第124話 東神楽町の野望


 招かれざる客は、本当に頼んでいなくても向こうから勝手に来るものだ。


 やってきたのは、イワノ、ナツカゼと名乗る美人女子高生だけど、喜んでいる場合ではない。


「東神楽高校? そんな高校、旭川市内にありましたっけ?」


 俺の背後から声が聞こえる。天秤棒を担いで、俺が前、二階堂さんが後ろを担当しているので、二階堂さんが言ったのだ。


「わたくし、いえ、我々は、東神楽町から来たのですわ」


「えっ!!!」


 クロハと恵水と二階堂さんは驚いて思わず声を上げてしまっていた。棒に吊されている魔族の美女は、別にギャグボールを噛まされているわけではないが、無言だった。


 てか、重い。闖入者の発見により歩みが止まってしまったため、律儀に担いでいる必要はもう無いはずだ。俺は後ろの二階堂さんを一言促して、一緒に天秤棒を肩から降ろした。魔族の美女は腹這いエビ反り状態で神社の手水舎の横あたりに腹からランディングすることになった。


「あなた、旭川とは別の都市艦から来たってこと?」


「そうよ。近隣市町村同士、仲良くしたいところね」


 巫女姿の岩野夏風は、仲良くしたいとは口に出したが、その口調はあくまでも挑戦的だ。


「東神楽町、か」


 俺は小さくつぶやいた。もちろん、俺は知っている。


 旭川は、人口30万人を抱える、北海道北部の中核都市だ。旭川周辺には、複数のベッドタウンというべき町村がある。東神楽町もまた、その一つである。


「でも、東神楽町に、高校なんてあったっけ?」


 俺の知る限り、ということはつまり、俺の居た元の北海道の話ではあるが、東神楽町に高校は無かったはずだ。だからつまり東神楽町内の中学生は、卒業すると、旭川市内の高校に進学するケースが大部分ということになる。


「陸地の北海道に東神楽町があった頃は、町内に高校はありませんでした。でも今は都市艦の時代。町内に高校が存在しないと不便でしょう? だから今は町内に立派な東神楽高校が存在するのよ」


 まあ、そりゃそうだろうなあ。


 北海道という大地の上に市町村があって、地続きだったら、隣町である東神楽町から旭川市内の高校へ通うことも十分に可能だろう。てか、町内に高校が無いんだから、どこか町外の高校へ行くしか無いんだから。


 でも、こちらの世界は都市艦だ。地続きじゃない。


 となると、人口規模の小さい都市艦であっても、高校が無ければ困るだろうな。


 大学、までとなると難しいかもしれないけど、高校が地元に無いと、どうしようもないだろう。


「で、その東神楽高校の相撲部さんが、私たちに何の用なのかしら?」


 相手が挑戦的なら、旭川西魔法学園相撲部の部長であるクロハも負けじと挑戦的な口調で返した。


「あら、そんな無理して強がらなくてもよろしいのに。あなた方が困っているのは、こちらは承知しているのですよ?」


 はて? 俺ら、困っているような案件ってあったっけ?


 まあ、消費税がバカ高くてお金が乏しくて困っているけど。


 あと、アラフォーの現在に至るまで全然女にモテなくて困っているけど。


 たぶん、東神楽高校相撲部が、わざわざ別の学園艦、、、、じゃない、都市艦に乗り込んで来てまで言っているのは、俺のプライベートなことじゃないよな。


「都市艦が、魔族のテロで破壊されて、困っているのでしょう?」


 ……ああ、そうだな。都市艦全てが破壊されたわけじゃなさそうだけど。……全て破壊されていたら艦自体が沈没して、俺はとっくに海のもずく酢というか、俺自体が海産物になってしまっている。


 ……てか、旭川の都市艦が魔族のテロ攻撃を受けたことに、よくぞすぐに気づいたな。間諜でも入り込んでいるのか。……もしかしたら、教育大とか医大とか旭大とか、旭川市内の大学に、東神楽町出身者がこちらの艦に移り住んで通学している、というようなこともあるのかもしれない。


「お困りでしょうから、我々、協力を申し出に来たのですよ」


「協力? そりゃ、攻撃を受けて破壊された部分は修理が必要だろうけど、それをするのは工事関係者でしょ? 高校相撲部女子の出る幕じゃないと思うんだけど」


 クロハが冷たく言い放つ。魔族の攻撃で破壊された部分があることは否定しなかったし、隠しもしなかった。隠しても無駄と判断したのだろう。


「いえいえ。勿論、工事のお話ではありません。きたるべき魔族との決戦の時に、道北地区の中核都市として相応しい活躍ができないと、旭川市としてもメンツが立たないでしょう? ですから、我々東神楽町がお手伝いして差し上げる、と支援を申し出ているのですわ。もちろん、謝礼はいただきますけど」


 タダじゃねえのかよ。


 そりゃ、なんでもタダでもらえるほどムシのいい神経はしていない。でも、タダじゃないなら、そりゃ支援というよりは、これ、商談というか、取り引きなんじゃないの?


「我々が支援する代償として、日本人が北海道を取り戻したあかつきには、我々東神楽町に、西神楽地区を返していただきたいのです」


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