第127話 問題は存在するか?


 巫女衣装のフユカゼの言葉に、クロハは犬のように牙を剥いて噛みつく。


「だから、そっちの言っていることには何の確証も無いじゃないのよ。仮にそっちの言っている通りだとしても、だからってどうすればいいのよ。私達は旭川市の代表じゃないし市長でもない。だから西神楽をどうこうするなんて約束はできないって言っているのよ」


「本当に理解力の乏しい方なのですね。ですから何回も申し上げております通り、旭川の高校の相撲部と我々東神楽高校の相撲部で協力して魔族と戦いましょう、という約束をしていただければいいのです」


「そんなの、はっきりきっぱり、お断りよ」


 クロハが断言し、恵水と二階堂さんがうなずく。


 えー、それでいいのか?


 まあ確かに荒唐無稽な話を聞かされて、やたらと偉そうな口調で協力してあげます、なんて恩着せがましく言われて、反発したくなる気持ちも分かるっちゃ分かるんだわ。


 だが、敵は魔族なんだろう? 魔貫光殺砲とかマジで撃っちゃうような連中だろう。


「だから何度も申し上げているように、わたくしも権限は無いので、あくまでも事前の根回し、といいますか、もっとはっきり申し上げれば、旭川のあなた方が、協力して差し上げる価値があるかどうか、偵察に来たのですわ」


「はぁ?」


 更に上から目線の言葉を被せられて、クロハは限界ピキピキまで青筋が立っている。左腕からそのまま触手が生えてきそうだ。


「あなた方があまりにも弱すぎる場合、こちらにばかり負担がかかって、それでいて自治体の幹部同士の話し合いで西神楽問題が上手く解決できなければ、丸々こちらの損ということになってしまいます。まあ、そちらが我々よりも強すぎるという可能性はゼロでしょうけど、まあ希望としてはせめてこちらと同程度に強い方が、我々としても肩を並べて戦うにあたっては、やりがいがあるというか、頼もしいというものです」


 なんだよ西神楽問題って。そんな問題は存在しないだろう。それこそ尖閣諸島に領土問題が存在するかしないかと言っているようなもんだ。


 いやいや。発言の問題点は、それこそそんな場所じゃない。


 旭川が強すぎる可能性はゼロ? せめて同程度かどうか、見極めに来てやったんだぞ、と言っているのか?


 まあそりゃ、言われているのは監督の俺ではなく、クロハや恵水だけど。ここまでおちょくられたらクロハが怒るのは当然だ。俺だって、監督として、教え子の力量を過小評価されたら面白くはないぞ。


「わたくしも、あなた方も、相撲部員ですよね? ならば、語るべき言葉は口での罵詈雑言ではなく、相撲じゃありませんか? ちょっとわたくしが胸を貸して差し上げます。丁度そこにきれいな土俵もあることですし、一番取ってみませんか。そうすれば、わたくしの言っていることも少しは理解していただけるはずです」


 ……クソが。挑発だ。何が目的なのか、イマイチよく分からない部分もあるが、根回しされているんだ。迂闊に乗らない方がいい。


「いいわよ、望むところだわ! そうよね。確かに、最初から相撲で実力を見せつけてやれば良かったのよね」


「おいクロハ! 相手のペースに乗っちゃダメだろ!」


「ちょっと赤良! 何をビビってんのよ! 相撲の実力で劣っているとか根拠無く言われて、黙っていられるはずが無いでしょう! そこまで言うなら、こっちの実力を見せつけてやるだけのことよ! 私が相手してあげるから、さっさと靴を脱いで土俵に入りなさいよ!」


 いや、無理でしょ。


 クロハはさっき、魔法で魔封波を放ったばかりだぞ。羽二重餅を食べて体力を回復させたとはいえ、まだ万全ではあるまい。その状態で相撲を取ったとしても、実力は出し切れないだろう。そもそもナメクジ星人みたいにさっさと腕を再生させてみろよ。


 ……ところで、登場した時からフユカゼさんは相撲部だと名乗っていたけど、そもそも出現自体があまりにも唐突だったため、彼女の力士としての実力がどの程度なのか、考えていなかったな。


 俺は改めて、アキカゼさんの体を舐めるように見た。


 ……ああ、誤解しないでくれよ。あくまでも力士としての力量の品定めだ。エッチな目線で見ているわけじゃないぞ。分かっているよな?


 背は、クロハよりも少し高そうだな。ただし二階堂さんよりは明らかに低いだろう。


 体格は……よく分からない。


 巫女衣装というゆったりした服を着ているため、体の線が分からないんだ。ましてや夜で、灯籠の朧気な光オンリーの中という条件もある。


 ただ、よくよく目を凝らして見てみると、巫女衣装ごしではあるけど、胸部の二つのふくらみは、ゆったりした衣装のゆとりに負けずに自己主張しているのが窺える。こりゃ、脱いだらすげぇ爆乳だぞ、きっと。


 てことは、筋肉質というよりは、脂肪もしっかり付いている体なんじゃないかな?


 ……それは相撲取りとしては、いい体格なんじゃないかな。


 例えばボクシングのように体重制限の厳しい競技では、脂肪を限界まで少なくして体重を規定以内まで減らす。だけど相撲のように基本的に体重制限が無い無差別級だと、筋肉だけの体よりも、ほどよく脂肪が付いている方が強い。


 アキカゼだかフユカゼだか、巫女服の女、結構強いかもしれんぞ。


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