子ども達
民の中には、三人の男の子らがいた。
二人は親が既にいない。
休憩になると、レクイカやミカーの元に寄ってきてよく懐いた。
ミートは、ミカーが子どもらに邪魔をしちゃいけませんと叱るのではないかと思ったが、ミカーは子ども達にはとても優しかった。
子の一人はミカーに不意に抱きつきさえして、ミカーはどうしたものかという顔でただ照れていた。
微笑ましいですねと言うレクイカに頷くミートをミカーは後で懲らしめ、ミカーはミートには相変わらずなのであった。
三人とも元気な子達で、この望みのない旅において、民にも、騎士達にも望みを抱かせてくれる存在だった。
関所を出て一日目の夕暮れ、騎士達が体力のある若者らに手伝ってもらいつつ野営の準備をしていた時のこと。
子ども達の二人が駆けてきて、
「怪物を見たよ」
と言う。
「あまり、遠くへ行ってはいけませんよ」
レクイカは驚いて、注意する。
子ども達の話した怪物の大きさや姿からすると、昨夜の怪物がまだ付近をうろついているのか、とも思えたが、怪物がどこへ去ったのかはしれないが関所を越えることはしていないのではとも思われるので、ただこの辺りに別の怪物がいたということか。
「いずれにしても、怪物がいる以上ここにも、雨が……休まないわけにはいかないですが、早く、西へ……」
その後は独りごとのように呟くレクイカに、ミートは、
「あのな、レクイカ。その、西のことなんだけど、さ、」
やはり歯切れ悪く切り出そうとする。
が、隣で子どもらにじゃれつかれていたミカーが突如、
「えっ」
と素っ頓狂な声を発する。
「どうしました? ミカー」
レクイカも、ミートも、ミカーの方を向いて問う。
ミカーは真剣な面持ちで述べる。
「その、もう一人の男の子は一緒に遊んでいないのか、聞きましたら、その、俺は怪物を見張ってるからお前ら隊長に報告してこい! ……というような話で……」
どうやら、怪物は様子がおかしく、きょろきょろと、何かを探すような素振りでその辺りをうろついていたらしい。
「なっ……す、すぐに連れてきてください! だめよ、無論、何もしなければ怪物は襲ってはこないけど、それにしたって」
レクイカは焦ってそう言うが、子どもらは、
「あいつはおいら達三人のリーダーだから大丈夫さ」
「功績を立てて、レクイカさんに騎士に加えてもらうんだ、って。ねえ、僕達も騎士になれる?」
無邪気にそんなことを言う。
「う、うん……。それは、ありがたいけど、騎士なればそんな無茶はしてはいけません。ね、その怪物のところへお姉さん達を案内して? ミカー、ミート、お願いできますか?」
「はいっ」
「わかった。さ、どっちだ?」
「え。おにーさんも来るの?」
「おにーさん強いの? 怪物に食べられてしまわない?」
「え……えーっと」
「大丈夫。こっちのおねーさんが付いてるから」
ミカーが胸をとんと叩く。
「このおにーさんは、怪物が襲ってきたら身代わりになってくれるよ?」
「あ、あのなあ」
「よし。じゃあ行こう。こっちだい!」
元気に駆け出す男の子二人に続いて、ミカー、ミートも走る。
野営地の脇の木立の中へ子どもらは入っていく。
小走りに走る子ども達を追い、足早に駆ける。
木立の樹冠の隙間から見える灰色の空に飛ぶ小さな影を、ミートは見とめた。
「鳥……? いや、おいミカー。あれを。上だ」
歩調を緩めて、空を指差す。
「なんだってんです」
前を進んでいたミカーが怪訝そうに振り返り、その方を見やる。
「あ、……黒い、天使」
「確か、シガミの森の前でシトエが……見つけた。あれと同じだな。あんな風にまっすぐにゆっくり、飛ぶんだ。どこへ……」
「……」
「おーいにいちゃんねえちゃん。何してるの? こっち! もうすぐ先だよ」
先を行く子どもらが立ち止まって叫んでいる。
「気になるが……」
「ええ……でも今は子どもが先です。行きますよミート」
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