腐った口は戻らない

ぱすこ

第1話

私は嘘ばかりついている



これは本当のことだ、これまでの人生を私は思いのほか順調に歩んできたつもりだ。もちろんここまで多くの挫折、苦悩、不安などの負の感情に悩まされることもあったが

そんなものは生きていれば誰もが突き当たるものだ。きっと対したことはない



しかし、私は時々自分のことが

分からなくなる。どうして自分は

こうも簡単に嘘をつくことのできる

人間になってしまったのか、と






私には仲の良い友達がいる。性格は両者とも少々異なるが、逆にそれゆえであるのか私たちは一周まわってとても気が合うのだ





一緒にいると楽しい。沈黙というものがあっても気まずくならない。しかし、私たちの関係には一つの大きな溝があった





「嘘」




私たちの関係を保っていたのは

間違いなくこれによるものだった





どうしてそんなことが分かるのか?

そんなことは簡単なことである



私が常日頃から嘘によって

彼女との友人関係を構築していたからである




彼女はいつも自分の身なりにとても気を配っていた。髪の毛、服装、指の先まで自分の意識によってきらびやかになる所はほぼ全てと言っていいほど彼女は自分自身を磨き上げていたのだ




しかし、これは大変殺生なことであるのだが

どんなに自分で綺麗に着飾っても

金をかけてそれをした分だけその成果が

ついてこないのもまた事実であり、

彼女の場合もまたそれにしっくり

当てはまってしまっていた






しかし、私たちは仲の良い「友達」であるから

そこに自分の本当の感情なんて

必要はなかったのだ





だから、私は彼女を喜ばせるために

善意の嘘をついた。私は思う、

人を傷つける嘘はついてはいけない

もののように思えるが、この場合は

これを行うことによって傷つける

どころか幸せを呼んでいるのだから

むしろ返って善良な行いをしたことに

なるのではないか





「可愛い」、「素敵」、「とても似合っている」、「魅力的」、「今までよりもっと可愛くなった」






沢山の言葉をあげた





私が渡した言葉に対して彼女が

どれだけ本気で受け止めたのかは

中々未知数であるが、まぁ喜んでくれたの

ならばそれが全てである






しかし、最初にも叙述したように

私は人に対する嘘が非常に上手くなったから

彼女に対して言った褒め言葉の中に

自分が本気でそう思っていることは

一つたりとも存在していない






私は最近思うのであるが

心にもない世辞を言う時ほど

何の罪悪感もなく口からスルスルと

出てくるものなのであるな、と






何も魅力的に感じない商品に対して、うるさいだけでそこに面白さなど微塵たりとも感じないとき、具合が悪そうにしている人に対して労うとき






日常生活の中には嘘が沢山溢れている




今日も私は朝起床し日中沢山の物事や人々と出会い、夜帰宅し床に就くまで一体

どれくらいの嘘をついた?





数え切れない。本当の感情などよりも

下手をすれば多いかもしれない







私は根底にあるのが

とても汚い要素でできた人間だ



きっとそれを見せありのままで接していたら自分の周りからは誰もいなくなってしまうだろう




ああ、今日も口が腐った



しっかり一日の汚れを洗い落とさなければ




私の口は外見は普通に見えても

その内部は赤黒くただれて

見るも無残に醜く変色している





今日もまた、その変色が一段階進んだように見える




きっとそのうち私の口は内部から

剥がれ落ちて跡形もなくなくなって

しまうのだろう





腐った口はもう元の通りには戻らない

のであるから




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