第162話 紺色レオタード女子高生4名、開脚ストレッチ


 紺色のレオタードを着た四人は、土俵の周囲で準備運動を始めた。さすがに股割りはできないようだけど、アキレス腱を伸ばしたり屈伸をしたり二人一組になってストレッチをしたりしている。


 相撲って、割と大股開きの動きが多くなるから、レオタード女子高生4名が大股開きをしての準備運動が俺の目の前で展開される。


 ふっ。


 賢者である俺は、その模様もじっくり観察する。


 あー、念のため言っておくけど、いやらしい目では見ていませんよ?


 体の柔軟性を見ているんだ。


 ざっと見たところ、この四人の中で最も体が柔軟で、かつ体格的にも素質がありそうなのは、探知機を買ってきた子だろうか。走ってホームセンターに行って買ってきたのだろうか。速く走ってそれでいて持久力もあるってことか。


 その、探知機の子と組んでストレッチをしている子は、背も高いし体も大きい。ついでに言えば胸も大きいな。悪く言えばちょっとぽっちゃり気味かなという感じもする。女子高生としては体重はあるだろう。だが、ストレッチをしている段階からも、動きが雑っぽい。体の小さな相手だったら圧倒できるんだろうけど……まあ、相撲部以外の女子生徒なんて、どうせ技術的に相撲ができるわけじゃないんだから、体格で優っている方が単純に強いってことだから、これでいいのかもしれない。


 誰が選んだのか、あるいは立候補だったのか知らないけど、ナイスなチョイスと言っていいんだろう。ぜいたくを言えば、俺をノゾキ犯に仕立て上げるようなえげつない奴はやめてほしかった気もするんだけど。


 人選も何も、この国技館に入っている人は、相撲要員か、そうでなければ魔法による戦闘要員か、といったところだ。飛んでいる時間はそう長時間にならないだろうから、施設の維持要員というのは、そうあまり居ないはず。だから俺が掃除をやらされたわけだしな。


 ただまあ、京都に乗り込んだ後、魔族どもを封じ込め、後から続いて来る (はずの) 他の都市艦たちの制圧によって日本本土を取り戻し、そこからの復興過程でどうなるかは、俺には全然見通せないけど。


 双子らしい二人も、柔軟体操をしている。確かに今にして思えば、二人とも女子高生としては背は高めだ。動きは……どうだろう。柔軟体操を見た限りでは、体は十分に柔らかそうで、素質はありそう。


 女子たちは、いよいよ土俵に上がることになった。クロハ、恵水のどちらかが行司をやることとし、それ以外の五人が適当に対戦することになったようだ。


 俺は土俵脇から、腕組みをして立ったまま、眺めることとなる。


 最初は、行司は相撲部部長クロハが務めることとなったようだ。行司といっても、日本の大相撲のような立派な着物を着ているわけじゃない。黒のレオタードに白いまわしを巻いている、女子高生力士の格好だ。


「ひがぁしぃー、佐藤恵水ぃー。佐藤恵水ぃー。にいぃしぃー、細川ぁー、アリサー。細川ぁーアリサァー」


 行司が力士の四股名、じゃなくて本名を読み上げることによって、双子らしき女子のうち目つきの厳しい方の名前が細川アリサだと判明した。


 小柄な佐藤恵水に対して、細川アリサは女子高生としては長身だ。当然、その分体重もあるだろう。


 これは、最初から好取組なんじゃないだろうか。


 恵水は小柄だ。体格的なハンデがある。だけど相撲部として基礎的な稽古を摘んできているので足腰はしっかりしているし、当然素人よりは技術力もある。


 細川アリサはというと、相撲部ではないからには、相撲の技術では部員よりは劣るだろう。だけど単純に体格では勝る。だから、恵水の技が勝つか? それとも細川アリサの力が勝つか?


「はっけよーい、残った!」


 行司のクロハがさっさと二人を立ち合わせた。事前の仕切などは、素人にとっては面倒なだけだからだろう。


 さすが素人だけあって、細川アリサの立ち合いはただ単に手をついて、その場で立ち上がっただけだった。


 恵水は頭を低く下げて前に出て真っ直ぐぶつかる。


 身長差もあるので、恵水の頭は、細川アリサの胸の真ん中に当たった。


 細川アリサは、鋭い目を少し見開いて、驚いたような表情をした。いや、実際に驚いたのだろう。相撲部の、明らかに素人のものとは別物である当たりの強さに。


 余談だけど、スポーツにおいて、素人の動きと経験者の動きで最も如実に差が出る競技は走り幅跳びではないかと俺は思っている。だってそうだろう。素人が跳んだらただの大股開きのジャンプにしかならない。でも、本格的に陸上をやっている選手だったらリアルに空中を歩くからな。あれはスゴイ。


 強い当たりを受けた細川アリサは、少し後ろに下がった。そりゃ、棒立ちの立ち合いじゃ、そうなるわな。


 だが、立ち合いの当たりだけでは電車道で相手を押し出すまではいたらなかった。恵水が下から相手のまわしをさぐろうとした時、一瞬で体勢を立て直した細川アリサが反撃を始めた。


 突っ張り!


 突っ張り!


 というよりは真っ直ぐ繰り出しているビンタ!


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