第117話 健康にいい牽強付会


「魔族の女、見た目は確かにきれいでセクシーだからね。赤良みたいなエロいオッサンどもの手に渡ったらどうなるかは、想像に難くないわね」


「おい待てよ。俺をゴウカンマの代表格みたいな言い方をするなよ」


「法の適用が難しければ、あとはいわゆる民度がものを言う。今の日本の民度で、あの魔族の美女を好きにしていいと言われて、赤良は絶対に手を出さないと約束できるわけ?」


 バカにしやがって。


 その辺のケーハクなヤリチン男と俺を一緒にするなよ。


 だけど、常に理性的に行動するカッコイイ俺はともかくとして。


 じゃあ、他の奴が狼藉に走らないという保証ができるかといえば、できないだろう。いかに民度の高い優秀な国家である日本であっても、ごく一部、例外が存在するのは仕方ない。そして得てして、その例外の非道な行為が問題として取り上げられてしまうものなのだ。


「法というのはね、罪を犯した者を適正に罰するためのものであると同時に、被害者側による過剰な報復行為から加害者を守るためのものでもあるのよ。被害者であればどんな蛮行も許されるのであれば、それは法治国家ではなく、単なる無法な野蛮人国家。いや、国家ですらなく、野蛮人の部族よね。でも、魔族には法は適用されない。でも、だからといって私刑として、赤良のような脂ぎったエロオヤジたちが彼女を蹂躙するようなことは、人道的見地から、避けなければならない」


 クロハの奴、言っている内容は法に基づいた理性に沿っていてかっこいいんだけど、いちいち俺を引き合いに出すなよ。


「だから、警察には通報しない」


 あ、あれ。そしたら、報奨金3000万円は? もらえるチャンスがなくなるんじゃないの? 勿体ないな。


「だから、この場で、私と赤良の二人だけで、魔族の女の尋問をして、引き出せるだけの情報を引き出すわ。まあ、どうせ末端のスパイというか破壊工作員だろうし、大した情報を持っていない可能性も高いけどね」


「尋問するって言うけど、どうするんだよ。素直に情報をペラペラとバラしてくれると思うのか? まさか、拷問でもするのか?」


 魔族ではあるけど美女に対して拷問か。それって当然、エッチな拷問もアリだよな? それが罪に問われないというのならば、ちょっとやってみたい気がする。


 でもクロハの奴、人道的見地とかなんとか言っていたよな。


 魔族の女が理不尽なリンチに遭わないために、人道的見地から、警察には引き渡さず、俺とクロハだけで処置する。そう言っていた。それなのに拷問をするだろうか?


「拷問なんて、そんな、非人道的なことを、いかに相手が魔族とはいえ、やるわけないでしょ。だから赤良はその野蛮人思考を捨てなさいよ」


 野蛮人って言うなよ。無抵抗な美女に対して好き勝手にエッチなことができる。男なら一度は夢見るシチュエーションってだけだよ。あくまでも妄想だけで、実際にはやらないけどな。


「赤良。私の先見の明を讃えなさい。こういう状況を想定していたからこそ、あなたに、青汁を持ってこいって指示しておいたのよ」


「は? どういう脈絡で青汁に繋がるんだ?」


 なんだこれは。風が吹けば桶屋が儲かる方程式か?


「相手は魔族なんだから、人間サイドである我々に対して素直に情報を吐露するとは思えない。ならば拷問が必要。だけど人道的見地から、拷問は避けたい。ここまではアホの赤良でも分かるでしょ?」


 俺ってばよ、まがりなりにもクロハが女子高生として所属している女子相撲部の監督様なんだぜ。もうちょっと敬意を払ってくれてもバチは当たらないと思うんだけどね。


「そこで、青汁を飲ませるのよ。マズい青汁を飲むことになるから、魔族にとっては拷問に感じるでしょう。でも、青汁は健康に良いものだから、青汁を飲ませる行為は拷問には該当しない。むしろ相手のための行為だから非難されるいわれは全く無い」


 むちゃくちゃな牽強付会が出てきた感じがする。


 でもまあ、いくら健康にいいから飲めと言われても、あのマズい青汁を何杯も飲まされれば、俺でも拷問と感じて、何でも言うこと聞くから勘弁してくれと泣きつくかもしれない。


「だから赤良、さっきの紙袋の中に、青汁、入っているんでしょ。持ってきて」


「へ?」


 ここですれ違い、行き違いが発生していることに気づかされてしまったわ。


「いや、クロハ。非常に言いにくいことなんだけどな、紙袋に入っているのって、二階堂さんが差し入れてくれた羽二重餅なんだわ。さっき、お前に食わせてやっただろ。恵水が差し入れてくれた青汁は無いんだわ」


 クロハは無言で、俺の方を強い視線で睨みつけた。


「ホントだってば。ほら」


 体力を消耗しているクロハは地面に座り込んだままだ。なので俺が紙袋を拾ってクロハの近くに行って、紙袋の中身の箱を取り出し、中を開けて見せた。


 既に幾つかは食べたが、まだ多くの個包装の羽二重餅が残っている。


 紙袋を逆さにして降っても、青汁は出てこない。当たり前だな。


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