第6話
また白い天井を見上げている。部屋の中ではスマホのスピーカーからラブソングを流している。
私は数多くのラブソングを知っている。モンゴル800の小さい恋のうた、西野カナのトリセツ・・・みんな一度は聞いたことのある歌は他にもある。
だけど本当の恋は何にも知らない。
楓の告白からいつもこんなことを考えてる。過去に一度だけ同じように考えたことがあった。高校に入って人生初めての告白、彼の名前を私は知らない。学校でもたまに見かけていた人。今年に入って見かけないから三年生だったんだろうと思う。
でもその人の時はすぐに決断できた。迷うことは少なかった。
「楓の返事どうしよう」
自分でもなんとなく楓を意識し始めていることはわかっている。私以外の友達と話している楓を無意識に見ていることなんてよくある。
今日の保健室でも楓と一緒にいて自分の心臓がうるさいほど波打っていた事も分かっている。マックに行った時も少なからず感じていた。
男子に抱いたことのない思いを楓に抱いている。男子に告白された時はドキドキしなかった私が、楓に言われたときはドキドキしたし、嫌な気はしなかった。
ラブソングに出てくるヒロインは毎回こんなことに悩んではいないだろう。同性相手に向けての歌なんて日本ではあまり聞いたことがないからわからないけど。
「楓にそろそろ返事をしないと」
告白から三日が経った。いつまでに返事が欲しいとは言われていない。だけどいつまでも待つとも言われていない。
楓にはいい返事がしたい気持ちは今も変わっていない。
音楽の流れているスマホを手に取ってグーグル先生に聞いた。
「オッケイグーグル、同性愛について」
ピロンと音が鳴ってから検索が始まる。十秒もしないうちにいくつかの検索ワードが見つかった。質問コーナーにはいろんな人からの質問が書かれていた。
(現役中学生です、同じクラスにいるひとりの女の子のそばにいるといつも鼓動が速まってしまいます。これは恋なんでしょうか?)
(同性の友達に「好きだ」と告白されました。私にとっては大切な友達です。どうすれば傷つけないで断れますか?)
など、世間一般の考え方で同性同士の恋愛はダメ、わけがわからないなどと言う意見が多く上がっていた。
同性に告白されたら断る方向性はいくらでも見つかる。逆に付き合う方向性のホームページは数件しか見つからなかった。
「やっぱり同性愛はおかしいんだよね」
スマホをベットの上に放り投げた。音楽は今も流れ続けている。
私の考え方は多くの人と同じだった。確かに楓といるとドキドキしたりした。
でもそれは楓が告白してきたから。少しの気の迷い、そうでないとおかしい。これまではこんな変な気持ちになったことはないから。
私は再びスマホを手に取った。同性からの告白を断るために、楓との仲を断ち切らないために。
窓の外を見ている。外では木々が風で葉を揺らしている。国語の授業中、私は昨日決めたはずの答えに迷っている。断り方ではない。断ってしまっていいのかということに。優柔不断だと自分でも思う。
今朝、楓には放課後に中庭に来て欲しいと書いた手紙を下駄箱に忍ばした。私が来た時にはまだ来ていなかったので紙には気づいたと思う。
授業中、黒板を見ると自然と楓が視界に入る。いつもなら目が合うのだが、今日は一度も合ってない。
授業中に目が合う方がおかしいのだけ、私たちは合わない方が違和感を感じる。楓は一度も私の顔を見ようとしていない。会話すら今日はしていない。
私が断っても楓は友達でいてくれると言ってくれた。だけどそれが難しいことは私でもわかっている。高校入ってそこそこ仲が良かった男の子も告白を断ってからはまともに話していない。
気まずいのだ。告白した彼も、断った私も。告白は本当に一か八かしかない。告白して振られるか付き合うか。付き合えばこれまで以上に仲が良くなる。断れば縁切りなのだ。
だから楓はああ言ってくれたけど、きっと話しかけてくれなくなる。私のたった一人の親友を私は手放さなければならなくなる。
「それはやだな」
ぼそりと呟いた声に反応したのか、となりの男子から急に視線を感じた。どうやら聴こえてしまったらしい。窓を見ている私には彼の顔色を見ることはできない。興味もないけど。
続けてため息を吐いた。だけどそのため息だけは外でやっている体育の授業の声でかき消された。
自分で作ってしまったタイムリミットギリギリまで私は考え抜くことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます