第190話 決定力不足
「なあ、卑弥呼さんとやらよ。日本の支配を目指している偉い女王様がよ、なんで俺をここに呼んだんだ?」
そう。根本的な疑問だった。
現実の現代日本の北海道旭川市で、フォークリフターとして真面目に働いていた俺が、異世界の旭川に転生して女子相撲部監督になって、なんていう波乱の人生ルートに乗るだけでも普通じゃないのに、その上、邪馬台国の近畿説と九州説に終止符を打つような場に立ち合うなんて、想像もつかないじゃん。
「本来ならば、湖底からの魔貫光殺砲で仕留めるはずだったのじゃ。だが、お主は悪運だけは強いのう。仕留め損なったから、こうして我が本拠地に招待し、正々堂々と撃破しようということじゃ」
正々堂々。という甲子園の青臭い選手宣誓みたいなワードが出てきた。でもさ、日本で一番大きい湖のど真ん中で漂流して困っているところへ、湖底から不意打ちで攻撃するなんて、そりゃ生成堂々の対極にある卑怯さじゃなかろうか。
いやいや。違う、そうじゃない。
卑弥呼は、俺を歓迎していない。それどころか敵と見なしていて、撃破しようとしているようだ。
冗談じゃないぞ。
俺は生き残って地上に帰るのだ。
そして邪馬台国が琵琶湖の底にあったことを報告し、一躍、歴史上の大発見として脚光を浴びて女の子にモテモテになってやるのだ。
って、ことは。ここで俺と卑弥呼のバトルか。
マズイな。
相手は卑弥呼だ。魔貫光殺砲も撃てる魔族だ。
それに対してこっちは単なる一般人。戦闘力たったの5も無いようなゴミである。
顔には表情を出さないようにしつつ、俺は脳内だけでどのように勝つべきか算段を練った。
「お主は、自ら国技館に乗って日本本土に突入してきたけど、日本全国各地でどのような状況で魔族と人間が戦っているのか、把握しておらぬのだろう? マヌケなものよ」
俺は指揮官じゃないから全体の把握なんて必要ないんだよ。放っておいてくれよ。
だが、末端の一兵卒とはいえ、全体の状況が気になるのは事実だ。
日本を魔族の魔の手から取り戻せるか、どうか。乾坤一擲の勝負なのだ。
「わらわは予言能力をも持つ卑弥呼であるぞ。千里眼をもって、全体の状況を鳥瞰することができる。今の日本は、奇襲によって一時的に魔族勢力が劣勢に立たされそうになったが、京都を狙った国技館が標準を外れて琵琶湖に落ちるなど、人間側が想定していなかった作戦齟齬もあり、五分五分といったところじゃ。魔族も人間も、どちらも決定力不足といったころじゃ」
決定力不足か。サッカー日本代表かよ。いつの時代とは言わない。いつの時代も決定力不足と言われ続けてきたよな。
「天秤はどちらにも傾いていない。だからこそ、今、ここで、わらわがそなたを倒し、琵琶湖に沈んだ国技館が無駄撃ちとなることが確定すれば、わらわの封印が解けたことも含めて魔族が優勢になる。魔族がその優勢を確定させた時、わらわが魔族の頂点に立っているように、ここで戦果を挙げることが重要なのじゃ!」
「ふん。本当かどうか怪しいな」
そう。これは敵である卑弥呼が言葉として言っているだけのこと。証拠が無い。ネット用語的に言えばソースを出せってやつだ。
卑弥呼が嘘を付いている可能性が高い。千里眼能力があるかどうかは知らない。仮にあったとしても、千里眼で見た通りの真実を話すという保証も無いのだ。
「別に信じなくても良い。ただ一つ、明らかに言えることは、お主はこのわらわを倒さなければ、この琵琶湖の底から抜け出すことはできぬということだ」
その言葉には、嘘は無いだろう。状況的にいって、卑弥呼を倒さずに脱出できるとは思えない。
「ふっ、そうかい。そこまで言うならやってやるぜ。卑弥呼さんとやらよ。あんた、諸葛孔明の罠にハマってやられたって、さっき言っていたよな。この俺は、諸葛孔明より強いってことを、知らないだろう?」
俺は自信満々の表情で、不敵な笑みを卑弥呼に見せつけた。
嘘ではない。俺は諸葛孔明にも勝っている。……あー、ただし、あくまでもゲームの中での話です。当然そんなオチだということは想像ついていただろうけど。魏の曹操だったら単純に国力を背景に無双すれば、ゲームだったら蜀の諸葛孔明にも勝てるんだよ。
「愚かな! 諸葛孔明は1800年前に五丈原で死んだであろう。わらわは1800年の歴史を全て知っておるのだぞ。諸葛孔明がいない今、封印から解放されたわらわを滅ぼせる者など、地球上には存在せぬのじゃ」
大言壮語もはなはだしい。だけど、言っているのが見た目は美しい女性である卑弥呼だから、まだ聞いていられる。これがデブでハゲたオッサンが言っていたら、ウザさマックスで虫酸が走っていたところだ。……まあ俺もモテないオッサンだけど。
「お主を倒すための方法は決まっておる。この土盛りを見よ。この上は土俵になっておるのじゃ。お主、男ではあっても相撲を取ることができるのじゃろう。わらわに相撲で勝つことができれば、魔族であるわらわを再度封印することができるぞ」
なん、だと?
魔族にとっては相撲は鬼門だったはず。にもかかわらず、相撲で勝負を挑んでくるとは。
無謀なのか、あるいは考えがあるのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます