第126話 誠意あふれる東神楽町


 旭川市のふるさと納税の返礼品か。考えたことも無かったな。そもそもふるさと納税って、その市町村の外に住んでいる人が該当者だからな。旭川市に住んでいる俺にとっては旭川市のふるさと納税は無関係だ。


 ふつーに住民税だし。


 ふるさと納税の返礼品。旭川市の場合、いずれにせよ、大した話題になっていないってことは、たかが知れているだろうな。たぶん、農産物あたりなのかな。


「旭川には、確かに農産品もあります。旭川市は人口30万人を抱える道北地区の中核都市とはいえ、広大な土地を抱えた農産地でもあります。色々な作物が獲れます。ですが、それは地形や気候が酷似している近隣町村でも同じような作物が収穫できるのです。農産品が特色には成り得ないのです」


 やっぱりそうだよな。農産物とかって、近隣の自治体でも大体同じようなものが穫れるのは当然だ。個性を出しにくいんだよな。旭川で作れる作物は、隣の町でも作れる。でもそれは逆の見方をすれば、隣の町で作れる作物は旭川でも作れる。


 そう考えると、近隣の市町村と競合し合っていれば、田舎の自治体から順番にどんどん埋没して行くんじゃないのかな?


「旭川市のように中途半端に大きな人口を抱えると、特色を出しにくくなります。作物も色々作ることができる。ジンギスカン用のラム肉、メロン。お米、そのお米を作ったお酒、あと、蕎麦とか、乳製品もあります。だけど、旭川市といえばコレ! という売りが無いのも事実です」


「……そうは言うけど、じゃあ東神楽って、何か有名な特産品ってあったっけ? 別に俺はさ、旭川のことも東神楽のこともバカにするつもりは無いけどさ。ものすごい特産品や全国的に超有名な観光地を持っている自治体なんて、そうそう沢山あるもんじゃないだろう?」


 旭川近郊だったら、美瑛町くらいじゃないだろうか。あそこの青い池は超有名だ。実際に見てみると本当に真っ青できれいだし。ただし来ている観光客の大部分は中国人だけどな。


「東神楽町を甘く見ないことです。旭川市に空港はありますか? 無いですよね。旭川市の空の玄関口である旭川空港は、東神楽町に位置しているのですから」


 うっ。


 それを言われるとな。


 でも事実は事実だ。冬季間でもほとんど欠航が出ないということで有名な旭川空港は、旭川市ではなく隣の東神楽町にある。


 そういうケースは珍しくないとは思うけどな。たとえば札幌の玄関口である新千歳空港だって札幌市ではなく千歳市にあるわけだし。東京ネズミーランドだって千葉県にあるし。新東京国際空港だって成田にあるし。銀座アスターだって銀座以外のどこにでも存在できるし。


 それも、陸地の日本があっての話だ。都市艦の場合、艦自体が航空母艦みたいなもので、飛行機が無ければお互いの連絡も不便だ。ヘリコプターや連絡艇だけでは限界があるからな。


「ちょっと待ってよ。赤良だけで話を進めないでくれる? 今まで話を聞いていたらね、あなた、東神楽町の町長か何かなの? あなたに、そういう東神楽町の方針について外部と交渉する権限ってあるの? もっとハッキリ言うと、私たちは高校の相撲部であって、旭川市全体を代表しているわけでもなんでもないから、権限は無いわよ?」


 クロハが口を挟んできた。言っている内容は部長らしくまともだが、口の中に羽二重餅が残っていて、発音が多少もごもごなっているのが台無しだ。


「あら、そんな当たり前のことを。我々だって、権限なんて何も無いに決まっているじゃないですか。我々はただの女子高校生の相撲部員なのですよ」


 無いのかよ! じゃ今までの話はなんだったんだよ。


「いずれにせよ、遅かれ早かれ、旭川市は近隣町村との協力関係を取り付ける必要が生じます。爆破テロで窮状に陥っているのですから、必ずそうなります。そちらの話し合いは、当然祖町村の幹部や実務者同士で行うことになるでしょう。で、具体的な協力内容の話の中で、我々東神楽高校相撲部が力を貸す、ということが出てくるはずです。話が出てきてから顔合わせをするよりも、あらかじめ根回ししておいた方が、話が早いでしょう?」


 根回しか。根回しされている側としては、外堀を埋められつつあるってことだ。こちら側が取れる選択肢の幅は狭いということだ。


「我々だって、西神楽を取り戻そうとしている願望を隠してあなたたちに接近する選択肢もあったのですよ。ですが、そうしなかった。正直に話しました。我々とあなた方はこれから味方として協力関係になるのです。ですから、我々はあなた方に対して誠意を見せているのですよ」


「何が誠意よ。気に入らないわね。恩着せがましいったらありゃしないわよ。本当に誠意があるなら、西神楽とか無関係に協力関係を申し込んで来なさいよ。そうすればこちらとしても少しくらいは話を聞いてあげてもいいってもんよ」


「そ、そうよね」


「確かに、、、、」


 クロハの言葉に、恵水と二階堂さんもおずおずと同意した。


「まったく、困っているのは旭川市なのに、肝心の旭川市民が危機感が無くて現状を理解していないなんて、嘆かわしいですわね」


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