第2話 まさか、

 このままいても、仕方ない。


 圏外になったスマホを片手に、僕は立ち上がって町に向かって歩き出した。


 とりあえず人のいるところに行く。

 言葉がわからなければ、身ぶり手振りでいい。

 なんとかここがどこなのか調べて、連絡手段を確保する。


 おじさんやおばさんは優しいひとだ。いとこの敦士だって、憎まれ口をききながら心配してくれているはずだ。


 なんとか心配かけたことを謝らなければ。


 まだ日は高いが、外国であれば時差もあるだろうし、時間が経っているようには感じなかったが、距離はあったのだろうから、だいぶんたっていてもおかしくない。



 とにかく、なんとかしなければと、それだけを考えて足を進めた。



 町を囲む壁は、10メートルを軽く越える程で、校舎ほどは高くないものの、見上げるほどなのにはかわりない。垂直に建てられ等間隔に支えというのか、石組が組まれていて厚みがあり、かなり丈夫そうだ。


 それを横目に見ながら、木製の大きな門の方へ歩く。

 7~8メートル程の分厚い門は大きく開かれ、ぽつぽつと、人や荷馬車が入っていく。


 車が見えないのが、不安だった。


 門の側には、門番なのか、鎧姿の人が両脇に立っていて、その他にも町に入る人に対応する同じような姿の人がいる。


 なんとか小高い丘から降りて、道に出た。


 道を歩く人に視線を向けられるが、そのまま通りすぎていく。

 やけに時代がかった衣装にさらに不安を煽られた。


 まさか、という考えに、教室の誰かが言った言葉を思い起こす。


――まさか、異世界召喚?


 笑いと期待混じりのその言葉は、誰が言ったのか、判断はつかなかった。


 でも、だとしたらなぜ自分は一人なのか。

 あの魔法陣の中心には、どちらかと言えば、『奴ら』の方が近かった。


 教室全体に拡がっておいて、僕一人だけを召喚転移とか、ありえない。


 そういう話は嫌いじゃないからこそ、パターンから外れた状況に混乱していた。


「……いや、一人だけ別の場所に、ていうのも、見たことあったな」


 思い出して、ふと落ち着いた。

 異世界に勇者として召喚されて、酷い扱いから逃げるのも定番だ。

 そういう目には遭わないでいけたのは良かったのではないかと、気持ちを上向かせる。


 もう、文化が違う外国に来ているとは思えなかった。


 門に近づくほど、周りの話し声が聞こえるのだ。


 どう見ても日本人ではない、日本を知らないのではと思われるような人たちが、みんな日本語で会話しているように聞こえるのだ。


 別の世界に来ているのだとしか、思えなかった。





 そうこうしているうちに、門前に着いた。


 馬車のひとと、歩きのひと、それぞれに何かを尋ねながら対応する鎧姿の人がいる。


 町の出入りを管理しているのだと思ったが、馬車よりも歩きの方が早く通されているようで、すぐに順番が回ってきた。


「市民票か身分証明するものは?」


 簡潔に聞かれてハッとした。

 当たり前だ。管理側がスムーズに町の出入りを確認するには、証明書などを発行するのがいい。

 それを確認していなかった。


「持っていません」


 焦っても仕方ない。

 ないものはないのだ。正直に答えるしかなかった。




「じゃ、西門の脇にある『討伐者ギルド』に行って、仮の身分証作ってきてね。ハイ、次~」


 そう言われて終わった。



 入門料とかは? と思いながら、指差された方向へ壁の周りを進む。


 前の方にも同じように進む人が見えた。

 大分ボロボロの服装をしていて、歩みも遅い。


『冒険者』じゃなく『討伐者』ギルドと言っていたが、似たようなものだろうか。


 いろいろ考えているうちに、先程のものよりも大きな門が見えてきた。

 先に行っていた人も、そこで休んでいる。

 あれが西門か。



「あ。ここは南門で~す! 西門にはここを越えてさらに進んでくださ~い!」



 ……違った。

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