第85話 20分間、俺はフェニックスになる!
「フォースフィールドね! 分かった!」
今の説明で分かったのかよ? とは思ったが、指示された恵水本人が分かっていれば充分なのだろう。
校舎の入口の前で煙に阻まれて立ち止まっている俺と二階堂さんに対して、恵水は目を閉じ両手を胸の前で組んで、口の中で何やら小さく呟き始めた。呪文、かな。
「……フォースフィールド!」
呪文の最後に力強く大きな声で術の効果を恵水は叫んだ。同時に、俺と二階堂さんに向けてそれぞれ右手と左手を突き出す。
風が、消えた。同時に、周囲に充満していた焦げ臭いニオイも消えた。これが魔法の効果か?
「二人ともよく聞いて。フォースフィールドの魔法をかけたから、あなたたちの体は不可視の力場というか、バリアーによって護られているから、安心して。このフォースフィールドは、炎の熱も遮断するし、有毒な煙も酸素の無い空気も遮断するから、火災現場に突入しても大丈夫!」
と、そこまで言ったところで恵水は前のめりに倒れた。倒れそうになったところをクロハが受け止める。
魔法を使ったのだから、力尽きたか。当分は動けないだろう。
「魔法を使って動けなくなった恵水は、私が部室のプレハブまで運んでおくから」
クロハの言葉に、なるほどと思った。力が強くて体力のある俺と二階堂さんが突入部隊で、恵水がフォースフィールドの魔法をかける。その恵水のケアをクロハがする、というみごとな役割分担だ。
「恵水が倒れちゃったからフォースフィールドの説明が途中になっちゃっていたけど、その魔法の持続時間はそれほど長くないはずだから、気を付けて。火災現場のど真ん中で突然魔法の持続時間が切れたりしたら助からないからね!」
まあ、そりゃそうか。便利な魔法が永遠に続くなんてことは無い。
「具体的にはどれくらいなんだ?」
「さあ? 魔法をかけた本人である恵水じゃないから、私には正確には分からないけど、せいぜい15分か20分くらいじゃないかな? フォースフィールドは言うなれば不死身になれる魔法なの。フォースフィールドのFはフェニックスのF。その代償として、持続時間が短くなっちゃうんだけど」
クロハの言葉に、正直な話、俺は少し落胆した。
たったそれだけか。短い。それじゃ充分な救助なんてできないだろう。
とはいえ、仮に魔法の継続時間が20分だとしたら、火災自体は発生時点から考えると30分以上経過ってことになる。炎と煙が30分渦巻いている中に取り残されている人が、その時点でまだ存命かと言われると、限りなく無理な筋だということは理解できる。
それに、火災発生から30分も経てば、いくら遅くても消防が到着しているはずだ。その時点になれば、俺たちのような素人がどうこうする段階ではなく、救助の専門家に任せるべきだろう。
「よし、二階堂さん、行こう!」
「はい!」
「クロハ! あとは恵水のこと、頼んだぞ!」
「こっちは任せて! くれぐれも時間切れには注意して!」
俺は腕時計で現在時刻を確認した。
持続時間は約20分と思われる。
ギリギリというのは危ない。突然魔法が切れて、ひと呼吸でも酸欠空気を吸ってしまえば、その時点で倒れて生還は不可能になってしまう。そのため、マージンを見て、2分くらい前には脱出を完了して安全地帯まで後退したい。
脱出するための時間も必要だろうから、それを3分と考えると、5分前になったら救助活動を中止して脱出開始が必要ってことだ。
ほんとに時間短いな。あまり大したことはできないかもしれない。
だからこそ、グズグズしてはいられない!
俺は、地下に降りる階段室の扉の取っ手に手をかけた。この状況では貨物用エレベーターは動かないと想定しておくべきだろう。仮に今は動いても脱出の時に動かなくなると困るし。なので、階段での移動をメインに据えて出入りを考える。
扉を開けた瞬間、暴力的な白濁した空気が押し寄せた。
「うわっ……」
俺は思わず左手を顔の前に翳して、顔を庇おうとしてしまった。意味無かったよな、相手は煙なんだから、腕で防げるもんじゃない。
「……あ、ほんとに煙臭くないし、普通に息ができるぞ」
ついでに言うと、これといった熱も感じない。
「でも監督、真っ白で視界が無いですね」
「そうだな。フォースフィールドでは視界は確保出来ない、ってのだけは誤算だったな」
「誤算といえば、フォースフィールドのFは不死身のFであって、フェニックスのFじゃないですよね。持続時間中は死なないけど、死んでしまったら不死鳥のように生き返れるわけじゃないですから」
クロハの奴、堂々とウソを説明していやがったのか。駄女神だな。
「それに、不死鳥のフェニックスはFじゃないってのは定番のネタですしね」
……あ、言われてみれば…………いやいや、言われる前から知っていましたけどね。PHOENIX……
俺は両手を左右に振って、白い煙を振り払おうとした。が、煙は煙だ。手のひらの部分を横に振り払ったとしても、また奥から奥から上に向かって押し寄せる。俺たちは高いところに昇りたがる煙と逆方向の下に進んで救助に向かわなければならないのだ。
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