第6話 審理の門 4
苦笑して、ディアディンはニョロを立たせた。
「ニョロ。おまえは審理に成功したようだ。とりあえず、ここから出してもらおう」
「は?」
ニョロの手をとって立たせ、二人で門をたたく。
「おい、あけてくれ。何も起こらないぞ」
ディアディンが言うと、外から、かんぬきが外され、扉がひらかれた。
心配顔のウニョロとムニョロが、両側からニョロに抱きつく。
「よかった。これでニョロは僕らの仲間だね」
「今日から僕らはほんとの兄弟だよ」
だが、ニョロは二人の手をもぎはなして首をふる。
「いいや。私は君たちの仲間にはふさわしくないんだ」
なかでのことをバカ正直に話そうとするので、ディアディンはニョロの首についたままのロープをひっぱった。
「まだ外してなかったな。こっちに来いよ」
「く……苦しい、です」
「ちょっと双子はここで待ってろよ。いいな? 絶対、ここを動くなよ」
むりやり双子から引き離しておいて、ディアディンは長姫を問いつめた。
「おれを——いや、おれたち二人をだましたんだな? 長姫」
「もうしわけありません」
「おれがほんとにニョロに殺されてしまうとは考えなかったのか?」
「ディアディンさまの腕なら、まちがいないと信じておりました」
これだけ言われても、まだニョロには、ことの真相がわかっていないようだ。
「どういうことですか? 小隊長」
「おまえのそのだまされやすさは、長姫の眷族になる価値ありだ」
ディアディンは説明してやった。
「つまりな、ここは審理の門でもなんでもない。見たとおりのただの広間だ。入るときに、ウニョロが妙なことを言いかけたじゃないか。ウニョロたちは知ってたんだ。ここが審理の門なんかじゃないと。あるいは審理の門じたいが、長姫の作り話かもしれない」
長姫は白百合のようなおもてを、ぽっと染める。
「ニョロがわれらの眷族にふさわしいか試すために、とっさにウソをつきました。ほんとは人をだますようなマネはしたくなかったのですが、わたくしには自分の眷族を守る使命がありますから」
ニョロはまだ首をひねっている。
「だからだな。なかに入って何も起こらなければ、おまえは、なんとかしようと思うだろ? 判定人に何かあれば外へ出られると聞いてるからな。
もし、おまえの心が
もっとも、おれはおとなしく殺されてないから、ハデに争う。そうなったら、長姫はトビラをひらき、真実をうちあけるつもりだったんだ。
ここは審理の門なんかじゃない。おまえが我欲のために、おれを襲えば悪しきもの。襲わなければ良きもの。最初から長姫はそう判定するつもりだったんだよ」
「そのとおりです。ウニョロとムニョロには、わたくしが念じたときだけ、この扉は審理の門につながるのだと説明しておきました」
長姫はディアディンを見つめる。
「ディアディンさま。ニョロはわたくしの期待にそってくれたのですね?」
「誘惑に負けずに、良き心を守りとおしたよ」
「それを聞いて安心しました。ニョロ、今このときより、あなたを正式にわれらの一員とみとめます」
ニョロは涙をながして、長姫の手をとった。
「ありがとうございます。一生、ご恩は忘れません。不肖ニョロ、あなたさまの兵士として命をささげます」
「わたくしは一門が幸せならかまいません。さあ、ウニョロとムニョロが首を長くして待っていますよ。彼らのところへ行きましょう」
あれ以上、首が長くなることがあるのか——と、感動的な場面に水をさす言葉を、ぐっと、ディアディンは呑みこんだ。
そのあと、待っていたムニョロとウニョロは、ニョロが仲間入りしたという長姫の言葉をきいて大喜びだ。
「やったあ。それじゃ、今夜はパーティーだ」
「さっそく準備してこよう」
宴は一晩中、つづいた。
ディアディンはニョロニョロたちに囲まれて、ニョロニョロな名前になやまされた。
ニョロの生い立ちには誰もが同情してくれた。
それに、ニョロの男らしい顔立ちを気に入ったムニョロたちのフィアンセも、三人まとめて
宴の席で、ディアディンはニョロの首からロープをはずそうとした。が、むすびめが思いのほか固く、剣で切るしかなかった。
かるく酔っていたディアディンは手もとがくるって、ニョロの首にパクリと傷をつけてしまった。
人間なら大さわぎだが、ニョロはいっこう、かまわない。
「いいです。いいです。ちょうどムズムズしてたところなので、あとで脱皮しておきますよ」
そう言っていたのだが——
翌日、裏庭へ行ってみたディアディンが見たのは、隊をくんで這っていく、三匹の白蛇だった。
通りかかったリヒテルが言う。
「その蛇、めずらしいでしょう? 前は黒蛇だったのに、脱皮したら白蛇になってたんですよ」
ニョロの心から邪悪なものが消えさったせいかもしれない。
おだやかな日差しのなかを、三匹は仲よく這っていく。
了
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