第4章 見知らぬ王国

関所を越えて

 頭目を討ったことで、予想通り、一部の賊徒は逃げ出し、大部は降伏した。

 レクイカは関所を解放して、関所の前で足止めされていた難民達を砦に入れて休ませた。

 また、私達がこの先皆様を守りますので、共に参りましょう、と呼びかけ、民達は安堵しレクイカらに感謝を述べ、めいめいが宿泊部屋に入っていった。

 降伏した賊徒はひとまず、地下牢に入れておいた。

 尚、誤って怪物が閉じ込められた扉を蹴破ってしまったミカーは、危うく怪物に掴まれて食べられるかと思った、と話したが、無事で、気丈な様子だった。

 

 解き放たれた怪物三匹は、砦の入口付近にまだいたがいずれも頭を抱え込むようにしてうずくまり、動くことはなかった。

 騎士に交代で入口の番をさせた。

 

 翌朝。

 雨の怪物は、いなくなっていた。

 見張りに付いていた騎士によると、明け方近くに、怪物はゆっくり立ち上がると、めいめいがどこへともなくゆっくりした足取りで背中を丸めたまま歩き去っていったという。

 

 空は、曇り空。

 砦の周囲の山岳の木々が、時々吹く風に静かにざわついている。

 すぐに、雨が降り出しそうではなかったが……

 

「さて、行かねばなりませんね」

 レクイカは言う。

「とにかく、関所を抜けて、西の国のどこかへ……落ち着けるところを見つけましょう。雨も、そこまでは追ってこない、というところまでたどり着けばいいのですが」

 

「レクイカ、そのう、えっとな……」

 傍にいたミートは、歯切れ悪く、言い出せない。

 ――昨日男に聞いた話では、西でももう線の雨が降っている。……

 それを言ったところで、じゃあ、行く場所なんてないじゃないか。

 絶望して、森に残った民のように、あるいはただ静かに雨を受け入れると言ったシガミの一族のように、ここに留まって雨を待つしかない、というふうにしかならない。

 

「ミート、どうしました? 意見があるなら是非、聞かせて」

 今ではレクイカはしっかりミートの意見も聞こうとしてくれるし、ミカーも、腕組んで目細めながらも何も言わず、耳を傾けてくれている。

 言ってしまったら、この子達はどんな顔をするだろうか。

 ミートには、言えなかった。

 

 難民を連れて、五十人を超える程になったレクイカら一行は、関所を出て西へ出発する。

 

 賊徒は、地下牢から出し、どうしても付いてきたい者は武器を預かり監視下におく前提で付いてきてもいいと伝えたが、自由にし、砦を去る者もあったし、多くの者は砦に残るようだった。酒を食らい酔っぱらったまま、雨を迎えるのだろう。彼らにもう必要のない武器は全て取り上げ、この後に関所を通る民があれば構うことなく必ず通すように、と伝えておいた。残った賊徒達には、どうでもいいことのようだった。

 

 ここには必ずやがて雨が来る。

 怪物のいるところに雨は来るようだ、という情報だけはミートはレクイカらに伝えて共有した。

 

「怪物がいなさそうな土地を目指す……か」

 

「うーん。難しいわね。怪物は普段現れるものじゃないし、怪物の姿が見えたら、やがて雨が来るからそこを早く通り過ぎる、しかないし……そうやってどこまでか行けば、怪物もいない、すなわち雨も来ない土地に着くのかしら?」

 

 しんがりにファルグを置き、左右は影騎士に付かせ、馬をゆっくり駆りながら隊の前方でレクイカ、両脇にミート、ミカーと並んで、相談の続きをする。

 民の数は多いが、比較的若い者達が多いためか進行速度は、以前よりは少しましそうだ。

 

 やっぱり、西でも、だめだというニュアンスではなく、雨が降っている国はあるらしい、くらいには言っておくべきか……とミートは思い悩んだ。

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