きは有ったのか仲間へと警告の声を上げた。
が、そんな声を上げている間に首を飛ばす。
警告の声を上げられたため、ほとんどの人が集まっている方に真美さんが向かったのだが援軍が来ないとは限らない。
人が集まってこない内に僕は急いで元の通路に出るとまだ続く奥へと走った。
少し進んだ所で急な曲がり角があった。
そのままの勢いで曲がり角を曲がろうとしたところで僕はブレーキを掛けて角ギリギリで止まる。
次の瞬間、曲がり角からから剣を携えた盗賊二人が小走りで現れた。
僕は事前に気づいていたため出会頭の一瞬の内に片方の懐に潜り込み、心臓を突き抜く。
そうして、剣を引き抜くとともに後退し、同時に空いた手に<アイテムボックス>から取り出した短剣をしっかり握ると投擲し、寸分違わず首に命中させる。
どちらも、そのまま崩れ落ち、死亡したようであった。
そのあと、死体を乗り越えて進んだ奥には盗んだであろう金目ものや食料が貯蔵されている倉庫があったのだが、他には盗賊団員は一人もいなかった。
僕は倉庫をから出ると調理場の方へと戻って真美さんを待つ。
それから一、二分程度で真美さんは現れた。
「問題なかったみたいね」
真美さんは、並べられた死体の山を見てそう言う。
殺すことへの戸惑いは無いのだが何と言うか申し訳なさが湧き上がってくる。
それを真美さんに伝えればそれは真美さんも同じなようでこの後に埋葬するという。
僕と真美さんで遺体を何か所かに集めてそれぞれ火葬する。
金目ものなどを真美さんがすべて回収した後に外に出ると真美さんは魔法を使って再び利用されることのないように洞窟を崩壊させた。
洞窟を崩壊させたことでガタガタになった地面を綺麗に整えた後に、僕と真美さんは並んで黙とうをおこなった。
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