第2話 次代の神
ほどなくして端にあったドアが開きお盆にカップを二つ乗せた真美さんが戻って来た。
「お待たせ」
一言、そう言ってからお盆をテーブルに置くと持ってきたコーヒーの入ったカップを机の上に並べる。
そして、僕の向かい側のソファーに座った。
「それじゃあ、説明をしようかしら」
ここに来てからけっこうな時間が経ち、肝が据わった僕は冷静に話を聞くことが出来るようになっていた。
「改めて、私は荒神真美。
第三世界線《舞月》の神皇よ。
それで……神皇というのは神の中の王という解釈でいいわ」
「……そのような人が僕に何の用でしょうか」
ここまでくる間に考え付いた予想の一つが的中した。
ただ、的中したとしてそれが素直に受け入れられるかどうかは別だ。
少し気圧されてしまった。
「凪君にこの位を変わって欲しいの。
無理にとは言わないし、最初の内はサポートもするし。
何も無い時は普段通り生活してても大丈夫だし」
突然、そんなことを言われても何をすればいいのか一切分からない。
「どんな事をするんですか?」
「あ、ああ。それを話していなかったわね。
何をするか知らなければ決めようがないわね。
それじゃあ軽く説明していくわね」
基本として、世界っていうのは僕がが住んでいる所以外にも多種多様に多数存在している。
僕の知識で言ってしまえば“異世界”と言うものだ。
世界は十ある世界線と呼ばれる世界の集合体でできていて、それぞれの中に多数の世界が存在する。
世界線が世界を入れるための箱で中身が世界だ。
それぞれの世界線の中の世界が壊れないように管理するのが神皇。
ただ、それぞれの世界ごとに世界を管理する神が居て受け持つ世界を崩壊しないように管理することになっているため、神皇というのはその神の統括や神では抑えきれない崩壊を防ぐことが主な仕事だそうだ。
稀に起こることだそうだが、神も意思を持っているため自身で世界を荒らす神もいたりするからそれの取り締まりなんかをする。
と言うのが主な話だった。
「どんな感じに管理しているんですか?」
「全ての世界を監視するためのモニター室がこの隣の部屋にあってあるそこで見ることになるわね。
崩壊するとなる場合は危険域に入るとアラームが鳴ることになっているわ。」
「その仕事を僕に代わってほしいと。
けど、僕は一般人ですよ」
普段からラノベをけっこう読んで異世界に思いを馳せたりしている僕にとっては願ってもいない提案だ。
僕の頭の中はほぼこの話を受ける方に傾いていた。
が、最後に一つ大事なのはチートの有無だ。
チートはありますか? なんて聞くのは少し恥ずかしかったので遠回しに聞いてみる。
「ええ。
それに関しては、私が稽古をつけて一人前になったら交代って感じで考えているわ。
内容としては、体術と武器の扱い、魔法、後は実践訓練って所ね」
チートについての言及は無かったが戦闘や魔法に関しては鍛えてくれるという事で一安心だ。
が、僕はある一言に興奮を抑えきれなくなった。
「魔法ですか! 魔法、あるんですか!」
「もちろん。
異世界を何だと思っているの?
じゃあ、ちょっとお手本として……。
『三界華』」
そう言って真美さんは手のひらを上に向けて開いて僕の目の前に出してきた。
直後に何の前兆も無く三十センチほどの炎が噴き出した。
炎はその後突然現れた水に飲まれたかと思えばその水が凍った。
ヒュッと音がすると氷はキラキラと破片を散らしながら削られていって薔薇の彫刻が完成した。
その後は、パリンッという音と共に薔薇は木端微塵に砕けて光を反射しキラキラと散っていった。
話の流れからしてこれを全て魔法で行ったのだろう。
「どうかしら?」
真美さんは僕に目を合わせながら微笑みかけてくる。
「僕でもできますか?」
「ええ。神皇になるということは無限の才能を手にすると同様。
練習すれば使えるようになるわよ」
最後の一押しが入った。
これで僕は完全に神皇になる話を受けることに決めた。
そうと決めた直後、僕は直ぐに真実さんに返事を返す。
「この話、受けさせてください!」
「そんなに急がなくてもよかったんだけど……。
まあ、ありがとう」
直ぐに帰ってきたその返事に真美さんは呆れたのか少し苦笑いをしながらも直ぐに笑顔になった。
真美さんも僕が神皇を引き継ぐことに異論はなく認めてくれた。
「じゃあついでに、さっきの話の続きを」
世界にも四種類の大きさがあり、それぞれ大きい方から根源世界、上層世界、中層世界、下層世界の四つに分かれている。
神皇の存在を知っているのは基本的に根源世界の上位神だけだが、例外も存在する。
ただ、知ることが認められていない存在が知ってしまったとしても少し時間がたてば忘れていくようになっているそうだ。
最後に世界ごとに名前が付けられているそうで僕の世界だと根源世界“地球”と言う。
“地球”はそのまんまな名前だなと思いつつも僕の世界が一番大きな根源世界だったことには驚いた。
「そうなんですか」
「う~ん、後は……。
うん、今日はこの辺で終わらせましょう。
続きの話は少し準備してから話したいから少し待ってほしいわ。
じゃあ明日、昼頃に凪君の家に迎えに行くから待っていてね。
じゃあ送るわよ。
『境界転移』」
最後にそんなことを言われながら僕は有無を言わさずに元の世界へと送り返される。
一瞬の内に元の場所に戻ってきた僕はまだ辺りが明るいことに気づいた。
ポケットからスマートフォンを取り出して見ると、真美さんに連れていかれたと思われる頃から三十分ほどしかたっていない。
“花園”で二時間ほど説明を聞いたりしていたと思っていたのだが……。
時間も調整できるのかなと思いながら、現在の気温を思い出し暑さから逃げるため急いで目前まで迫っていた自宅へと向かった。
そして翌日の昼下がり。
ピンポーン
両親は仕事に出かけている。
僕は一人リビングでくつろぎながらアニメを見ていた時に時に来客を知らせるチャイムが鳴った。
誰だろうな~と思いつつドアホンを確認した。
そこに映っていたのは真美さんであった。
「真美よ。凪君、迎えに来たわ」
「あ、はい! すぐ行きます」
準備はもう済ませていたため、テレビとエアコンの電源を切ると僕は玄関へと向かった。
そして、靴を履いてドアを開いた。
「凪君、昨日ぶりね。
早速だけど、“花園”に行くわよ。
戸締りだけはしっかりとしておいてね」
「はい、それはもう確認できてます」
「準備がいいわね。
じゃあ、行きましょう」
真美さんの転移によって“花園”へと移動した。
移動先は昨日と同じ執務室。
僕と真美さんは昨日と同じように座った。
「今日は始めに、取りあえず次期神皇へ任命しておくわよ。
まあ、称号を付けるだけなんだけどね。
一緒にそれに関することも説明するわよ」
「分かりました」
説明の内容は異世界ファンタジーでお決まりのステータスについてだった。
ステータスは主に、名前、種族、レベル、スキル、称号に別れている。
もう一つ項目があるそうだがそれはもう少ししたら教えてくれるそうだ。
各項目について詳しく説明すると、名前は名称通りそのステータスの持ち主の名前・名称。
種族は、生物としての分類で例えば人間、エルフ、ドワーフ、獣人などの事。
これは、全ての世界で共通するものもあるが、多種多様に存在する。
ここに年齢も表示される。
レベルはその人の総合的な強さを簡易表示したもの。
経験に比例して上昇していくそうで基本、普通に生活していれば微弱だが上がっていく。
また、人やその他生物との戦闘のように体を張ったものの方が効率は圧倒的に良い。
スキルは、その人の持つ技能が昇華したもので持っていると様々な恩恵があるらしい。
最後に、称号はその人の立場や経験を言葉で示したもので一部では能力などに影響を及ぼすものがあるそうだ。
別に、身体能力の数値化もされており、体力・魔力・攻撃・防御・素早さの五要素に分けられているのだが、こちらは感情やスキルの発動などですぐに上下するのであくまで基準となる数値でありあまりあてにしない方が良いということだったので少し気になりはしたがそういうものだと理解して、気にするには辞めた。
「スターテスの確認はどうするんですか?」
これは、一番大事だ。
異世界召喚物で異世界に事前知識がある場合は真っ先にこれを確認する。
僕もそんな例に漏れず、それを聞いた。
「まあ、世界によって様々ね。
凪君のようにステータスの確認をさせてくれない世界もあるしね。
まあ例えばだけど、ステータスと唱えれば表示される世界、道具を使わないと確認できない世界、ステータスの存在自体知らない世界、と色々ね。
まあ、そんなことを聞きたいわけじゃないでしょう。
凪君が確認するんであればスキルの<鑑定>を使う事ね」
世界にも基本ルールのようなものがあってそれに応じてステータスは確認できるそうだ。
その基本ルールと言うのは物理法則と一緒で基本的にいちど決められてしまえば永久不変なものだそうだ。
ただ、<鑑定>を使えばどんなルールがあってもステータスが確認できるそうだ。
後は、追加でスキルについてもう少し細かく説明を受けた。
スキルは、大まかに四種類に分けられる。
武器などの扱いや戦闘時の能力に関連する戦闘系。
魔法の使用に関する魔法系。
日常生活や娯楽・芸術等に用いられる技能系。
戦闘系の上位で固有の動きを再現する必殺技系。
に分けていて、人の強さを見るのには基本的に上二つを重視するそうだ。
「それで、本題に入るわよ」
「本題ですか?」
「さっき説明した称号に関係する話よ。
ここで、凪君を正式な後継者に任命しておきたいの。
詳しくはこの後説明するからわかると思うけど今後の特訓が楽になると思うわ。
それじゃあ、立って」
そう促されて僕はその場に立ちあがる。
真美さんも立ちあがり、僕と視線を合わせる。
「
朔月凪を正式な我が後継者として任命する」
真美さんは今までの態度から一転。
これぞ神だ、とでもいうべき風格を醸し出しながら宣言した。
それと同時に真美さんの左目の前には山吹色の月を模したような紋章が浮かびあがる。
アツッ!
僕が左手に熱を感じて見てみれば手の甲に真美さんと瓜二つな紋章が浮かびあがっていた。
その後、真美さんの目の紋章が消え去ると再び、説明していた時のような穏やかな声で真美さんはこう教えてくれた。
「それが、神皇後継者の証よ」
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