第118話 宇宙人、未来人、超能力者は役に立つ


「ちょっと赤良! どうしてせっかくの指示を無視したのよ。青汁は今どどこにあるのよ?」


「俺の一軒家に置きっぱなしだな」


「ほんと、異世界人は使えないわねえ。だからアニメでは、宇宙人と未来人と超能力者だけが来て異世界人は来なかったのね。これなら、ただ素直に指示を聞いてくれるだけのただの人間の方がよっぽど有用だわ」


 クロハの奴、なんでこんな異世界人を差別する文脈の時だけアニメのことに詳しいんだよ。


「じゃあどうすればいいんだよクロハ。今から俺の家に戻って取ってくるか?」


 少し考えてから、座ったままのクロハが答える。


「それだと、家に戻る時間と、家からまたここに来る時間がかかって、無駄が多いでしょ。いいわよ、別に青汁が無くても尋問くらいはできるし」


 じゃあ最初から青汁いらないじゃん。


 と言いたかったけど、言わないでおいた。俺って優しいな。その優しさに相手が気づくことは永遠に無いケースだけどな。


 それでクロハはどうするのだろうと思っていたら、地面に座ったままで懐からスマホを取り出し、メールかラインかを始めた。誰に連絡を取っているのだろうか。


「ええと、あと、長いロープと、太い頑丈な木の棒があった方が運びやすいわね」


 なにか独り言を言いながら、クロハはスマホ操作を終えた。


「さて、恵水と二階堂さんを呼び出したから、二人が来るまでの間、私と赤良とで魔族の尋問を済ませておきましょう」


 尋問を先にやるってことは、その二人に青汁を持ってきてもらうんじゃないのか。


「屋根付きの土俵に封印された今の状態だって、魔族にとっては苦痛のはずよ。そこに長時間居れば居るほど、根幹から魔力を吸い取られてしまうし」


 相撲って、そんなに魔族に対して効果的なのかよ。だったらなんで両国国技館は破壊されちまったんだよ。


 それ、日本の首脳がよっぽど慢心したってことじゃないの?


 まあ、俺にとってはこちら側の日本は地元ではなく、ある意味お客さんのようなもんだからな。選挙権すら無いわけだし、首脳の無能に口出しをしてもどうしようもないだろう。そもそも過去のことだし。


 でも、過去はともかく、これから先はどうするんだ?


 都市艦に避難したのはいいけど、魔族のテロ攻撃を受けるようでは、どうしようもないだろう。いつになったら本土を取り戻すことができるのだろうか。


 ところで、尋問って、誰がやるの?


 クロハは、いまだに魔封波を撃った影響で地面に腰を下ろしたまま、あるくこともままならない様子だ。声を発することはできるとはいえ、この状況では、俺が、クロハのアドバイスを受けながら、魔族の美女に対して尋問するしかないだろうな。


 俺は土俵のリングの中に入り、魔族の美女があぐらをかいて座っている真っ正面に立った。当然上から見下ろす格好だ。大きく開いた襟ぐりから胸の谷間が覗けるが、惜しいことに暗い。もっと光を。


「なあ、地下の製麺工場を破壊して、何の利点があるんだ?」


 率直な問いかけだ。駆け引きも何も無い。答えてくれるなどと期待してはいなかったが、魔族の美女は挑戦的な笑みを浮かべた。暗闇の中でも、唇の隙間から覗いた歯の白さが妙に生々しい。


「末端の市民には知らされていないでしょうから、知らなくても仕方ないわね。でも、地下製麺工場とは、あくまでも表の顔。その裏では、ラーメン製造技術を使って、両国国技館再建のための、消耗品を製造していたのよ」


「消耗品?」


 というか、両国国技館を再建するとは言うが、具体的にどのような手順を踏むのか、想像がつかない。


 普通だったら、測量をして、基礎工事をやって、鉄筋を立てて、という具合に当然ながら大規模な工事になる。


 さて、そんな悠長な工事を、魔族が黙って指をくわえて見ているだけ、ということがあるのだろうか。今の日本の国土を占領しているのは魔族なんだよな。


 人間は日本に上陸し、その上で魔族の妨害をかいくぐって国技館建設だ。それどう考えても不可能でしょ。ニコライ王朝のロシア帝国に攻め込んでモスクワを占領してエッフェル塔を建てる、なんてことができると思うだろうか。


「人間の考える浅知恵なんて、とっくにお見通しよ。海上あちこちにある都市艦で両国国技館の部品を製造し、上陸と同時に一気に運んで仮の両国国技館を手早く組み立てて、魔族封印の儀式を行う。そういう作戦でしょ。


 それが単純に成功するなら苦労はしなさそうだけど、魔族の妨害をどうするつもりなのだろうか。インパール作戦よりも無謀なように思えてしまうのは俺だけかな。


「でも、両国だけで作戦を行うと、魔族もそちらに戦力を集中させて来るから、囮という意味でも全国各地で魔族封印の儀式を進める方が良い、と人間なら考えるわね。そこで、それぞれの都市艦で、土俵を製造して、その土俵を元の国土に設置して、魔族の動きを制する。そういう作戦が自ずと生まれてくるわけよね」


 なるほど。相撲、というか土俵がそんなに魔族に対して効果的なら、全国各地に土俵を作りまくれば、魔族は日本の国土に生活して行けなくなるじゃないか。


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