第112話 女の闘い! 女神vs魔族
キョロキョロと周囲を見渡し、女を捜す。どこだ?
石段の方で動きがあるのを、俺の視界の端が敏感に捕捉した。
居た。
石段を歩いて昇ってきたのだろう。女は上半身から次第に姿を現した。
それなりの高低差のある石段を昇ってきたからか、女の足取りは、少しふらついているように見えた。
あるいはそれは、灯籠の心許ない明かりだけの中で見えているせいで、そう見えているだけなのか。
女の顔は、今まで見た通り、色気に満ちた美人なのだが、不自然なほどに肌が白かった。肌が元々美白だから、というよりは、顔面蒼白なのかもしれない。
顔だけではなく、首筋も、その下の露出している胸の谷間の肌も、やはり白い。灯籠の細い明かりの中でこれだけ白がきわだつというのも印象的で鮮やかだった。
「ふふふ、よく来たわね、魔族の女。ここがあなたの墓場よ」
クロハが言った。女神のお言葉、というよりは完全に悪役の台詞だよな。
「土俵入りで魔族封印の力を敷衍させるなんて、なんて卑怯な」
胸元が大きく開いた服を着ていて、胸の谷間がくっきりと見える美女ではあるが、その美女はクロハを睨み付けて、今まで聞いたことも無いような低い声で言った。
まるで、美人フィギュアスケート選手が冬季オリンピックのショートプログラムの演技に挑む時のような、鬼気迫る表情だ。
参道の真ん中を歩いてきた美女は、手水舎の前で立ち止まった。手水舎の建物を挟んで、クロハと向き合う格好だ。
……あー、神社の参道の真ん中は神様の通り道だから参拝する人は歩いちゃダメだぞ……と、ついつい俺は心の中で考えてしまった。
いかんいかん。これはいわゆるファンタジー警察やSF警察や弓道警察みたいな思考じゃないか。……そもそもあの女は魔族であって人間じゃないようだ。だから日本の八百万の神様を信奉してもいないのだろう。神道のルールなど、遵守するつもりも最初から無いんだろうな。
「あなた、地下製麺工場爆破テロなんて起こしておいて、本当に大胆不敵よね。その、胸の谷間を強調した服装も大胆だけど。でも、顔が割れてしまった以上、逮捕されるのは時間の問題だったわね」
「都市艦から上手く脱出できると思っていたのだけどね。まさか、その前にピンポイントで私に対して指向性のある土俵入りを仕掛けて来るとは予想外だったわ」
魔族の女の言葉は少し震えていた。瞋恚によるものもあるのだろうが、それだけダメージを受けて弱っているのかもしれない。
「あなたが地下製麺工場に潜入するために利用した城崎赤良が、子どもの頃からハワイアン大王波の練習を真面目にやっちゃったりするような愚直な男で、クソ真面目に土俵入りを何回も繰り返し実施しちゃうような男だったことが、あなたにとっての盲点というか誤算だったわね」
クロハの台詞に勝ち誇りの色が混じっている。と同時に俺に対してなんか小馬鹿にしている感じがするんだけど。
確かに俺は、ハワイアン大王波の練習をしていたよ。何回も何回も。結局撃てなかったけど。
「あら、まだ勝った気になるのは、早いんじゃないかしら? 見てみたところ、この神社には、あなたと、そちらのフォークリフターさんの二人しか居ないでしょ? 他に隠れている人の気配も無さそうだし。二人だけで、魔族であるこの私をどうしようというのかしら?」
魔族の女は挑発的な口調で言った。……いや、その、胸元が大きく開いた服で、胸の谷間がばっちり見えちゃっているという方が、よっぽど俺にとっては挑発的なんですが。
俺はほんの少し前屈み気味になってしまった。それはそうとして、女神と魔族の女同士の舌戦は続く。
「ふん。勝算があるから、ここにおびき寄せたに決まっているでしょ。爆破テロなんて、大胆なことを企てたはいいけど、それをやったら余程上手く逃亡をしない限りは自分の身が危ないことくらい分かるでしょうに。ホント、魔族ってアホよね」
「確かに逃亡は十全で成功したとは言えないけど、爆破テロ自体は成功したから、なんとでも言っていればいいでしょ。もし、私一人がここで仮に死んだとしても、魔族としては、両国国技館再建のための工場を破壊して人間サイドに大ダメージを与えることができたのだから、戦略的大勝利はもう既に確定しているのよ」
なんだって? 両国国技館再建のための工場を破壊した? いやいやいやいや、旭川ラーメンの麺を作る製麺工場でしょ? だから中二病御用達の粉塵爆発なんでしょ?
「ふん。製麺工場を爆破しただけで、両国国技館再建のための重要拠点を破壊したなんて勘違いしているなんて、ホント魔族ってオメデタイ劣等種族なのね」
「あなたが製麺工場の実体を知らないか、あるいは隠しているだけでしょ。こっちは、ちゃんと分かっているんだから。悔しかったら、とっとと日本列島に逆上陸して両国国技館を実際に再建させてみればいいじゃない」
「くっ……あなたに言われるまでもなく、他の都市艦と協力して、すぐにでも四島奪還を果たすんだから。……あなたは、それを見届けることは無いでしょうけどね」
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