第128話 俺TUEEEEはずだよな
ここで一つ、たとえ話をしてみよう。
3キログラムの綿と、綿が3キログラムの敷き布団では、どちらが重いか?
中身の綿だけではなく包んでいる布の重さもあるので、敷き布団の方が重い。
極端な話、綿が筋肉、包んでいる布が脂肪だと俺は解釈している。念のため言っておくけど俺の独自解釈だぞ。
筋肉の量が同じなら、その筋肉の動きの妨げにならない程度に脂肪が多い方が体重が重くなり、相撲では有利だ。
そしてその脂肪は、筋肉を動かすエネルギー源となる。
結論。体を服の上から見た範囲では、巫女服のフユカゼの方がクロハよりも強そう。
クロハより強いってことは勿論恵水よりは強いだろう。だけど、二階堂さんと比べたらどうかな?
売り言葉に買い言葉とは言うが、どっちが売り手でどっちが買い手かは最早不明である。
クロハは、早速靴と靴下を脱いで、土俵に上がっている。気が早いことだ。ところで靴は脱いでも服は脱がないのか? 脱いでもいいんだぞ。
それに対して巫女服のアキカゼだかフユカゼだかが、バカにしたように笑った。いや、ようにじゃない。明らかにバカにした。
「あなた、うぬぼれが過ぎるのではありませんか? そんな片手が●●●の状態でわたくしと互角に相撲を取れるとでも思っておられるのですか? 冗談はご尊顔だけになさってくださいますか?」
おいおい。
巫女服のナツカゼとやら。堂々と差別用語を使ってきやがったぞ。これ、放送できないやつだよ。ピー、という修正音が入ってしまうやつだ。
「あんたなんか片手で十分だって言っているのよ! それに、私の手は魔法で治せばちゃんと生えてきますから。永遠に生えてくるチャンスの無いハゲオヤジの髪の毛と一緒にしないでもらえる?」
クロハの発言も過激を極めた。それは、頭髪の薄い男性に対する差別発言だ。ルッキズムというやつだな。ルックスの良くない男性に対する差別は正当化されるという、クソたわけた思想だ。そういうのを思想と呼びたくすらないぜ。
「あなたに勝ったところで、何の自慢にもなりませんわ。それに、仮に私が勝ったらあなたは、『腕のハンデがあるからだ』と言い訳するに決まっています。そんな、最初からエクスキューズの付いた勝負はする必要はありません」
この巫女服の夏風という女、つかみ所が無いな。というか名前に関してはアキカゼでもフユカゼでもなかったわ。
差別用語の●●●なんて言葉、今の若い人は普通は知らない。差別用語として使われなくなって久しいから、若い人は知らないのだ。知っているのは俺のようなアラフォーのオッサン以上の年代の人くらいだ。あるいは若い人が知っているケースとしては、明治の文豪の文学作品を読むような人くらいだろう。
夏風は巫女服を着て古風なしゃべり方なんかをしてキャラ付けしているし、古典文学というか、明治時代あたりの近代小説もよく読んでいるのかもしれない。
「ここは、わたくしが対戦相手を指名させていただきますわ。あなた、男であるにもかかわらず相撲部の集まりの中に普通に混じって存在しているってことは、ただ者ではないのでありましょう? ならば、あなたと対戦してみようかと思います」
巫女衣装の白い大きな袖を翻して、夏風は俺を指さした。
えっ? 俺か?
予想外の展開が来た。来ちゃった。
俺かよ。俺、監督だぞ。力士じゃないんだぞ。それにそもそもこちらの世界では男は土俵に入ることすら許されないんじゃなかったっけ?
……だけど、俺が持ち前の冷静さを発揮して明哲な判断をしてみると。
相手の夏風の方こそ、冷静な判断で俺を選んだんじゃないか、と思えてくる。
夏風の身長を考えたら、恐らくそれよりは体格で劣る恵水には勝てるだろう。
クロハにも勝てるだろうと思われる。仮にクロハの腕が万全だとしても夏風の方が上背で勝っているし、体重もありそうだ。夏風が勝てるという見込みが立つのが当然だ。
でも、二階堂さんには勝てなさそうだ。体格が違う。
それに、二階堂さんは有望選手として名高い。ならば、他の市町村の都市艦にも情報がわたっていて、二階堂さんに関する噂は聞いているのかもしれない。自分よりも強そうな相手に勝ってこそ実力を示せるというものだが、そこで本当に負けてしまっては格好がつかないから、二階堂さんとの対戦は回避したのだろう。
消去法で残ったのは、男である俺だ。相撲だけに、のこった、のこったと行司の声が聞こえてきそうだ。
ふん。俺も舐められたものだな。
ならば、言うだけのことは言っておいてやるわ。
「一言だけ、どうしても言っておきたい。俺は、こう見えてけっこう相撲強いんだぜ? 甘く見てかかってくるなら、痛い目に遭うのはそっちだと思っておいた方がいいぞ」
俺はあえて余裕ぶった言い方で、ナツカゼさんに宣告した。いや、略さずに言えば明確に宣戦布告だ。
俺だって監督ではあるけど相撲関係者だ。相撲をやるからには、そう簡単に勝ちは譲れない。
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