第4話 星のかけら 2
その夜、いちおう起きていられるかぎり起きていようと、ディアディンは考えていた。しかし、いつのまにか眠っていた。
目がさめたのは、夜中だというのにカラスのなき声がしたからだ。
いや、それとも、やはり眠ったまま夢を見ていたのだろうか?
夢のなかで室内を見まわすと、暗闇のなかに見なれぬものがモゾモゾしていた。
机のあたりをうろうろしているのは、遠目には手乗りのサルみたいなものだ。ポケットにも入りそうな小さいのが二つ、助けあいながら机をよじのぼっている。
ディアディンは物音をたてないようにして、ベッドからおりた。腰をかがめたまま近づいて、寝台のかげから、いっきにとびだす。
「よし! つかまえたぞ。このイタズラこぞう」
小さいので、一匹はつかみそこねたが、一匹はつかまえた。
手のなかのものを見て、ディアディンは軽い立ちくらみをおぼえた。
「うそ……だろ?」
サルだろうと思っていたのは、サルではなかった。サルはサルだが、ただのサルじゃない。あまりサルらしくないデフォルメの、ぬいぐるみのサルだ。それが赤い服をきて、チョコチョコ動いているのだ。一匹なんか、頭に花かざりまでつけている。
どうやら、また長姫の世界に来てしまったぞ……。
「さては、おまえたちだな。シルバースターの宝物庫から宝を盗みだしたのは。盗んだ宝をどこへやった?」
ディアディンの手をのがれようと、じたばたする(花かざりのほう)ので、ちょっと強くにぎる。
すると、もう一匹のほうが、つぶらな黒い目をうるませて、小さな手でディアディンの足にすがりついてくる。
「……そんな目で見るなよ。こいつを離してほしければ、盗んだ宝のありかに案内するんだ」
自由なほうはションボリしながら、ちょこまか歩きだす。いちおう、こっちの言ってることは理解しているらしい。
「そうそう。宝をかえせば、ゆるしてやらないこともない」
ときおり心配げに、ディアディンにつかまれた、つれをふりかえりながら、よちよち歩きの子どもみたいに歩いていく。
あとをつけていくうちに、城内のようすが見なれたものではなくなった。長姫の領域に入ったのだ。
シルバースターの女がやってきて、ディアディンに声をかけた。
「今夜は満月ではないのに、よく来られましたね」
「こいつらのせいかな。おまえたちの宝を盗んだやつらだ」
女は首をかしげた。
「これは、われらの眷族ではありませんね」
「そうなのか? おれの頭にウジをわかせそうな、この愛くるしさ。てっきり、おまえらの仲間だと思った」
シルバースターの女は、ぎゃぎゃっと奇声をあげて、ディアディンをおどろかせた。笑い声だったらしい。
「小隊長殿はこんなに小さい無力なものが苦手なんですねえ。まあ、離してやってください。宝さえ返してもらえれば、われらはこの子たちを傷つける気はありません」
「逃げても知らないぞ」
「逃げやしませんよ。もう降参しています。負けをみとめたものをいたぶるのは卑怯です」
願いをきいてやって卑怯者呼ばわりされたんじゃ、わりにあわない。
女がいいと言うなら、まあいい。
ディアディンは手をはなした。
ぬいぐるみのサルはひらいた手のなかから、ピョコンと元気よくとびおりた。かけよってきた、もう一匹と抱きあっている。
キイキイ言ってるが、シルバースターには、サルたちの言葉がわかるようだ。
「兄妹ですね。『おにいちゃん。こわかったよ』『もう大丈夫だよ』と言っております」
「おさない兄妹か」
「そのようです」
手をつないで歩いていく二匹を追っていく。
まもなく回廊にかこまれた
樹木のウロのなかが、子ザルたちの寝床であり、宝のかくし場所だ。
「あります。あります。われらの宝。ああ……やっぱり、キレイ。でも、これはなんでしょう?」
うろの奥に、青白く光るスープ皿みたいなものがあった。かすかに、またたきながら、ぼんやり光をはなち、それはそれは美しい。
子ザルたちがキイキイないた。
「星? 星だと言っておりますよ。これに乗ってきたのだそうです。なになに、ここまで来たときに、星がこわれて割れてしまった。これがないと帰れないので破片をさがしている……と。それはキラキラ光って、とてもキレイなものであると。ああ、それで、われらの宝物庫をあさっていたのですか」
ディアディンは宝が戻ってきたのだから、もういいなと、いつ言ってやろうかと、口をはさむスキをうかがっていた。が、けっきょく、言えなかった。
「えッ? これが直らないと、ママに会えなくて、さびしくて死んでしまう? それはかわいそうだ。なんとかしてやらないと。いますぐ、なんとかしてやらないと」
じっと三人(三匹?)に見つめられて、うッと、ディアディンは言葉につまった。
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