君のことは忘れない

「さっきからずっと気になってたんだけどさ、その指輪、結婚したの?」


 してないよ。出来るはずないじゃない。

 僕は悲し気に首を横に振って答える。


「ううん」

「じゃあ、恋人?」


 すかさず友人は突っ込んでくる。そういうところだけは頭の回るやつだ。

 まあ、そんなところに救われている自分がいるのも事実だけれど。


「そんなとこ」

「意外。お前にもちゃんと彼女がいるんだな」


 いないよ。君はもういない。

 また首を横に振る。友人は訝し気に僕の目を見つめた。


「いないよ。僕の彼女はもう、いない」


 君は僕を置いていってしまったもの。きっとお空の上から僕を見てくれている。

 僕はちょっと笑ってごまかしてみる。


「別れたのか?」

「違う、別れてはいない」


 さらに友人の眉間にシワがよる。


「別れる前に、いなくなっちゃったんだ」


 友人は少しの間きょとん、と首を傾げてから、何かに気付いたようにこちらに身を乗り出してきた。


「いなくなった、って。まさか」


 うん、そのまさか。


「うん。死んじゃった」


 冷たい沈黙が僕らを包む。


「……ごめん」

「謝らなくていいよ」


 友人が気づけないのは仕方ないことだ。だって僕は誰にもこの話をしたことは無かったんだから。

 素直に謝ってくれる友人は良い奴だ。僕は彼のそういうところが気に入っている。


「この指輪ね、作ってもらったんだ」


 三か月前に柄にもなくジュエリーショップに行って、店員さんにいろいろ聞いて注文した世界に一つしかないものだ。


「内側に彫刻で文字が刻まれててね、『I'll never forget you.』って入ってるの」


 僕は君を忘れない。この言葉は嘘じゃない。僕が死ぬ初期化されるまで君の一挙一動、声音や仕草の全てを僕は覚えている。

 絶対に忘れたりしない。


「好きだったんだな」


 最後にもう一度首を振って、笑顔を見せる。


「今も好きだよ」


 今日はとってもいい日だ。だって君が生まれた日なんだから。


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