第139話 文部科学省の英語教育に物申す
そして、ここからが話の核心である。
「それで恵水。男でも魔法を使えるようになるためには、どういう修業をすればいいんだ?」
無駄な努力。ウエルカム。俺の人生は努力の塊さ。でも報われていないだけ。一か八か、魔法を使えるようになることを目論見て、やってやろうじゃないか。単に努力と言ったんじゃ風情が無い。ここは、少年マンガ大好きで少年の心を持つアラフォーオッサンらしく、修業というワードを使わせてもらうぜ。
ストイックでかっこいいわ、俺。
「何をすればいいかは、分かりません」
恵水の答えは、旭山動物園でホッキョクグマが浸かっている氷水のように冷たかった。
「分からない、とは? どういう意味だ?」
「だから、分からない、って言っているじゃないですか。私たちは魔法学園で魔法の勉強をしています。それは、魔法を使えることは前提で、その魔法をいかに効果的に発揮できるか、ということを学んで研鑽しているんです。男子でも体育の授業で短距離走や長距離走をやりますよね? あれは、走れることは前提で、どうやって早く走るか、ということを追求していますよね?」
あー、言われてみればそうだな。当然走ることにも個人差があって、俺で言えば筋トレの効果もあって瞬発力には自信があって短距離ならそれなりに速い。でも長距離はどうしてもイマイチ苦手なんだよな。でも、苦手であっても、それは単に遅いし、途中でバテて歩いてしまうことがあるというだけだ。そもそも前提の走り方が分からないということは無い。
このケース、学校の勉強に例えるなら、英語が近いんじゃないかな。
最近の子どもは小学校の頃から英語の授業をやるとかなんとか、文部科学省様の教育改革とかなんとかがあるらしいけど、アラフォーの昭和生まれのオッサンである俺は中学一年から英語の勉強を始めた。
難しかったな。
ズイス・イズ・ア・ペン!
あれ、なんでTとHでズって言うんだよ? 意味ワカンネ。
しかも発音が、日本語のズとは違って、なんか口の中で籠もったような変な発音をしなければならない。
最初の頃は、英語の文章の上にカタカナで読み仮名を書いていたな。
それでもさ、英語は日本における日常生活の中に普通に溶け込んでいる部分もあるから、ある程度馴染みやすかったのは事実だよな。
たとえば、アニメで観ていたシティーハンターとかキャッツアイとか。だから、シティーという単語の意味が都市だということはすぐに覚えた。ゲットという動詞も出てきたけど、アニメのエンディングテーマがゲットワイルドで、ああ、そのゲットか、って覚えたよな。EYEって書いてどうしてアイと読むのか最初は戸惑ったけど、意味が目だということは、すぐに記憶することができた。……ちなみに、俺やクロハたちは、シティーハンターでもキャッツアイでもなく、SUMO WRESTLERS……だよね。
これがスペイン語とかイタリア語とかラテン語なんかだったらお手上げだったところだ。ホールドアップ、ユアハンズ。
でも、今の俺に求められているのって、知識ゼロの状態からラテン語をマスターする、という無理難題に等しいんじゃなかろうか。
「とにかく、私にはやり方は分からないですから。クロハ部長や二階堂さんに聞いてもいいけど、まあどうせ分からないと思う。その人その人によって適した方法も違うと思うから、自分で試行錯誤して開発してみればいいと思います」
個人差がある、とか、試行錯誤が大事、とか、一見正しいことを言って真理を突いているようにも感じるが、要は分からないから勝手にやれ、とぶん投げられたぞな。
「ちっ、しょうがないな。分かったよ。俺が独自にやればいいんだろ? そのうち魔法を使って、一撃で地球を破壊できるような現金玉を撃てるようになってやるからな!」
魔法を使えるようになる目処は全く立っていないけど、俺は虚勢を張って尊大な態度で、ミケランジェロの絵画に出てくるような仕草で人差し指をのばして恵水に突きつけた。
「決戦は、そう遠くはないはずなので、急いでくださいね」
恵水の言葉は、良く言えば冷静、悪く言えば非常に冷たい感じであった。俺に対する激励の要素は無く、淡々と時間的猶予の短さを告げるものだった。
そんなこんなで、俺たちは夜の神社の境内で解散し、三々五々帰宅して行った。もうこの場に残っていたのは四人だけなので、李白の採蓮曲という詩に登場する表現が語原である三々五々という表現でもなさそうだけど。
ずっと、どうやったら魔法を使えるようになるかを考えながら歩いていると、気が付いたら自宅の一軒家に到着していた。ここを世話してくれた魔族の梅風軒さんが東神楽町にゲッツされてしまったことを思うと感慨深いというか、ほんと向こうからトラック転生してこっちに来てから、短い期間であれこれ起こって、めまぐるしすぎるわ。
「何を、修業すればいいんだ?」
大口は叩いたけれど、目算は無い。それこそ、小説内に登場する策士キャラが「私に考えがある」と言っていても肝心の小説家には考えが無いようなものだ。
考えたけど、よい知恵は浮かばない。
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