第2話 食いしん坊なオバケ 2
「先日はわれらの頼みをきいていただき、ありがとうございました。おかげでジャイアント族は救われました」
「ジャイアント族か。巨人のことだな」
あの小人を巨人というのは皮肉だが、巨人のつづりから文字をいくつかぬけば、アントになる。アントはアリだったはずだ。そう思うと笑っていられない。
「どうか今夜はこのスノーホワイト族を助けてやってください」
「雪に白。白雪だな」
今度は少しひねれば、正体が見えるという命名ではないらしい。
これから、もっと難しくなりますよ、とでもいうように、長姫は美しいおもてに、神秘的な笑みをうかべた。
「それで、頼みというのは?」
話しだしたのは、スノーホワイト族の少女だ。
「じつは先日来、食堂に困った亡霊が住みつきまして」
「ああ。ドーンの霊か」
ディアディンが答えると、少女は大きく、うなずいた。
「それです。ご存じでしたか」
「うん。おれたち人間のあいだでも、ちょっとウワサになっている」
「われわれ、スノーホワイト族は、開城以来ずっと、あなたがた人間の食事の、ごしょうばんにあずかってきました」
ディアディンはイヤな害虫をイメージして、顔をしかめる。
「ちょっと待て。それは盗み食いってことだろ?」
少女は恐縮した。
「そう言われると身もフタもないんですが……われら一族は力も弱く、ほかに食料を調達するすべを持ちません。ですが、ほんの小麦を二、三つぶですよ。そんなに人間を困らせるようなことは……」
いじけてるみたいなので、さきをうながす。
「いいから続けてくれ。おれにどうしてほしいんだ?」
「さっき言ったとおり、食堂にドーンが住みついてからというもの、われらが食料に近づくのをさまたげるのです。
以前は——ええ、生きてるころのドーンは優しい男でした。われらが近寄ると、彼の作ったお菓子のあまりをくれました。ところが、霊になってからは、人が変わったようになって、われらを近づけさせません。このままでは、われらは飢え死にしてしまいます!
どうか、ドーンの霊を成仏させてください。それがダメなら、せめて食料をひとりじめしないで、われらにもわけあたえるよう説得してください」
これは困った依頼が来た。
ディアディンは思わず、ため息をつく。
「おれは傭兵なんだ。そういうことは魔法使いにでも頼めよ」
「だけど、ディアディン小隊長には、魔法使いの友達がいるでしょう?」
「友達? あれが友達? とんでもない。あれは、おれに取り憑く悪魔だ」
少女はケラケラ笑った。
「なかよしなんですね」
どこをどう聞けば、そうなるのか。
何を言ってもムダな気がして、ディアディンは承諾した。
「……わかった。あいつに相談はしてみる。うまくいくかどうか、保証はしないぞ」
少女は、もろ手をあげて、こおどりした。
「わーい。これでまた小麦がお腹いっぱい食べれるよ」
ジャイアント族もそうだったが、どうも、この長姫の
「おれが今まで倒してきた魔物は、人間を骨ごと食らう化け物や、小山のように巨大なオオカミや、見ただけで吐きそうな無気味なものだった。どうも、おまえたちといると、調子が狂う」
「われらは良きものですから」
長姫が上品に薄絹のたもとで口もとをおさえて笑う。
「では、お願いいたしますね。今夜はこれでお引きとりを」
帰りもスノーホワイトの少女に送られた。どこをどう通ったのか、見おぼえのある階段まで帰ってきたとき、少女が口をひらく。
「そうそう。ジャイアントたちが伝えてくれと言ってました。砂糖をありがとう、だそうです。それと、腰ぬけと言って悪かったとも言っておりました」
こういうことを言うから、ただの夢とは思われないのだ。
「ふうん。砂糖をやったのは現実のおれ。だが、昼間のことを夢で見ているだけかもしれない……か」
「小隊長は疑ぐり深いんですねえ」
目を丸くしている少女とわかれて、自分の部屋に入った。とたんに抗いがたい睡魔におそわれて、ベッドの上につっぷした。
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