到着

 どれくらいだろうか。

 三人は暗い地下の空洞を歩き、その道は時々まだ下へと緩い傾斜で下るところが何度かあり、余程地下深くへ降りていると感じさせた。

 

 三人の行く両側にはもう壁はなくごつごつした大きな岩が続いているが、灯かりで照らせる範囲では岩の連なりの先は暗がりに消え入って見えない。

 歩く地面も岩肌だが、そこは確かに道として均されているようだ。

 頭上にはもう天井は見えずただ暗がりが広がる。

 冷たげな、心地よさを感じる。

 ただ静かに、研ぎ澄まされた暗がりを、深く深くへと降りていく……。

 

 やがてそのひんやりした空気が少しずつ薄れて、僅かに空気に動的な気配めいたものが感ぜられるようになってきたように思う。

 ごつごつとした岩の隙間に、低木が見え始める。地下に生える木々なのだろうか、葉っぱがない、青灰色の木。

 岩肌は、濃い深い青味を帯びて見える。

 気付けば、行く道の両側大小の岩陰の其処ここに、人が座っている。

 しかしそれは皆、人の形に見えてもそれぞれが人ならざる者。……角のある者、翼のある者、四本の腕のある者、嘴のある者、双つ頭のある者……

 めいめいが、同じ種族同士何人かのグループや中には違う種同士集って、語らい合っているようだ。

 その語らいまでは、聴こえない。皆が、ゆったり、静かな低い声で語らっている。

 一人で瞑想するように目を閉じている者、肘を付いて寝そべりくつろいでいる者もいる……

 大きな木も見えてきて、その木陰に腰かける者、木の枝の上に安らいでいる者……

 道を進むミートらに、特に注意を向けたり声をかける者もない。

 地下へ逃れてきた者達か。

 これが全部、魔の者、……か。

 しかし、ミートも、レクイカもなのだが、不思議と、驚きも恐れといったものも全く感じられず、むしろ、親しさのようなものを感じた。言葉にできるようなものではなかったが。

 皆、線の雨を避けてきている……普段は、互いに会うこともない、もしかすると相容れない種同士も、いるのだろうか。

 そして、人間……人間は、この中にはいない。

 自分達が、初めて彼らのこの集いの中に足を踏み入れる人間になるのだろうか。

 

 ――と、そのことを意識した途端、耳に、あるいは直に感覚に、と言えばいいのか、

 ニンゲン……

 ……ニンゲン……、と、彼らの中の一部の意識が向けられていることに気付く。

 あからさまにこちらを見ている者は見当たらないようだ。

 しかし、確実に、こちらに意識を投げかけている。

 それは、心地のよいものとは言えないようだ。

 悪意……とは言わない。複雑な、微妙な感情、いや、感情未満というくらいの、そこはかとない居心地の悪さや相容れなさといったものの僅かな芽生え……顕れ……とでもいうような感覚。

 

 ここに至るまでに感じた心地よい冷たさは、既に霧散していた。肌が慣れたせいもあるかもしれないが。

 周囲の話し声も、少しはっきりと現実的に耳に聴こえる気がする。

 

「ここが、地下国……なのね」

 そう、レクイカが口を開いた。

 

 しっかりとした、淀みのない人の声だ。

 ミートはなんだか安心した思いがする。

 

「ああ。ともあれ、ちゃんと、あったんだ。辿り着けたんだな」

 

「ええ」

 

 その後は、また会話もなく幾らか進むと、前方の暗がりの中、高いところまでぽつぽつと灯かりのともる、城と思しき姿が見えてくるのが確認できた。

 暗がりの中に佇む影絵のようだが、近付いてくると、岩肌と同じ青味を帯びて見える。

 その頂きは暗がりに消え入って見えないが、遥かに上の方まで、城の上階の灯かりは続いているようだ。

 

「地下の城……あそこに、地下の王が」

 

「おそらく、な」

 

 やがて城門が見えてくるが、そこに至るまで、ミートらの歩く道の両側にはごつごつした岩、所々に葉っぱのない大小の木々があるという風景ばかりで、城下町といったものは見られなかった。

 城門の前に、濃い青の衣に身を包み、黒い槍を手にした二人の門番が立っている。門に掛かった灯かりに照らされ、灰色に近い肌をしており、頭髪がなく尖った耳とずんぐりと丸い鼻をしているのがわかった。背は、人より少し小さい。

 

「ニンゲン……その代表、ですな」

「あなた方が地下へ来たことは聞いております。さあ、我々の王がお待ちです」

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