第55話 女子高生の股間を分度器で測ろうとしたら怒られました

 佐藤恵水は顔を歪めながら、両足を少しずつ横に開いて行く。


「うっ、、、、」


 まるで静止画像のように、恵水の動きが止まる。止まっているように見える。


「ぅっ……ぁぐぁっ……」


 もだえている。


 歯を食いしばって股関節の痛みに耐えている。頬が少し紅潮しているのがうかがえた。


 ちょっと涙目になっているかも。


「はっ、ぁっ……」


「恵水の開脚。まだまだと言えばまだまだだし、ここまでできているといえば、できている、な」


 ぽつりと俺の口から漏れた素直な感想。


 俺は女子高生の体の柔らかさの標準なんて知らない。だけど、横に一八〇度開脚できる女子高生は、まず存在しないだろう。新体操部とか柔道部とかで、そういう訓練を受けていない限りは無理だ。


 佐藤恵水も、元はといえば普通の女子高生だったのが、相撲を始めて股割りの練習も始めた。で、現在はこれくらいできる、といった途中経過だ。


「角度でいえば、一三五度よりは行っているよな。正確なところは分からないけど。こういう時は分度器がほしいな」


「ちょっと、監督。さっきから黙って聞いていたら、何をヘンなことを言っているのよ」


 恵水が俺の方を向いて怒っていた。まるでトマトベースのカレールーのような赤いパンチのある視線が突き刺さる。


「いや、だから、恵水の股割りの様子を観察しているんだよ」


「てことは、やっぱり、さっきからずっと、私の股間を凝視しているってこと?」


「まあ、そうだな」


 嘘を言って塗り取り繕っても仕方ない。正直に言った通りだ。俺はさっきからずっと、女子高生佐藤恵水が大股開きしているようすを、股間に注目して凝視している。股間といっても黒っぽい紺のレオタードの上にアイボリーホワイトのまわしだけどな。


「ヘンタイ。オジサンが女子高生の股間をジロジロ見るなんて、ヘンタイでしょ。やめてよね」


 恵水は両手でまわしの前袋のあたりを覆って隠した。ぱっつん前髪の下のジト目で俺を睨む。意味の無い行動だ。


「別に変な目で見ているわけじゃねぇよ。どれだけできているかどうか、怪我しないかどうか、監督であるからには見る必要があるだろう。じゃあ仮に監督が女性だったとしても、それでも見るなって言うのか」


「それは、、、、、」


 恵水が言いごもった。


「ほらな。監督として、部員の股割りの様子を観察するのが必要だってことは分かっているんだろう」


「でも分度器とか言っていたじゃない。女子生徒の股に分度器を当てて測ろうなんて、ヘンタイ監督でしょ。セクハラで訴えるんだから」


「そ、そこまではしないって。そうだな、写真を撮って、それを分度器で測れば、どれだけ股割りが進んでいるか分かるんじゃないか」


「それもイヤよ。股の部分をアップで撮った写真なんて、どんなイヤらしい用途で使用されるか分からないじゃないのよ」


 俺ってとことん信用が無いんだな。まあ、当然というか仕方ないとは思うけど。


「イヤだっていうなら写真も撮らないよ。ところで恵水、本当に相撲を始めたばかりの頃って、どれくらいまで足を開くことができた?」


「これくらいね」


 言いながら恵水は少し足幅を狭めた。今ならばこれくらいの開脚は余裕ということだろう。顔の表情が普通になった。


「うん。今まで真面目に稽古を積んできていて、少しずつだけど進歩しているのは確かだと思う。これからも怠らずに続けていけば、一八〇度のちゃんとした股割りも必ずできるようになるから、頑張れ」


「はい。励ましてくれてありがとうございます、監督」


 股割りをやめて足を閉じて普通に立った恵水は律儀に俺の方にお辞儀した。とりあえず俺のことは監督として認めたのは認めたらしい。まあ、一歩前進と言えるんじゃないかな。最初から不審者扱いされていたんじゃ指導にならないから。


 続けて、クロハと恵水は黙々と準備運動をこなして行く。二人の皮膚がレオタードから露出している部分、腕とか足とかが、少しずつ赤く色づいていっている。


 うん。やっぱりな。予想通りだ。


 俺は昨日の時点で既にこうだということは想像ついていたよ。


 俺が来る前から、クロハと恵水の二人は、真面目に基礎的な稽古を積んできている。恵水はまだ完璧な股割りはできないようだけど、少しずつできるようになってきている。


 クロハは股割りどうなんだろう? ま、そのうちクロハの180度開脚を見る機会もあるだろう。


 それはそうと、基礎的な練習に重点を置いて時間をかけて行っているので、俺の出番が無いんですけど。


 それこを、股割りの進捗がどうかをチェックするために写真に撮って分度器で測定するくらいしか、やること無いんじゃないかな。


 分度器なんて、小学校の算数の授業以来、使っていないんじゃないかな。懐かしいな。


 ……いや、高校生の時にグラビアアイドルのハイレグの角度を測ったことがあったような……


 ああいやいや、あれは俺がやったんじゃない! 友達がやったんだ。俺は分度器を貸しただけだ。


 ……てか、思春期の男子なら、みんなやったことあるだろう、分度器。


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