先輩と同級生に挟まれて
「なるほどねえ。その柴坂ちゃんはなかなかの策士ですな」
お昼休みの屋上。
月海先輩と一緒に夏目先輩がいた。
せっかくなので、教室で柴坂さんが話していたことについて打ち明けてみたのだった。
ぼくを選挙の推薦者に選ぶのか。
ぼくに応援演説をさせるつもりなのかどうか。
「策士……ですか?」
「あかり、私にもよくわからないわ」
「まー光ちゃんはわからなくても当然っていえば当然かなー」
月海先輩が首をかしげる。
「いいかい、後輩くんが応援演説のために壇上に立つ。するとどうなる?」
「景国くんの勇姿が見られる」
「月海先輩、それは違うかと……」
「光ちゃん……」
「な、何よ。事実でしょ?」
チッチッと夏目先輩が人差し指を振る。
「後輩くんは光ちゃんといつも一緒にいる人って認識されてる。1年から3年まで知ってる人はかなり多いよ。童顔で覚えやすいってのもあるし」
「やっぱそこですか……」
「そんな後輩くんが柴坂ちゃんの推薦者になっている。ってことはつまり、『あの月海さんが柴坂さんのバックについている!』というイメージを与えることができるわけさ」
「ぼく自身のネームバリューではないんですね……」
いや、そこまでうぬぼれてはいないけど。
「光ちゃんは有名人だからね。その人の存在を背後に感じさせれば、選挙戦になった時に優位に立てるってこと」
「
「でも戦略としては正しいよ。ポイントはいかに票を得るかだし」
「次の鍛練、手加減できるかしら」
「待ってください先輩。まだ決まったわけじゃないですし、夏目先輩の話はあくまで推測なので」
「おうおうおう、言ってくれるじゃないの」
「……そうね。自分を見失いかけたわ」
「それにぼくは、何よりも月海先輩を優先するってことだけは絶対に曲げません。お願いされて演説することになったとしても、それは先輩に『選挙になったら協力してあげて』と言われたことを実行するだけですから、やっぱり先輩の言葉を優先したことになります」
「後輩くん、早口で必死だね」
「景国くん、そこまで私のことを……」
「おっと、落ちてる人には超有効打か」
やれやれ、と夏目先輩が苦笑した。
「なんか余計なこと言っただけみたいになったし、あたしはこれで去りますわ。お二人ともごゆっくり~」
夏目先輩が手を振って屋上から出ていった。相変わらず風のような人だ。
ぼくは月海先輩の横に並んで座る。
「ちょっと我を忘れかけたけど、未来生ちゃんの積極的な姿勢は応援していかなきゃね。うちに来てくれるのだって、自分を甘やかしたくないからなんだし」
「本当に向上心のかたまりですよね」
「少しクセはあるけど、魅力のある子なのよ。だから……」
沈黙。
ぼくは先輩の横顔を見た。
「だから……もしも景国くんの心が動いたらって、時々不安になっちゃうの。貴方がこれだけ私を優先するって言ってくれてるのに……小心者ね」
「ぼくを信じてください。せっかく、ここまでの関係になれたんですから」
「……うん」
月海先輩は上を向いて息を吐き出した。
「情けないところを見せちゃってごめんね。もう大丈夫。私は景国くんの彼女なんだから、自信を持たなくちゃ」
「それでこそ月海先輩です」
ひとまず安心した。
「ところで、もし演説をお願いされたら引き受けていいんですか?」
「いいわ。景国くんの判断に任せる」
「わかりました」
† †
「あ、戸森さん」
お昼ご飯を食べ終えて教室に戻ると、柴坂さんが話しかけてきた。
「実は、聞いてほしいお話がありまして」
「応援演説のこと?」
「ええっ!? な、なぜわかったのですか!?」
「さっきちょこっと聞こえたから」
「そ、そうでしたか。耳がいいのですね……」
「でも、女子に任せた方が確実じゃないかな」
「まだ誰にするか決めたわけではないのです。候補が三人ほどいて、皆さんに声だけかけておこうかと」
「なるほど」
うまくいけば回避できるのか。
「それと、もし他に立候補者がいなければ演説は短めでいいそうなんです。それならやってもいいという人もいまして」
「そうなれば楽だね」
「ええ。でも、戸森さんにお願いすることも考えていますので、場合によっては引き受けていただけると嬉しいです」
「わかった。考えておくよ」
柴坂さんは頭を下げて、自分の席に戻っていった。丁寧だなあ。
とりあえず、柴坂さんの中には選択肢がたくさんあるようで安心した。
決め打ちでぼくを指名してきたのなら、月海先輩への弁明が大変だから……。
† †
10月の終わり。
立候補者が公示された。
2年3組からも立候補者が現れ、浅川高校は6年ぶりに生徒会長が選挙戦によって決められることになった。
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