数多の世界で紡ぐ物語~秘されし神の皇は数多な異世界を渡りその崩壊を防ぐ~

灯赫

1章 始まりの花は咲き乱れ

第1話 神の花園

 中二の夏休み。

 僕、朔月凪は新作のラノベを買い集め、書店から歩いて帰る途中だった。

 今日は、テレビの天気予報では記録的猛暑日との予報がされそれに違わずかなりの気温となっていた。

 街を歩く人は皆、ぐったりしているように見える。

 都会のビル群の中を僕は汗を垂らしながら駅まで歩いていた。





 最寄り駅を出て、少し歩くと住宅があちこちに見えるようになってくる。

 しかし、まだまだ太陽は天頂を少し傾いた位の昼下がり。

 暑いのでなるべく影を行くように歩いて、時には信号で立ち止まる。

 散歩中の犬に吠えられ、打ち水をしているおじさんに挨拶をして、それから子供たちがボールや鉄棒で遊んでいる公園の真ん中を突っ切る。

 公園を抜けてそのまま真っ直ぐに進んで、突き当りの丁字路を右に曲がる。

 そうして、少し先に朔月の表札が掛かった門が見えるようになる。

 凪は暑さから早く逃れるためにどんどん足早になっていく。

 もう少し、後、十メートルほどで家だ。

 家に帰ればクーラー、扇風機それにアイスと涼む手段は豊富だ。


「ねぇ、君!」


 突然、後ろから声が聞こえた。

 発生元は真後ろで僕に対してのものだろう。

 僕は声に反応して振り向く。

 振り返った僕は、言葉を失くしてしまうほどの衝撃を受けた。


「何でしょうか……」


 僕の答えは尻すぼみに消え失せていった。

 声を掛けてきた女性を見て僕の動きは完全に停止する。

 他の女性とは比べ物にならないほどの圧倒的美貌と風格。

 美人、とそんな一言では到底形容するべきではないと思える女性がそこにはいた。

 雲一つない空の下、カンカンに照り付ける太陽の光を跳ね返すサラサラの長い金髪は煌めいて眩しかった。

 そして、何といってもそのプロモーション。

 縦にスラッとして、出るところは出て凹むところは凹む。

 誰もがうらやむようなスタイルで、それに合わせるかのような白を基調としたドレスのような服。

 僕はその女性を見ている間にどんどん魅了されていくようだった。


「ねぇ?」


 再び掛けられた声。

 魅入られて考えが停止していた僕を驚かせるのには十分で、反射的にビクッとしてしまった。

 現実に戻された僕であるが気を抜けば魅入られてしまいそうである。


「君に頼みたいことがあるの。

 取りあえずついてきてもらえる?」


「あ、はい」


 怪しさ抜群な言葉であったのに何故だか断るという行為は思い浮かばず反射的に答えてしまった。

 答えを聞いたその女性はにっこりと微笑むと、僕の右手を取る。

 思考は未だ追いつかないまま僕はそのまま女性に一歩近づいた。


「『境界転移』」


 その瞬間、そんな言葉を聞きながら僕の視界は白く染め上げられていった。





 ふと気が付けば全身に心地よい風を感じた。

 眩しくて閉じていた瞼を開くと眼前に広がっていたのは一面に広がる花畑。

 彼方には地平線が見え、そこから上に広がるのは雲一つない青空。

 時折吹く風は色とりどりの波を起こしていた。


「ようこそ!

 私の“第三の神の花園”へ!」


 ふと横を見れば先ほどの女性がいた。

 その女性は女性が満面の笑みで両手を迎え入れるように広げていた。


「突然連れてきちゃってごめんね。

 私の名前は荒神真美。

 ここの“花園”で第三世界線を治める神々の王。

 神皇として世界の管理をしているわ。

 君の名前を教えてもらって良い?」


「朔月凪です」


 僕は反射的にそう答えた。

 未だ認識が追い付いていない。

 だが、神と言っていたことだけは確かだ。

 それでは今の僕は一体どんな状況なのだろうか。

 そんな自分では答えを導き出せない問いに永遠に答え続けていたところで再び女性、真美さんの声が掛かった。


「じゃあ凪君。

 君の後ろのあの館で説明させてもらうわ。

 後、取りあえず死んではいないよ、とだけ言っておくわね」


 死んではいない。

 という事は転生と言うわけではないだろう。

 そんなことを考えながら振り向いてみると再び衝撃を受ける。

 僕の後ろにはとても大きな館が建っていた。

 外見は、中世貴族の館。

 ノイシュバンシュタイン城のような感じの建物だ。

 一面の花畑の中に白亜の城が建っていた。

 所々でガラス張りの階段ホールなど現代風の部分も見られ逆にそれらが美しさをさらに引き立てているようでもあった。





 僕は、真美さんの後に続いて館に入った。

 その頃には困惑から落ち着きゆっくりと観察する余裕が生まれていた。

 建物の内装は外見と同じように中世風。

 館の扉を入った部屋は一階のほとんどのスペースを使った玄関ホール。

 そこは二階までの吹き抜けとなっていて、正面には二階に上がるための赤い絨毯が敷かれた階段がある。

 両サイドの壁には、少し大きめのドアがありその先はガラス張りの渡り廊下になっているのが見えた。

 また、二階部分は一階部分の外周上をぐるっと一周するように欄干の付いた廊下があり、ドアの位置などは一階と同じ。

 そうして、見上げる天井には中心に大きなシャンデリアが付けられており、他の場所には等間隔に小さいシャンデリアが付いてた。

 真美さんに続いてそこから、左側のドアに入って渡り廊下を進む。

 渡り廊下は全面ガラスになっていて、そこから見えた中庭には、一本のリンゴのような実をたくさん実らせた立派な木を見ることが出来た。

 それから、階段を登り角を曲がりとけっこう歩いて、最初に入った玄関ホールのあった建物から中庭を挟んだ対面の建物。

 そこの四階の中央付近の部屋に入った。


「ここまでお疲れさま。

 ここが私の執務室。

 そこのソファーに座って待っていてもらえるかしら。

 急いでお茶を入れてくるわね。

 そうしたら、凪君の今の状況について説明しましょうか」


 促されるまま座った僕を見てから真美さんは部屋の左側の隅にあったドアに入っていった。

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