第8話 自由なんだろう、

 翌日、僕は西門の討伐者ギルド出向所に来ていた。


 しばらく、フワモコを狩りながら小金集めをすることにしたからだ。

 数日なら、あの無料宿泊施設でも問題がない、と僕は感じた。


 人によれば、全くの他人と同じ部屋で寝るなんて! と思うかもしれないが、僕はならなかったからだ。

 同室の人たちに恵まれたからかもしれない。


 僕は、神殿に泊まりながら、旅のための資金と情報を集めることにした。


 どの程度、モンスターと戦えるのか、も情報。

 それでどれだけの資金が集められるのか、も情報。


 まぁ、フワモコだけじゃたいした資金にはならないとはわかったけれど。


 ギルドや解体所には良質のフワモコを喜ばれたけれど、同じようにフワモコ捕獲作業をしている孤児院の子供たちに、高めの買い取りをしてもらえるコツを教えておいたし。これからは長期的に良質の綿が提供されることだろう。


 ……たくさん詰めておくと、袋の中で増えることを教えたら、目を輝かせたので、絶対にやめておけと懇切丁寧に全員に言い聞かせることになったが。

 事故になって、起こした本人だけでなく孤児全員が買い取り拒否になり、収入がなくなる恐れが強いと言えば、青い顔で神妙に頷いたので、全員にきちんと徹底させると信じている。


 とはいえ。

 孤児院の収入よりも、自分の収入である。


 この世界には魔物やモンスターが溢れているとはいえ、この町には周辺にモンスターが少ない。


 ここに着いたときに見た、遠くの方にあった壁の効果らしく、あの壁を越えるごとにモンスターの強さが変わるらしい。

 この町から王都方面に行けば、もっと弱いものしか出なくなり、逆に行けば強くなっていく。


 ちなみに、あの壁は約10~30メートルほどの長さのものが要所々々に建てられていて、町などを囲っているものではないそうだ。

 それでどうやって防いでいるのかと言えば、あの壁自体が、大規模な魔法装置になっていて、魔物が嫌がる臭いか音か電磁波みたいなものが出ているようだ。

 効果が切れる前に次の壁をたてたり、別の装置を置いたりして、隙間をなくしているらしい。


 なんだか、スマホの基地局みたいだな、と思った。

 都会の方が密で、田舎は圏外になりかねないあたりとか。



 この辺りでは、一般的に農園に出るフワモコや、下水道を好む数種類の小型の魔物の他には、小~中型の草食動物型の魔物がいるぐらいで、積極的に人を害するようなものはいない。

 小型の肉食獣は壁を越えた向こうから出る。


 そこまでは、歩きで一時間程。


 行くまでに、覚えることは山ほどある。

 まず最初の目標は、小型の食用動物を狩れるようになること。

 安定して狩れるようになれば、慣れた人に中型のものを捕る狩りに連れていってもらえることになったからだ。


 受付のおじさんも、解体所のおじさんも、実はけっこう偉い人だったらしく、目をかけてもらえたのだ。


 ありがたい。これも、女神の加護のなせる技、というものなのか。


 僕は、せっせとお金をためる。実力をつける。


 思えば、地球では、体を動かすのは億劫だった。

 けれど、異世界に来てから、体は軽いし、何だかエネルギーが有り余ってる感じだ。


 たくさん動き回って、教会に帰って食べる、素朴なご飯は、格別に旨い。

 味は、日本のコンビニの方が美味しいはずなのに、この、ちょっとぼそぼそとしたパンと、シンプルなスープほどは、味を感じなかった気がする。




 自由に、なったから、なのかな。


 健康的な生活を、続けざるを得ないから、というのも、勿論あるんだろうけれど、一番はそれな気がする。

 ここじゃ、二親がいないなんて珍しくないし、それが理由でいじめられることもない。



 僕が僕だから。僕の行動と態度だけを見て、判断してもらえる。


 なんて、自由なんだろう。







 僕はそのまま、カレンタール様の教会で、3ヶ月を過ごした。


 そして、この世界での常識と技能と、ある程度の体力をつけて、世界をめぐる旅をするための荷作りができた。


 路銀も貯まった。さぁ、いくか。



(カレン様、遅くなりましたが、出発します。おじさんたちに、この手紙をよろしくお願いします)


 目一杯の感謝と、こちらでの楽しい暮らしを書いたノートを、女神像に供える。


 ノートは、柔らかな光を放ちながら、消えた。

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