第116話 もっと光を (ゲーテ)
騙されて利用されていたとはいえ、美女と一緒の車に乗っている瞬間は嬉しかったし、一軒家も世話してくれたしで、デメリットよりもむしろメリットの方が多いくらいなんだけど。
しかしそれにしても、魔族を封印するのが、土俵でいいとは。便利といえば便利だな。お札を貼った密閉容器でなくてもいいのか。
封印された、とはいえ、あまり迂闊に接近しすぎると何があるか分からないので怖いので、俺は少し距離を置いて、魔族の女の真っ正面に腕組みをしながら立った。
頻繁に散っているあの静電気が、封印のパワーなのだろうか。あれは座っているだけでもチクチクと痛いだろうな。てか、俺が迂闊に触れたりしたら思い切り痛そうだ。静電気というのは一瞬だけだが、かなりの高電圧だと聞く。
俺は安全のために、もう少し後ろに下がった。
、、、、、、、うーん、やっぱりダメか。
魔族の美女は、タイトな短いスカートをはいていて、それでいて土俵の上にあぐらをかいた状態で座っていて、身動きが取れない。
なので、少し距離を置いて目線が下がれば、スカートの中のぱんつが見えるのではないかと思っていたのだが、残念ながら光源が離れた場所の灯籠だけなので、暗くて見えない。
「もっと光を」
誰だったか有名な文学者の遺言だか臨終の言葉と偶然一致した。ゲーテだったかな。『ファウスト』だとか『若きウェルテルの悩み』などの作者として知られるドイツの文学者。俺、異世界に転生してゲーテと同じ高処の境地に至ったわ。
「ちょっと、赤良、あなた、あの女のスカートの中を覗こうとしているでしょ。いやらしいわね」
「ななななななな何を言っているんだクロハ。言いがかりはやめてくれよ。俺はそんな、スカートの中をノゾキとか、していないぞ。暗くて見えていないから」
慌てて俺は魔族の女の真っ正面から横の位置にズレた。
「ホント、アラフォーのオッサンってちょっと美人の女を見たらテンション上がって、おだって、隙あらばエッチなことばかり考えていて、どうしようもないというか救いようもないというか」
「だからそれは言いがかりだって。そんなくだらないことばかり考えているわけじゃないぞ。言ってしまえば俺は歴史上名高い文学者の境地に至ったんだぞ」
こっちの世界にゲーテって歴史上存在していたのかな?
「もうどうしようもないというか、ホントに呆れるわ。赤良、私が魔法を使ったばかりでほとんど動けないからって、どさくさ紛れにヘンなところ触ったりしないでよね?」
「しねえよ! それくらいは信じろよ!」
「今までのあなたの言動がエロオヤジそのもので信用できないから言っているんでしょうが」
クソ。クロハの奴、鋭いというか、俺が魔族の美女のスカートの中を気にしていたのを気づきやがって。
このままだと不利なので、話題を逸らそう。
というか、今の状態が本題からズレまくっているぞ。
「なあ、そんな言いがかりよりもさ、あの魔族の女、どうするんだ? ずっとあのまま土俵の中で座らせておいて大丈夫なのか?」
そう。こっちが本命の本題ど真ん中だ。俺がスカートの中を見ようとしていた疑惑なんて横道に逸れまくっているぞ。
「魔族にとって相撲は天敵だから、大地震でも来て土俵が崩れて屋根が倒れるようなことでも無い限り、結界の中から逃げられる心配は無いわ。ここは都市艦の上だから津波ならともかく地震の心配は無いし」
そりゃ地震は心配無いだろう。でも、艦ってことは、また昼間みたいに内部で爆発が起きたりしたら危ないんじゃないだろうか。あるいは魔族が魚雷攻撃でも仕掛けてきたらどうするんだ。艦だからこその弱点もあるはずだ。
「そんなことよりまずは、尋問ね。どの程度まで都市艦の情報を把握しているのか。素直に吐くとは思えないけど」
「なあクロハ。こういう場合って、通報して警察に引き渡した方がいいんじゃないか?」
俺のまっとうな意見に、クロハは地面に座り込んだまま、首を横に振った。
「それは人道的見地から、ダメね」
人道的見地。この状況でクロハの口から出てくる台詞としては、最大極大の違和感を伴っている。ニシキゴイが棲む日本庭園の池にブラックバスやブルーギルを放流しているみたいだ。
「あのね赤良。魔族は魔族であって人間じゃないから、人権は無いのよ。法の庇護も無いし裁判を受ける権利も無い。となると、捕縛された魔族は、どうなると思う?」
「ど、どうなるんだよ?」
「単純に考えれば、リンチに遭うわね。公的な刑が無いんだから、私刑というやつ。人間はみんな、国土を蹂躙して収奪した魔族に対して恨みを募らせているんだから」
おいおい。日本は世界のトップを進んでいる法治国家だったよな。独裁者に支配されて、政府の高官ですら裁判無しに処刑されてしまう、某半島の北側の国とは違うはずだよな。
それが、魔族絡みの問題になるだけで、人権を適用せずに私刑とな。そんなアフターザホロコーストのアニメみたいな無法な世界が、ここにあるというのだろうか。
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