第161話 ファッショナブル相撲部


「でも、やっぱり怪しいですよね。そもそも顔がキモくて、いかにもヤバいことしそうな人だし」


 俺は顔をディスられた。言ったのは、ホームセンターまでひとっぱしりして探知機を買ってきた女子高生だ。


 ああ、まあいいよ。40年生きてきて容姿を褒められたことなんて無いからな。でもディスられたことならある。だから慣れているさ。今更ハートブレイクするようなヤワな精神でもないよ。


 でも、だからといって堂々とディスられて反撃もできないのはムカつくな。もし仮に俺が探知機を買ってきた女子高生に対して「ブス」と言ったらどうなるだろうか?


 たぶん「それは女性差別です!」と烈火のごとく怒り狂って容赦ない罵声を俺に浴びせることだろう。


 女性が男性に対して「キモい」と言っても許されて、逆に男性が女性に対して「ブス」と言うのは社会的に許されない。この不均衡って不平等じゃないのかね。


「キモい顔だから、やっぱりこの人が犯人だと思います」


 ルッキズム来たよ。


 ルックスの良いイケメンなら怪しまれることすら無く、ルックスの良くない俺は濡れ衣を着せられて誰にも擁護されない。


「おいおい、待ってくれよ。探知機で探してみて、隠しカメラなんて無かったんだろう。これこそが俺が無実の証拠だよ」


 俺だって一方的に言われているばかりじゃない。己の身を護るために言うべきことは言う。


「そりゃ、隠しカメラは発見できなかったけど、限りなく怪しいですよね。99パーセント黒なんだから、有罪ってことでいいと思います」


 探知機を買ってきた女子高生、せっかく買ってきた探知機の結果よりも自分のお気持ちが優先か。だったら探知機をお金を出してまで買ってきた意味無いじゃん。


 あと、これは特に反論していないけど、俺は顔はそこまで言葉を尽くしてキモいと言われるほどではないはずだと自分では思っている。ただ、イケメンではない。それは残念だが事実だわ。


「あのー。そんなことよりも、早く相撲の稽古しませんか? 隠しカメラを設置していたかいなかったかにかかわらず、国技館が空を飛んでいる間に撃ち落とされてしまったら、どっちにせよ助からないですよ」


 おずおずとそう申し出たのは我らが相撲部副部長の佐藤恵水だった。今は相撲スタイルなので眼鏡をかけていない。そのせいか、少し目がしょぼしょぼしているというか、自信無さげな表情に見える。


 恵水の一言に、クロハも含めてこの場に居る女子六人全員が一瞬静まった。


 最初に沈黙を破ったのは、やはり探知機を買ってきた子だった。よく見たら女子高生としてはなかなかに背が高い。体格があるから相撲要員として選ばれて来たんだろう。


「まあ、確かに恵水の言う通りよね。いざとなったらこの男を魔族に対してスケープゴートとして捨て石にして使えばいいんだしね」


 念のため言っておくが俺はデコイ要員ではなく、相撲部監督だからな。それと、俺は100パーセント白だけど、仮に99パーセント黒だったとしても、残り1パーセントでも無罪の可能性があったら無罪だからな。


「そうね。私も、こんなどうでもいいオッサンがどうとかじゃなくて、どうせ相撲をやるなら、まわしを巻いてやってみたい!」


 高らかに言ったのは、最初にトイレに入ってきた双子らしき女子の目つきがキツい方だった。


 なんというか、どうでもいいオッサン呼ばわりされて、扱いが軽いよな。まあ、ノゾキ魔扱いされてヤバそうだったところで話が逸れるのはありがたいが。


 俺は、掃除は全然途中だったけど、なんだかんだでウヤムヤになってしまって、改めて掃除という気分でもないので、土俵の脇で一人でスクワットなんぞやりながら、女子連中が着替えてくるのを待った。


 そして。


 四人、つまり女子トイレに入って来て俺をノゾキ犯扱いしやがったあの四人が着替えを終えて体育館の中央の土俵の脇にやってきた。


 四人は紺色のレオタードに白いまわしを巻いている。髪の長い子はシニョンにするなりなんなりして纏めている。


 ……うん、正直言って、全く似合っていないな!


 もちろんこれは俺の心の中だけの声だ。実際に物理的に声に出して言って相手に聞こえてしまったら、またセクハラだなんだと騒がれて面倒なことになるだけだし。


 まあ当然ではあるよな。


 女子高生の制服にされるセーラー服とかブレザーとかプリーツスカートとかって、誰が着てもある程度似合うデザインにされている。だから、誰が着てもそれなりにかわいく映える。かわいい子は、よりかわいく。そうでない子もそれなりに。


 でも、レオタードっていうのは、女の子に似合うどうこうよりも、スポーツをする上での機動性が重視だぞな。モデルのようなスタイルのいい子だったらレオタードを着て体の線が出ても美しさは損なわれないどころか、より際だつかもしれない。が、イマイチな子が着たら……これ以上はやめよう。


 レオタードだけなら、まだいい。その上にまわしである。


 たぶん、相撲部の予備のまわしなのだろう。白いけど、少し薄汚れたような感じがする。


 ……そういえば、俺がまわしを着けた時も、予備の少し汚れた感じのまわしだったな。


 つまり、ここまで状況が揃えば、真実が見えてくる。……そんな大袈裟に騒ぐほどのことじゃないけど。


 相撲部の二人は、紺色ではなく黒いレオタードを着ている。あれって、体育の授業で着ているようなものではなく、相撲部オリジナルなんだ。まわしも、汚れていないきれいなものを使っている。


 相撲部は、おしゃれをする要素がほとんど無い中で精一杯おしゃれをして、あのファッショナブルな格好なんだ。


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