第5話 魔法特訓

 魔法に関しての説明を聞いてから1週間がたった。


 現在、僕は真美さんに連れられて“花園”の館の地下にある訓練場に来ている。

 訓練場の床全面を土で押し固められているのみの簡単な造りだ。

 ただ、特殊な機能があり広さの変更が可能であることだ。

 明かりとして人工太陽という自然の魔力を吸収してそれをもとに光を放つ魔道具が天井の中心に設置されているため、十分な照度は確保されている。

 魔道具とは一般的に魔力を流すと決められた動作をする道具の事で、電化製品と似たようなものだ。

 魔道具はさらにいくつかの種類に別れるそうだが説明はまた今度詳しくおこなう。


「それじゃあ、魔法の習得をやっていくわよ。

 じゃあ、はい。」


 渡された数枚の紙束。

 パラパラとめくってみれば全てに違った魔法陣が描かれていた。

 この魔法陣は魔術用のものだそうだ。

 事前の説明で属性魔法のスキルの取得は先天性だという話を聞いたが、そこには裏技があるらしい。

 先天的に付与される属性魔法スキルはそれぞれの適性に見合ったものが付与される。

 僕の場合だと、世界的に属性魔法スキルの適性を持つものは希少なため適性は無い。

 だが、<全能>のスキルによって適性を得た結果、適性を持ちながらスキルが無いという状態が生まれた。

 その状態からスキルを獲得する方法が魔法陣を使った方法。

 適性がある状態で魔術を使用していれば自ずとスキルが取得できるそうだ。


 ただ、僕にはそれ以前の問題があった。


「魔力を通すってどうやるんですか?」


 そう、魔力の使い方が分からないのだ。

 それどころか魔力と言うもの自体言葉の上では分かっているのだが実際どんなものかは知らなかった。


「そういえばそうね。

 じゃあ、魔力の確認からやっていきましょう」


 真美さんが魔力の確認をしてくれるそうなのだがそもそも僕の世界では属性魔法の適性が無いので魔力が無いのではないかと思う。

 それを伝えてみたところ真美さんからの返事は魔力は血と同じようなもので無いということはあり得ないそうだ。

 ただ、自然の魔力が少ないと個人の魔力は不活性化していってしまうそうで、再び使えるようにするにはいちど刺激を与えることが必要となるらしい。


「ちょっと集中すれば血液以外に体を巡っているものがあってそれが魔力だと認識できるわ。

 凪君の場合、不活性化しちゃってるから私の魔力を凪君に流して魔力を活性化させるから感じ取れるように集中しててね。

 取りあえず、手を出して」


 僕の魔力は不活性化していた。

 そのため、刺激として真美さんの魔力を僕に流すそうだ。


「『魔力供給』」


 僕の差し出した手を取った真美さんは恐らく魔力を移すための魔法を発動させた。

 すると、僕の体に何かが流れてくると共に、僕の中で血が沸き立つような感覚が生まれてきた。

 何というか、血が二倍流れているようだ。

 全身を巡っているこの感覚が魔力なのだということは理解できた。


「……血管が二倍になったような感じですね」


「それね。

 後は、魔力を動かすことね。

 スキルで言えば<魔力操作>のことよ」


 魔力を動かすのは自分の意志でおこなう。

 コツとしては魔力の中に一か所だけ高濃度な場所があるそうで、それがそれぞれの魔力の核と呼ばれるそうなのだが、それの動きを掴むことだそうだ

 核というだけあってそれの流れを掴めさえすれば自ずと魔力を動かすことも出来る。


 集中も必要だろうということで用意された和室セットで<魔力操作>を習得することになり、僕は正座をすると自分に意識を向ける。





「ふぅ」


 大体三十分が経っただろうか。

 ずっと集中していたため、<魔力操作>を取得すると張りつめていた意識と共に無意識に息を漏らす。

 それで真美さんも気づいたようで、喉が渇いているだろうとのことでお茶を渡してくれた。

 そのまま一息ついてから再開の運びとなった。


「それじゃあ、再開するとして。

 ……<魔力操作>ができるようになったようね。

 じゃあ、本題の魔術の発動をやってみるわよ」


 僕は紙束から一枚の魔法陣を取り出す。

 その魔法陣を見た真美さんはその魔術についての説明を始める。


「それは、『ウォーターボール』の魔法陣ね。

 魔法陣は、魔法言語と魔法紋という文字と図形で組まれて、属性、規模、威力などの意味を持たせたものだわ。

 それじゃあ早速、魔法陣に魔力を流してから、詠唱をしてみなさい。

 詠唱は魔法陣の下に書いてあるわ」


 僕は指示に従って魔力を魔法陣に流して詠唱をおこなう。

 魔力を流した魔法陣は黒いインクで描かれていたものが青く変色し軽く光を纏った。


「『水は流れ。

 撃て、水塊の弾。

 ウォーターボール』」


 その言葉と共に手に持った魔法陣の真上に透き通った水球が発生するとそのまま真っすぐ飛んで行って五十メートルほどで地面に落ちて破裂した。

 魔術の発動はあっけなく終了した。

 真美さんの指示でそれから残りの魔法陣も使用し、一通り全部の属性の魔法を使用した。


「これで、スキルの取得はできたはずよ。

 今度は魔法陣なしの詠唱だけでやってみなさい」


 先ほどの状態から今度は魔法陣を無くし、魔力を自身の周囲に展開してから同じく詠唱を唱える。

 僕がウォーターボールの詠唱を終えると目の前で水球が生まれて先ほどと寸分違わず、それどころか十メートルほどさらに遠くに飛んで地面に落ち破裂した。


「問題ないわね」


 その後に応用編ということで少し長い説明に入った。

 真美さんによると、詠唱は想像の補助であるためその段階はスキップすることが可能だそうだ。

 それがいわゆる<無詠唱>。

 ただ、省略するのは詠唱だけであり魔法を発動させるには魔法名を口にするか強く意識する必要がある上に、いちど詠唱をおこなったことがある魔法のみその効果は適用されるそうだ。

 魔法は位階という魔力消費量や魔法の威力・範囲を総括し振り分けられるランクで属性ごとに十段階に分けられている。

 一階位が最高で、十階位が最低だ。

 スキルレベルとは反比例の関係性があり、スキルレベルによって使用できる位階に制限がある。

 詠唱での語数や単語には位階ごとに下限が決まっており、それを越す必要があるのは<想像魔法>などと同じだ。

 そのため、高位階のものほど詠唱は長い。

 と、がっつり説明になってしまったのだが重要なのはここからだ。

 最初の話を纏めると、魔法は想像力さえあれば無詠唱で発動できるということになる。

 この考え方は間違いでは無く、現に詠唱を短縮する<詠唱省略>や完全に無くした<無詠唱>のスキルがあるのが証拠だ。

 その二つのスキルの習得法はいちど何の魔法でもいいので詠唱を短縮または無しで発動させることだ。

 ただ、裏技として魔法を補助する系のスキル(<無詠唱>はもちろん、<魔力操作>や<魔力強化>といった属性魔法の発動をサポートするもの)は魔術・魔法共有だそうで<無詠唱>を取得するのであれば想像力にサポートの入る魔術を使用して取得した方が早いそうだ。





「お、出来たみたいね」


 最初の魔術の使用から大体二時間。

 <無詠唱>のスキルを獲得した。

 その間に発動させた魔法はゆうに百回は越えた。

 加えて、体にだるさを感じている。

 真美さんにそれを話したらだるさの理由が分かった。


「だるさの原因は魔力が少なくなってきたからね。

 自身の魔力が大体二割を切った頃から倦怠感が出てきて完全になくなれば気絶するわよ。

 ただ、何度も経験しておけば慣れてきてそこまでいかなくなるわ。

 魔力は筋肉のように減らして回復を繰り返せば徐々にだけど増えていくわよ」


 そんな説明だった。

 その後、僕の魔力が少なくなったということでその日の特訓は終了した。





 その日から始まった魔法の特訓は日数にして約三か月後に終了した。

 特訓の内容については基本的に現存する全ての魔法の発動とそれに伴ってスキルのレベル上げ。

 さらに、魔力の限界までの使用による魔力強化だ。

 これらに関してはただひたすら魔法を発動させるだけのものだった。

 ただ、そこから応用としてそれぞれの魔法の効果の解説や組み合わせによる相乗効果などの説明。

 集団戦時の魔法の運用法や移動しながらの魔法の発動。

 果てには一対一での近接戦闘中の魔法の発動などをおこなった。

 そして、最終的に魔法関連の全てのスキルが集約された<完全魔法>を習得した。





 魔法は完全に習得できた。

 これに関しては真美さんのお墨付きもある。

 だが、魔法の特訓の終盤で、次の課題が生まれた。

 それは、魔法以外の戦闘能力だ。

 それは魔法を使いながらの戦闘の特訓時に判明し、多少は教えてもらったのだがまだまだということで魔法が終わり次第そちらの特訓をおこなうことになった。


 僕は、魔法を使えるようになったので“花園”に自力で転移した。

“花園”に着いた僕は真美さんのいる執務室へと向かった。

 たどり着くとノックして入室する。


「来たわね」


 部屋に入ると真美さんはいつもの服装とは違い、動きやすい服装をしていて、また木刀を準備していた。




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