第172話 一葉落ちて秋を知る?


「みんな、取り組みは一旦中断して、ウチで売っているプリン食べようよ」


「おおお、ありがたい! スイーツ大好き!」


 最も喜んでいるのはクロハだった。アイスクリームだけが好物というわけではないらしい。というか、甘い物なら大抵なんでも好きそうではある。


 よくよく考えてみれば、俺もシエスタプリンって食べたこと無いんだよな。


 旭川を舞台とするアニメの中では、ヒロインがおいしそうに食べていたけど、俺は実際にその店に行ったことは無い。てか、スイーツ店とか行かないからな。


 スイーツは嫌いじゃない。だけど、俺みたいなキモいオッサンが一人で行く場所じゃないから、行きにくいんだよな。


 恋人とデートで、というのなら、男性であっても喫茶店あたりでスイーツを注文してもそれほど不自然じゃない。


 でもでも俺は非モテ街道まっしぐら。彼女? 何ソレおいしいの? って状態。キモいオッサンはスイーツを食べるにも、無駄な努力というか、カラメルソースではなくリソースを支払う必要があるのだ。世知辛いよな。スイーツ問題だけに。


「伝説のシエスタプリンだぁ。ここで食べられるなんて、超ラッキーだね」


 一番喜んでいるのはクロハだ。率直に自分の感情を表すのはヤツが単純だからだろうけど、有名な絶品スイーツを食べることができてそれを素直に喜ぶことが出来るのは、美点といってもいいんじゃないかな、このケースは。


 クロハ、恵水、そして探知機女の永井映観、たぶんEかFカップの佐々木沙羅、細川アリサとヒトミの姉妹、アンド俺、城崎赤良の7人全員にプリンが行き渡った。……良かった。俺だけハブられたらどうしようかと一瞬思ったよ。コンビニでプリン買ったら付けてもらうようなプラスチックのスプーンももらった。


 シエスタプリンはガラスのビン入りだ。イメージとしては大昔の給食とか銭湯の自動販売機で売っているようなビン入り牛乳のビンを小さくしたような感じだ。


「いっただきまぁーす」


 ノリノリで言ったのはもちろんクロハ。それに続いて他の面々も俺も「いただきます」と言ってプリンの上のプラの蓋を開けてスプーンを差す。


 ほんのひとすくい。プルンと揺れるプリン。ぱくりと口の中に運ぶと、そこから広がる濃厚な甘味と深み。


「うわぁ、おいしい。相撲で体力消費したところに染み渡る感じですね」


 感想を述べたのは恵水だった。こっちもスイーツは好きなんだな。


 でもそれは、俺の感想を代弁してくれたものでもある。旨いよ、確かに。コンビニで買う一番安いプリンとは、奥行きが違う感じがする。


「そういえば、差し入れをもらえたのはありがたいんだけど、ここって食事ってどうなっているんだろう?」


 プリンを味わいながらそう言ったのは永井映観だった。そんなに気になるなら、お得意の探知機で調べればいいだろうがよ。


「噂では、国技館の地下には巨大な焼き鳥弁当工場があるらしいから、それも一緒に付いて来るから、大丈夫なんじゃないの?」


 この発言は、プリンを差し入れとして持ってきてくれた細川アリサだった。


 へえ。こちらの異世界日本でも、国技館の地下には工場があるって噂があるのか。


 だがアリサ。甘いな。このプリンよりもスイーツ。


 国技館とはいうが、今回のケースでは、旭川西魔法学園の体育館が国技館の代替ということだ。そして……旭川西魔法学園の地下には何がある?


 そう。焼き鳥弁当工場じゃない。製麺工場だ。俺がフォークリフターとして短い時間だけど、一応職場としているところだ。


 そしてその製麺工場は魔族のテロにより粉塵爆発にさらされて破壊された。


 ああ……俺の好きなネタ系のクソコミックに出てくる松竹梅書房のように、「破壊したはずでは?」って感じでしれっと復活していてくれないかな、製麺工場。


「それとね。プリンを取ってくる時に聞いた話なんだけど、都市艦旭川から日本本土へ奇襲をかけるっていう情報が、魔族側に漏れているみたいらしいんだよね」


 え? マジ?


 だって、製麺工場が魔族のテロで粉塵爆発を食らったことにより、このまま看過してはならないってことで急遽決まったことだったはずだよな、その奇襲作戦は。


 それが漏れているなんて。そりゃ、漏れているというレベルじゃないだろう。完全に上層部に内通者が居るってことじゃないのか。


 そこまで考えて、さもありなんと納得してしまった。あの、テレビのコメンテーターの大須賀さんは、その内通者らしいと、俺は知っている。


 そして、内通者が一人居るってことは、その一人だけとは限定できないだろう。ゴキブリ一匹居たら、他にもまだまだたくさん存在しいる、というゴキブリ一匹法則というのがあったはずだ。


 でもゴキブリ一匹法則というのは、あの黒い油虫のGが出てくるから、名称として心地よいものではないな。別のネーミングをするとしたら、なんだろう? 一葉落ちて秋を知る? これは別の意味だったっけ? 僅かな兆しから将来を推測することだったっけ?


 とにかく、内通者が居るならば、一人とは限らない。テレビのコメンテーターではなく、旭川市の幹部の中にも敵の魔族に内通している内憂外患野郎が混じっているのかもしれない。

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