対頭目

 上階へ向かう班は、レクイカ、ミートに、騎士二名。

 地下へ向かう班は、ミカー、ファルグ、騎士二名。

 騎士数名は難民の元に残し、夜分になってから砦への侵入を開始した。

 

 賊徒は、鼻から難民風情など相手にしていないのだろう。外に見張りは置いていない。

 一階の、物置と思しき窓を慎重に破り、中へと入った。

 

「よかった。物置だな、確かに。人もいない」

 ミートは軽装なのを生かして真っ先に入る役を買って出た。

 

「暗いから気を付けてくれ」

「うわっ、と」

 続いて入ってきたレクイカが、足を滑らして下で待っていたミートの上にどさっと落ちる。

 

「重、じゃない、痛っ」

「あ、ごめんなさ……え、おも……」

 

「こら、ミート!」

 それを見たミカーがすぐに駆け入ってミートに蹴りを入れる。

 

「痛、これは、痛っ」

「どさくさに紛れてレクイカ様に……!」

 

「しっ、静かに」

「すみませんレクイカ様。速やかに行きましょう。ミート、いつまで寝ているのです?」

 

 ファルグ、騎士らは身をかがめ物置の出入り口まで素早く移り部屋の外を窺う。

 

「レクイカ様。廊下は真っ暗ですね」

 出歩く者の姿もないと言う。

 

 門の出入り口付近に、それぞれ上階、地下へ続く階段を見つけ、そこで二班は分かれた。

 

 レクイカ、ミートらは音を立てないよう静かに、二階へ、そのまま上へ続く階段を三階へと進む。

 

「ミート。誰か、来ますね」

 

「頭目は、いちばん上の階だろう。バルコニーのあった部屋の目星は着く。一気に駆け上がろう」

 

「ええ……」

 

 緊張が高まったが、合図をし、一同は剣を抜いて駆け上がる。

 三階に着く前で、下りてきた賊の一人と鉢合わせた。

 

「おっ? お、おまえら……う!」

 レクイカは一突きに峰打ちする。

 

「こんなやつら、殺ってしまってもかまわないと思うが……すでに民を殺している連中なんだ」

 ミートは、仲間を殺されたことを話していた難民らの顔を思い出す。

 

「そうね……でもなるべくなら」

 

 明かりはないままだったが、三階では廊下の方から賊らのはしゃぐような声が漏れ聞こえていた。

 酒でも飲んで、騒いでいるような様子だ。

 レクイカ、ミートらは先程の出遭った賊一人を倒しただけで最上階に達した。

 

 やはり廊下に明かりはなく、明かりの漏れている部屋もあるが、多くの部屋の明かりは消えている。

 賊がいても寝ているのか、物音はなく、廊下の中央まで歩んだところにある大部屋から、男らの笑い声が聞こえていた。

 

 レクイカ、ミートらは、扉の両側に潜むように立ち、タイミングを窺う。

 男らは複数(四、五人はいるといったところか)、外で聞いたあの頭目の大きな声もしている。聞こえるのは、ただ酔って飲めや食えやというような内容や、あとはまた女どもを連れてきて抱くか、といった下らない話ばかりだ。

 

「間違いない。ここだな、レクイカ。わかりやすかったな?」

 

「なんだろう。砦を守っているというふうでも全くなかった。ただばか騒ぎをしているだけ……これなら、昼間に律儀に通してくださいって言う必要もなく、夜間なら民達だってこっそり侵入して通り抜けることもできるくらいじゃない。何かの……罠?」

 

「わからないな。でもこいつらを排除するのは、民の安全のためも、それに彼らの仲間の仇もある。用心して入り、部屋の中に何か罠がないかはよく見極めよう」

 

「あら、ミート。言うことが騎士らしくなったのではない? 感覚が、戻ってきた?」

 

「えっ。そ、そうかな……おれはただ、当たり前のことを、うん……」

 

「よぅし。皆、いいですね?」

 

 頑丈な扉に手をかけると、錠はかかっていない。

 開けると、広い部屋に幾つかのテーブルがあり、酒瓶や皿が散らばっている。

 やはり、頭目と、三人の部下が酒を飲んでいた。

 

「おお? よお。夜這いに来てくれたのか嬢ちゃん」

 

「民を、通してもらいます」

 レクイカは剣を抜き、頭目へ向けた。

 

 ミートは素早く部屋を見渡したが、変わった様子はないようだった。確かにかつては砦の守将が住んでいたのだろう豪華な部屋だったようだが、今は家具は倒れたり開け放たれて荒らされている。

 そして、バルコニーの方へ、まだテーブルに付いている部下らとは別の一人が出ていったのを見た。

 あの、魔術師風の男だ。

 

 頭目は、壁に立て掛けていた長い曲刀を取り、すらりと抜き放つ。部下達も面倒そうに、めいめいが武器を取った。

 レクイカと騎士二人は、頭目と三人の部下に向かい合う。

 

「レクイカ。おれは、バルコニーに出た男を追う。四対三だが、勝てるか?」

 

「うん、大丈夫。賊徒などに遅れは取らない。必ず、仕留める」

 

「おいおい! その細腕で、この俺様を必ず、仕留める、だとぉ?」

 あっはっは。

 大きな笑い声を上げて、頭目は曲刀をぶんっ、と振り回す。

 ぎゃっ、と叫びが響き、頭目の一番近くにいた部下の一人の首が飛んだ。

 

「おうおう、勢い余ってやっちまったぜ」

「げ、げえっ」

「お、お頭~」

 

「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえ。おまえらでも、鼠の一匹ずつくらい何とかできるだろ。女はおれにやらせろ」

「そんなあ」

「そうやっておいしいとこばかり」

  

 ミートはその隙に、バルコニーの方に向けて走る。

 

「へっへ。どこ行くあんちゃん」

 部下の一人がミートにボーガンを構えた。

 

「ミート! 行って」

 レクイカが剣の小柄をボーガンを構えた部下に投げ、同時、頭目に斬りかかる。

 

「なんだ。嬢ちゃんの恋人か?」

 頭目は振りかぶった曲刀をミートの方へぶんっと投げ打つ。

 

 レクイカは驚き、放たれた曲刀へ懸命に剣先を伸ばして軌道を弾いた。曲刀は、バルコニーに出ようとしていたミートの頭をかすめ、外へ飛んでいく。ミートもそのまま外へ逃れた。

 

「ちっ」

 

 頭目は、バランスを崩したレクイカを素手で捕まえ羽交い締めにした。

 レクイカの剣が床に落ちる。

 

「うっ……!」

 

 その脇では、騎士の斬撃がボーガンごと部下の両腕を斬り落とし、もう一人の部下も槍の突きを交わした騎士に首を斬られ血を噴き出していた。

 

「ちぃっ、使えんやつらめ。おい、鼠ども、貴様らの大将をこのまま締め殺されたくなくば、剣を置けい!!」

 

「私に構わないで! そう簡単に落とされません。いいからこいつを、斬ってください!」

 

「ほう……いい度胸だ」

 

 頭目はレクイカを更に締め上げる。

 

「う!?」

 

「いいな。本当にいくぞ?」

 

「うぐう…………っっ」

 

 騎士二人は、剣を床に置きその場に留まった。

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