第7話 野営準備
「どう? 落ち着いた?」
死体の片づけを終えた真美さんが木の幹に寄りかかって休んでいた僕の元までやって来た。
「はい。もう大丈夫です」
「まあ、私も最初はそんなだったわ。
後は、あえてあんな派手にいったからね」
「そうなんですか?」
「もっと出血を抑えて殺すこともできたけど、あまりこういうのに慣れるのに時間をかけたくないでしょう。
だから、徐々に刺激を上げていくより一気にやったわ」
一気に強い刺激を見せることで慣れさせようということらしい。
まあ、何度も同じようなものを見るのは好むようなものではなく、毎度毎度吐いているようじゃ辛いのでその配慮は嬉しかった。
「それじゃあ、魔物について説明するわよ」
魔物というのは自然界の魔力によって生まれる。
生まれ方は二種類。
一つは自然の魔力が凝縮した魔力の結晶である魔石を生成し、それを核として魔力が肉体を形成し、意思が宿り魔物が生まれる。
例えばゴブリンやオーガ、ドラゴンなどだ。
もう一つは元々存在する生物の体内に自然の魔力が溜まって魔石が生成され、それによって肉体に変化を及ぼし魔物化するパターン。
既存の生物の単純な巨大化などが多く、ほとんどの場合は額のどこかに魔石が付く。
魔石は自然の魔力溜まり、いわゆる魔力スポットと言う場所で生成されやすい。
いちど発生した魔物は自然の魔力や食物などから吸収する栄養を使い成長していく。
魔力スポットには強い魔物が縄張りを敷くことが多く、そのため魔力以外の食物を求めて弱い魔物が比較的人里近くに現れる。
また、雄個体に一定の魔力がたまると魔物は子どもを産むことができるようになり、母体として同種の魔物または似た生物を使用し個体数を増やしていくそうだ。
そう説明しながら、真美さんは<アイテムボックス>から短刀を取り出すと、血が抜かれたゴブリンの胸辺りを切り裂いて内臓を露呈させた。
中々グロテスクなものだったが、しようとしていたことが分かり覚悟が出来ていたため、吐き気を感じたがなんとか踏みとどまることはできた。
真美さんは心臓を綺麗に取り出すとそれをこちらに見せてくれた。
「見ていてね」
そう言うと真美さんは短刀で心臓を真ん中からバッサリと切り開いく。
一直線に引かれた切れ目に沿って真美さんは穴を広げて中を露呈させた。
そこには小さな紫色の宝石のようなものがあった。
「見えるかしら。
心臓の中に宝石っぽい物があるでしょうこれが魔石よ」
心臓の中心に魔石は存在していた。
サイズとしては五センチあるかないかくらいで、表面にはまだ血の雫が数滴ついていた。
「魔石は純魔力の結晶。
だから、魔道具の燃料の魔力として使われるわ。
他には、少し手間は掛かるけども加工をして電池のような魔力を貯蔵する事にも使えるわよ」
「そうなんですか」
「ついでに魔道具と呼ばれる道具についても多少は説明しておくわ」
魔道具というのは電気の代わりに魔力を使った電化製品のようなもの。
動きとしては魔力を流して、刻まれた魔法陣を発動さる。
製法は世界ごとに多少違ってくるけども大まかに三種類に分けられる。
基本的な物が魔石を使い捨てるもので低コストで大量生産しやすいのが特徴で一番普及している。
魔石を入れている間はずっと魔法の効果が発生し、魔石が無くなるごとに入れ替える必要がある。
二つ目が電池化した魔石を使ったもので、魔石を電池にする時にコストがかかるがそれ以降は魔力を補充すればいつでも使えるようになる。
こちらはスイッチがあり、効果のオンオフが可能。
そして三つめは魔石を使用せずに使用者が直接陣に魔力を流すもの。
作成・使用共に低コストで済むが使用者の魔力量によって使用可能時間が左右される。
魔力を流している間のみ魔法が発動するため、携帯できるようなものに多い。
一つ目は、低コストだが魔石が消耗品でいちいち購入する必要がある。
二つ目は、魔石の充電池化にコストがかかり、本体価格が高くなる。
三つ目は使用者の魔力が必須で使用者が限られ、また、魔力を流していないと発動しない
そのため、それぞれ一長一短と言える。
「そう、上手くはいかないんですね」
「技術って言うのはそういうものよ。
何かを取ろうとすれば何かを取り溢す。
そうやって試行錯誤して発展していくのよ。
……と、魔道具はここまでにして魔物の話ね。
素材って言えばわかるかしら?」
「例えば魔物の皮とか牙ですか?」
「そうよ」
魔物の由来は魔力だ。
そのため、それぞれの素材は天然では得られないものがあったりするらしい。
また、多量の魔力を持っている魔物ほどその体で活用できる部位が多くなっていくそうだ。
基本的に皮、牙、骨、爪、魔石が素材として扱われる。
ドラゴンなどのレベルになると血や内臓なんかに特殊な効果を持ち、また肉も他のものとは比べ物にならないほどおいしいためその体で捨てる部位は存在しない。
逆にゴブリンなんかは持っていた武器と魔石ぐらいしか素材にならないそうだ。
ただ、世界によっては素材になる部位は変わることもある。
「気分はどう?」
説明が終わると真美さんはそう尋ねてきた。
話を聞いている間に気分は元通りになっていたため僕は大丈夫だと答えた。
すると、じゃあ今日の内に魔物くらい殺せるようにね。
と笑顔で言い放った真美さんは再び歩き出すと出てくる魔物を容赦なくなるべく派手目に殺していくのだった。
僕はそれに何度か吐いては水分補給を繰り返してついていくのだった。
そうして、何十と同じような光景を見続け、そうして軽く気分が悪くなるくらいになるまでは慣れてきた。
ただその後は、僕も戦闘に参加することになり、見るのと実際にするのとでは乖離があることに気づき再び吐いてしまった。
ただ、それでも諦めることなく真美さんに続いて森を徘徊するのだった。
そして、西に太陽が沈んで月が昇っている。
その頃には何事も無く魔物を殺せるようにはなった。
夜の森は危険だということで再び平原の方に戻ってきた。
そして、僕と真美さんの周りには魔法で作った光源が浮かんでいる。
「今日はここで一夜を過ごすわよ。
まあ、野営訓練ね」
「何をするんですか?」
異世界では街と街の間の距離が離れている場合があり、野営をする必要がある場合があるという。
その時のために拠点設営の仕方を教えてくれるそうだ。
方法は二種類あって魔法を使ったものと魔法を使わない場合の二種類を教えてくれた。
まず、最初に拠点の安全を確保だ。
基本的に魔法で『結界』を張るか、魔物除けの香を四隅に設置する。
次に火おこし。
これは火打ち石を使う、魔道具を使う、摩擦熱を使うなど何種類かの方法を見せてくれて実際におこなったが、やはり一番簡単だったのは火の魔法を使うことだった。
その後、テントの骨組みの組み立て方を教わり、僕と真美さんで一つずつテントを組み立てた。
最後に、基本的な調理法と注意点を教わって食事をとる。
その後に、使った食器などの処理を聞く。
「それから、ここの後が野営で一番重要なの」
そう言って、教えてくれたのは見張りの方法だ。
夜間にメンバーで襲撃が無いか見張りをおこなう。
基本的には二人以上で持ち回りだ。
二人以上の理由は敵襲があった際に片方は仲間を起こし、もう片方は相手を引き付けるという役目があるからだそうだ。
ただ、今回は二人だけなので持ち回りがおこなえない。
そのため、一人でおこなうそうだがこの辺りなら能力的に一人でも問題ないとのことで四時間で交代ということで決定し、先に休みを取る真美さんは自分のテントの方に向かっていった。
そうして、僕は焚き木のそばで暖を取りながら初めての見張りをおこなうのだった。
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