第113話 四島奪還! (北海道、本州、四国、九州)


 四島奪還か。クロハが言う四島というのは、北海道、本州、四国、九州のことだろう。


 俺が元居た世界で聞いた四島奪還というワードが意味するのは、北方領土のことだった。択捉、国後、歯舞、色丹だ。頭を取ってエクハシと覚えるのだ。


「まるで私がここで負けるのが確定しているような物言いが、さっきから気にくわないのよね。魔族と人間、どちらの方が基本的な戦闘力で優れているか、知らないはずがないでしょうに!」


 そう言った魔族の美女は、右手の人差し指と中指を揃えて突き出し、他の指は握った状態で、その二本の指を己の額に翳した。


 ん? そのポーズは?


「その技は、気を貯めるのに時間がかかるのが弱点よ! サポートする仲間が居ない一人の状態では繰り出すのは難しいわよ!」


 と叫びながらクロハが魔族の美女へ向かって駆け出す。いよいよ女同士の舌戦は切り上げて、実力行使で決着をつけるらしい。


「遅い!! 魔貫光殺砲!」


 魔族の美女が、気を貯めて淡い紫色を帯びて微かな燐光を発している右手を、駆け寄ってくるクロハに向けた。


 俺は思わず叫んでしまった。


「バカな! その技は魔族を貫いて殺すための技だったはずじゃ……」


 バカなも何もなかった。現実に魔族の美女の指先から、眩い光線が発せられ、闇の空間を灼くようにして白く切り裂いて真っ直ぐ進んだ。中央を貫流する少し太めの主力光線の周囲を、少し細めの光線が螺旋状に彩るのが、残光として俺の目に焼き付いた。


 クロハは咄嗟に右に回避した。が、ギリギリだった。


「キャッ!」


 短い悲鳴と共に、クロハはバランスを崩して手水舎の横で転倒した。


 マズいぞ。魔族の女とクロハの距離が接近した中で転倒すると、そのまま接近攻撃を受けてしまうじゃないか。俺は反射的に、クロハを助け起こそうと駆け寄った。


 だが、魔族の女は、現在立っている位置から動かなかった。


「愚かね。魔貫光殺砲は、魔族が撃つ貫通性の強い必殺技だから、魔貫光殺砲なのよ! 魔族を貫いて殺すなんて、そんなデタラメ、いつから流布しているのよ。歴史修正主義は恥ずべき行為だと覚えておきなさい!」


 魔族の美女から発せられた言葉に、俺は、屋根の上に昇ってから盛大にハシゴを外されて、それで屋根から地面に転落したような衝撃を受けた。


 なんだよ! やっぱり俺が知っていたアニメの知識で最初から合っていたんじゃないかよ!。。。。。。


 それはそうと、倒れたクロハが未だに起き上がらない。右手で左の肩あたりを押さえて、苦しげに呻いている。灯籠の明かりのみの暗さの中で魔貫光殺砲の強烈な光が放たれたので、細かい状況がよく見えていなかった。


「お、おい、クロハ、お前、左腕……」


 俺は絶句した。なんか、アニメでもそういう展開があったような気がするが、クロハの左腕は肩口から先、半袖Tシャツの袖の長さくらいの場所で切断されて脱落していた。そこを抑えているクロハの右手の指の間からは、若干の血が流れ落ちていた。


「大丈夫よ。高熱で焼かれたから、出血はそれほどでもない。まだ戦えるわ」


「いや……それが左腕を丸々失った者の言う言葉かよ……」


「だから大丈夫だって。後で魔法で再生すればいいんだから……それより、油断しないで!」


 再生できるのかよ! それ、アニメでは魔族が再生できるんじゃなかったっけ? でも、魔法というワードを言われては、俺としては納得するしかない。魔法を使って何ができて何ができないのか、イマイチ分からないけど、こちらの世界の住人であるクロハができると言うからには、できるのだろう。


 だけど魔法は原則として一日一回限定だ。今すぐに使ってしまうと、気力を完全消費してしまい、動けなくなってしまう。てことは、治療は、戦闘が終わって安全を確保できてからってことになる。


 おいおい、どうするんだよ。片腕が無くなった、ダメージを受けた状態でどう戦うっていうんだ。


 こりゃ、俺がメインで戦わなくちゃならないってことか?


 あまり気が進まないというか、なんというか……


 女を相手に殴ったりするような肉弾戦は、やりたくないな……


 美女の顔を殴るなんて、男子的にはバチ当たりも甚だしい。


 だが、そんな憂慮も吹き飛ぶような攻撃の二発目が、俺に向かって飛んできた。


「魔貫光殺砲!」


「えっ……」


 俺はその声が聞こえると同時に、何も見もしないで何も認識しないで、ただ反射的に横に動いてごろりと地面に転がって受け身を取って、そのままその場の地面に伏せた状態で、眩い光の残像が螺旋を描きながら、一瞬前まで俺が居た場所を通過して行ったのを瞳孔に受け容れていた。


「今のを避けるなんて。意外と敏捷な動きをするのね。でも、次は当てるわよ」


 魔族の女は再び額に二本指を翳して気を貯めるポーズをしていた。


「そんなバカな。魔貫光殺砲を何回も連発で撃てるのかよ!」


「ふっ、下等で愚鈍な人間どもが撃つ魔貫光殺砲は、魔法を使って撃っている単なる偽物よ。だから一日一回しか撃てない。だけど私のような魔族が撃つ本家本元の魔貫光殺砲は、気を貯めさえすれば、何度でも撃つことができるのよ」


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