第31話 何故か多い水産加工会社

 てくてく歩く。隣のクロハは自転車を押しながらだ。


 見慣れた旭川の街…………なんだけど、違和感が。


 戦艦大和にしても、建造されたばかりの時と激戦の中で沈んだ時とでは、細かい部分の諸々が違っている。


 俺が居た旭川とは少し違い、見慣れない建物があちこちに建っていたりする。


 いやもちろん、いかに寂れて埃をかぶった田舎町とはいえ、旭川だって生きて人が生活している町だ。古い建物は取り壊され、新しい建物が建てられる。新陳代謝というやつだ。それが普通だ。


「なあクロハ、その建物はなんだ?」


「聞くまでもなく、見て分かっているんでしょ。葬儀場よ」


「……ここって確か、俺の記憶が正しければ、お城のような豪華な結婚式場があったはずなんだけど」


「そうよ。あったわよ。でも旭川……に限らず日本は国難などもあって少子化が進んで、若年人口が激減しているのよねえー。それでいて高齢化社会をこじらせたおかげで、葬式は増えているわけよ。つまり、結婚式場から葬儀場へ転職すると仕事にあぶれないで済むってのが現実なのよねー」


 ま、それは旭川に限らず、どこの田舎町でも聞いたことがあるような話だな。


「あ、あの建物は?」


「市営の老人福祉施設よ。看板に書いてあるでしょ」


「あの位置には、俺の好きなラーメン屋があったはずなんだけど……」


「確かにこの場所は元々住宅街で、その中にラーメン屋も、かつてはあったわね。でも店主が高齢化で、でも後継者がいなくて閉店したわよ」


 どこにでもありがちな話だなー。舞台がラーメン屋ってあたりが、人口10万人あたり日本で最もラーメン屋の多い町である旭川らしい。


「あれは?」


「水産加工って、社名に入っているでしょ」


「うん、それは分かる。漢字くらいは読めるからな」


 俺は大学受験こそ失敗したけど、旭川西高校出身なのだ。勉強もそれなりにできるのだ。


「俺が言いたいのは、水産加工会社が、一つではなく、けっこうな軒数あるんじゃね? ってことなんですけど」


 水産加工会社があって、その隣にラーメン屋があり、民家があり、民家があり、その隣にまた水産加工会社があり、小さな公園があり、道路を挟んで別の水産加工会社があって、という感じだ。


 これが海沿いの寂れた寒村なら分からないこともない。漁業資源以外に産業になるものが何も無いから、漁業関連の会社しか存在しない。そんなケースも田舎じゃ多々ある。


 でも旭川は内陸の街ですから。海から離れている。北海道の割と真ん中付近に位置しているので、東西南北どちら方向へ向かっても、海に出るためには車で二時間近くは走らないとならないはず。


「でもまあ、元居た俺の世界でも……」


 旭川から南西に1時間弱くらい行ったところにある町に、道の駅がある。その道の駅の道路を挟んだ向かいに、海産物を扱うおみやげ屋さんがあった。加工品だけでなく、鮮魚も扱っていたけど、その場所は海から車で1時間くらいかかる内陸であるにもかかわらず、だ。


 内陸に鮮魚売りの店があるくらいなんだし、旭川に水産加工の会社が林立しても悪くないかな、と思った。


 つまりそれだけ、魚の干物なんかも諸々の種類作られるってことだ。酒飲みの俺にとっては酒の肴が増えるってことで、歓迎すべきことだろう。


「それはそうと、歩くと遠いな……」


 幼い頃は、それこそ近所の小さな公園でハワイアン大王波を撃つ練習をしていた頃は、自分が通う小学校と遊び場の公園とその近辺程度が自分の行動範囲、世界の全てだった。


 徒歩か自転車で行ける範囲が全てだったのだから。狭いに決まっている。だけど車の免許を取ってからは、車で移動するのはデフォルトになってしまい、その分旭川という街の尺も小さくなってしまったように感じる。


 それが突然、母校……っぽい魔法学校から自宅……があるはずの場所まで徒歩で帰らなければならないとなると、めんどくせえなあ。


「タクシーつかまえた方が早いんじゃねえの?」


「そしたら私の自転車を置いて行かなければならなくなるでしょ」


 ……あーめんどくさい。最初に来たばかりの時は、その自転車に乗って空を飛んで、ファンタジーというよりは有名なSF映画みたいな気分を味わったけど、今はその自転車がかえって足かせになっているんじゃねえのか。


「そんな文句言わないの。私だって付き合って一緒に歩いているんだから。こうして徒歩で長い距離を歩くのだって、相撲としては足腰を鍛える基礎訓練になるでしょ。青春のいちページよ」


「俺は監督だから、自分が徒歩で足腰を鍛える必要は無いんだけどな」


 それに俺の青春時代なんて、とっくに終わっているような気がするけどな。年齢的にアラフォーだし。


 というか、青春時代なんて、終わったとか始まったとか以前の問題として、そもそも無かったような気がする。第二次ベビーブームの次に本来なら来るはずだった第三次ベビーブームが来ず、日本の人口ピラミッド的に大惨事になってしまったかのようなもんだ。


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