いつまでも遠ざかっていく君へ

 晴天の夏空。じりじりと照りつける日差しに体が熱を帯びる。

 お墓参りに来た。花束を携え。君の好きな炭酸の缶ジュースも持って。


 もう、ここに来るのは二十回目だ。場所は覚えている。

 慣れた足取りで角を曲がり、君のお墓にたどり着く。

 昔より、少し色褪せてきた墓石が、君のいなくなった日からどれくらい経ったかを物語っている。


 溜まった汚れを掃除して、水で流して。最初は慣れなかった掃除も今ではお手の物だ。

 綺麗になった墓前に花を手向け、花瓶に水を差す。


 カバンから缶を取り出し、墓前の空いている場所に置く。もうひとつはプルタブを引いて、封を開ける。ぷしゅ、と涼し気な音がした。


「乾杯」


 君の缶に僕の缶を当てて、僕は缶に口を付ける。

 爽やかな甘さと少しの酸味が夏の暑さを吹き飛ばす。


 君は写真の中で今も笑っている。

 君の笑顔は僕の中で生き続けている。

 でも僕は君を忘れてしまう。君の声も優しさも愛情も温もりも、全部忘れてしまう時が来る。


 君の設定した僕の寿命はあと十二年と百五十七日と九時間。

 僕が死ぬ、その時まで、君を想い続ける。

 たとえ、この心が、君の生みだした仮初めのものだとしても。




 いつまでも遠ざかっていく君へ。


 僕は君を思い出します。毎日です。

 君との思い出はひとつも忘れていないし、忘れません。

 届かないほど遠く、どこかから君は僕を見ているんでしょうか。

 僕にはわかりませんが、そうだとちょっと嬉しいです。


 君の帰りを待つアンドロイド、零より。

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