第5話 女神の、声

『ええと、これでいいですか?』


 僕は、頭の中で話すように考えてみる。


『はい、大丈夫です。双川斎賀さん。ご苦労をおかけして申し訳ありませんでした』


 女神(仮)は、本当に申し訳なさそうに謝った。

 いや、僕的にはそこじゃなくって……。


『……そうですね。まず、双川さんの状況をご説明しなければなりません。気をしっかり持って、お聞きくださいね』


 あ、いちいち話しかけようと考えなくても聞こえてるみたいだ……。


『ここは、あなたの住んでいたところとは違う、いわゆる異世界です』


 うん、知ってる。


『……さすがに驚きませんね。そういう小説たくさんありますものね、あなたの国』


 うん、いろいろあるよ。


『あなた方は、実はこことはさらに違う異世界に召喚されたのです。あなたのクラスメイトたちは、そちらにいます』



 え?

 みんな、この世界にはいないの?


『はい』


 僕だけ、こっちの世界に来ちゃったの?


『はい。正確には私が、あなたをこちらの世界に導きました。あの……本当に気をしっかり持って、お聞きくださいね』


 なんで……あ、はい。

 大事なことだから2回言うんですね。

 わかりました。


『あなたは、あちらの世界で、虐められ続けた末に見殺しにされました』


 ……え?


 えっ、どういうこと?


『……あなたは、あちらの世界ではあまり良いステータスにならず、クラスメイトたちやあちらの世界の人たちに、不当な扱いをされ続けたのです。あまりに酷いので、こちらに来た時点で、記憶と肉体を召喚時点に戻しました。覚えてませんよね?』


 覚えてない。

 そんなこと……。


『どうか、忘れたままでいてください。あなたのような良質な魂の持ち主に見合いません。世界の管理人である私が消したので、この世界にいる間には思い出さないと思いますが……』


 僕、死んだの?


『……はい……いえ、死ぬ本当に直前に私の世界に召喚したので、完全には死んでいないのですが、向こうでは死んだ手続きをしてあります』


 僕を虐めていたヤツらの顔が目に浮かぶ。

 あれが、異世界にいってさらにバージョンアップしたんだろうな。


 うん、さもありなん。

 納得した。


『申し訳ありません……本来なら、あなたの住んでいた世界に戻してあげたかったのですが……』


 無理なのか。


『あちらの世界の……召喚した世界の神がですね、元の世界での死亡手続き……私があなたを召喚した時にしたものですね。あれをしていたのです』


 ふぅん?

 それをするとどうなるの?


『死したものは二度と生き返りません。あなたが元の世界に戻るには、時を巻き戻し、召喚される前にしたあと、すべての魂が揃った状態で死亡手続きを取り消します。その後であなたは召喚されなかったことにしてもいいし、召喚されたけれど死亡直前で戻ってきたことにしてもいいわけです』


 それが出来ないの?


『はい。死亡手続きを取り消すために必要な魂を、あちらの管理人に貸してもらえませんでした。一瞬でもいいし、必要なエネルギーはこちらで捻出するからと頼んでもダメでした……申し訳ありません』


 そっか……

 あれ? つまり、クラスメイトもみんな、元の世界には戻れないの?


『そういうことです』


 彼らは、それ知ってるの?


『知りません。いつか帰れると思っている人もいます』


 ……そうか。


 うん、帰れないと知れただけでも違うな。

 知らなければ、諦めも踏ん切りもできないから……。



『……一度だけなら、手紙を運びましょうか。あちらからは持ち込めないのですが、こちらからは問い合わせをしていた関係で、今なら行けます』


 え! 今なら、っていつまで?!


『あと……3日以内なら。必ず、あちらから持ち込んだもので、あちらから持ち込んだものに書いてください。枚数に制限はありませんが、一纏めにしないと、途中で喪失する恐れがあります』


 お……おおう。

 テープとかあったかな?

 後で探してみよう。


『出来上がったら、この女神像にお供えして、私に話しかけてください。届けます』


 わかりました。お願いします。


『はい。あとは……ステータスですね。ご覧になりましたか?』


 まだ見ていません。


『実は、あちらでのものに加えて、ステータスを強化しているので、かなり強くなっているんです』


 そうなんですか。


『一応、スキルに『擬装』も入れておきましたが、あまり人に見られないようにしてくださいね』


 わかりました。


『この神殿では、名前と犯罪歴、アドバイスをするための、レベルと職業適正しか見ませんが、他の場所によっては全部見せなければならないところもあります』


 それを擬装で隠すんですね。


『いえ、それは『鑑定眼』対策です。そうでなく、神殿などに申し出なくても、自分のステータスを確認できる用意をしておきました』


 おお! それは必須!

 どうやったら見られますか。


『一度神殿でステータスを確認したら、あなたのスマホのプロフィールを出してみてください。ステータス画面になっているはずです。あとはそちらが常時更新されますから、いつでもそこで見られますよ』


 わ。スマホ落とさないようにしなきゃ。


『盗難・紛失・破損防止、かけておきました。充電もいりません。ネットに繋がらない代わりに、この世界のマップと、大まかな常識が書かれたものをインストールしておきました』


 わ……ちょっと至れり尽くせりじゃないですか。


『ふふ、まだですよ。書物の背表紙にスマホの背面カメラを向けて、インストールと唱えると、中身が保存されますから、いつでもスマホで見ることができますよ。検索機能付き、容量無制限です』


 うわ、それ便利だ!


『容量無制限といえば、その鞄もマジックバックに変わってますよ。生きているもの以外、なんでも入ります。外ポケットは時間経過あり、中は時間経過無しです』


 至れり尽くせりが極まっている……!!


『この世界では、モンスターが跋扈していて、その状態で安定していますからね。けっこう危険が多いんです。その中で旅をしてもらおうと云うのですから、これぐらいはしませんと』


 旅……ですか?


『はい。あなたには、わたしの管理するこの世界を、あちこち旅して回ってほしいのです。そして、異世界人からの目で見て、思った率直な感想を時々『神殿』に来て報告してほしいのです。勿論その他は自由にしてもらって構いません』


 感想……ですか。


『この世界の人からの要望はいろいろ届きますが、異世界人という、全く別の存在から見るとどうなのか、とか知りたいんです。個人的な意見で構わないですし、気が向いたときでいいですから』


 えー。責任重大じゃないですか。


『大丈夫、あなたの意見だけで決まりません。今、50~100年ごとに異世界の魂を呼んで、お願いしているんです。異世界の体そのままの方ははじめてですが、ちょうど10人目ですよ』


 わ、けっこう来てる……。


『日本人は3人目ですか。ちょっと残ってる文化もありますよ。ドワーフを訪ねてみてください』


 ドワーフ! 楽しみにします!


『ふふ。はい、是非、私の世界を楽しんで生きてください。尋ねたいことも、あれば神殿においでください。どの宗教宗派でも大丈夫です』


 わかりました! まずは3日以内に、またここに来ます!


『はい。用意して待っていますね』

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