第5話
あの後保健室の先生と体育の先生が一緒に私の様子を見に来た。その時には鼻血は止まっていた。鼻の下についた血を洗面所で洗い流してから保健室を出た。
「失礼しました」
体育の先生はすぐに帰ったけどここが主な職場の保健室の先生に一礼してからドアを閉める。
六時間目がもうすぐ終わりといったときに当たったのでホームルームはもう終わっているだろう。
一階の廊下を歩いていると向かい側から女の子二人がやって来た。二人とも焦っている様子だった。肩にかけた鞄が揺れて邪魔なのか、二人とも押さえている。
走ってくる二人が下級生だとすぐにわかった。この学校は学年でリボンの色が違う。
今年は一年が赤、二年が青、三年が白となっている。今の三年が卒業すると次の一年が白になる。毎年そうやってローテーションしている。
二人は私に構うことなく走っていく。通り過ぎる途中に早くしないと限定シューが売り切れる、とか言っていた。
限定シュークリームのことかな?と考えて歩いていると二つの鞄を両肩にかけて歩く楓が目の前の現れた。
「遥華鞄持って来た」
私を見つけると駆け足で迫って来た。私は左にかけられた鞄を受け取る。
「ありがとう」
「どういたしまして。で、鼻血は止まった?」
「もう大丈夫」
「じゃ帰ろっか」
「楓、今から暇?」
「?、暇だけど?」
「よって帰らない?」
私にしては珍しい提案だった。普段なら一人でテクテクと帰るのに今日はどこかによって帰りたくなった。さっき通った子達のせいかな?
「遥華が珍しいね。いいよ、どこ行く?」
誘っておいてなんだけど、私はどこかに行きたいっていう場所はない。さっきの子達みたいに目的があるわけではない。でも提案したのは私、私が案を出さないと。
「マック?」
「マクドか、なら早く行こ。この時間だと学生が増えてくるから」
楓はスタスタと私の前を歩き始めた。離れていく楓に追いつくように私も歩き出した。
学校近くのマクドナルドに着くと席の七割が埋まっていた。その大半がうちの学校と近隣の中高生だった。レジも慌ただしく店員が行き交っている。
私たちはすぐにそれぞれの仕事をした。私が楓から鞄を預かって場所を取りに行き、その間に楓は列に並ぶ。私が席を取り終えると合流した。
「何頼む?」
楓の質問にメニュー表を見ながら考える。
ポテトは食べたいから確定。ハンバーガーは夕飯が入らなくなるから却下。でも期間限定のチョコパイは気になるから頼もうかな?
悩んでいるとすぐに順番がやってきた。
「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ」
「私はポテトのMとマックシェイクのS」
楓が注文を終えて私の顔を伺う。
「ポテトのMとジュースのSとチョコパイで」
「マックシェイクとジュースは何にしますか」
「バニラで」
「ファンタのクレープで」
「ご注文の確認をします。ポテトのMが二つとチョコパイが一つ、ジュースはマックシェイクのバニラが一つとファンタのクレープで一つでよろしいですね」
「はい」
「合計で890円になります」
私が財布を出すと楓が財布の上に手のヒラを置いた。
「あとで払って」
そう言って千円札を店員に渡した。店員も慣れた手つきで会計を済ませる。
「110円のお釣りです」
財布にお金を入れる楓に変わって横に置かれたトレーを手に取って運んだ。
鞄を置いた二人席に向かい合うように座る。鞄は足元に置いた。
「お金いくら?」
「いいよ」
「いいよ?」
私は楓が何を言っているのか理解するのに少し時間がかかった。首は自然と左に傾いた。
「だから私のおごりでいいよってこと」
説明されてようやく理解した。
「でも!」
「いいからいいから、こういう時は人の優しさには甘えるべきだよ」
「そうなの?」
「そうなの」
結果、楓に押されて奢ってもらうことになった。
「ありがとう」
ポテトを摘んで口に運びながら礼を言う。楓も同じようにポテトを摘んだ。
「どういたしまして」
私たちはそれから他愛もない話をした。話に飽きる事もなく、それぞれが感じたこと、考えたことを話した。楓といる時間は決して苦ではなかった。むしろこのまま続けばいいのに、そう思った。
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