第五章 追憶の遊行
001 異常の正体
二人が座っているベンチから、遠くの高台を歩いている美鈴の姿が見えた。あちらも気付いたようで、大きく手を振ってくる。
「呑気なもんだぜ、まったく」
ベンチの隣で細長い脚を組んだカズはそう言って、缶コーヒーを一口すすった。
園内には相変わらず人の姿が見えない。
屋内に移動してもよかったのだが、売店や食事コーナーにも従業員の姿がなく、自動販売機で缶コーヒーを買ってベンチで飲むことにしたのだ。
「で、話ってのはなんだ。恋愛相談以外ならなんでも聞くぜ」
カズが水を向けてくる。
「そうだな。じゃあさしあたって、最近の異常気象について」
「あ? なんだ、天気の話かよ」
「そう言うなよ。カズだって驚いただろ? あの日は確かに朝から真冬みたいな寒さだったけど、まさか雪が降ってるなんて。それも地面に積もるほどの」
カズは何も言わずに聞いていた。
「いくら山奥だからって、あの時期にあの積雪はおかしい。それこそ二ヵ月くらい眠っていたんじゃないかって錯覚するような光景だった」
「地球温暖化だかなんかの影響じゃねえの」
「そうだな。異常っていうならむしろその後か。ほら、職員用宿舎の扉が人間離れした力で破壊されていただろ。まるで『念動力』でボコボコにされたり、『量子分解』でくり抜かれたみたいにね。その穴を抜けた先には死体の山だ。『パイロキネシス』で焼き尽くされたみたいな黒焦げの死体の。カズも覚えてるよな?」
カズは深く溜息をついた。
「忘れるわけねえだろ。で、それがどうしたんだ? 回りくどい言い方しねえではっきり言えよ。お前が辿り着いた結論ってやつをよ」
「ああ。僕はこうしてあの日の記憶を持って今ここにいる。カズ、僕は全部忘れたフリをしていたけど、お前の能力は僕には効いていなかったんだ」
あの時、僕の後を追ってきたカズ。
ゆっくりと近づいてくるカズの目を見て、僕は『精神感応』を発動した。自分の精神に、外部からの干渉を受けないようにプロテクトをかけた。
その直後、カズは僕の目を見て、僕に対して本当の力を使った。
「カズ。お前は『残留思念』の能力者なんかじゃない。記憶は記憶でも、他者の記憶に干渉して自由に改変することのできる能力——“過去”を司る能力、『記憶改竄』の能力者だ」
僕は告げる。
この三日間、今まで生きてきた中で一番頭を使って導き出した、たったひとつの結論を。
「お前がゲームマスターだったんだ」
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