戦闘
一方、シガミの主の間には再び、さきの部下らの二人が集っていた。
シガミの主は、少々呆れたといった様子で部下を窘めている。
「あなた達……何よあの悲鳴は。いくら好きになさいったって、ありゃあ派手にやり過ぎじゃない。これじゃあ、残りのやつらに逃げられても仕方ないわよ」
「はっ。少々、やりすぎたようです。今、手下らに行かせました」
「なるべく逃がさないようになさぁい」
「はっ」
そのとき、扉が勢いよく開き、シガミの今宵の客人らが姿を現した。
シガミらは、その迅速さには些か、驚いた様子だった。
部下達はめいめいに、腰に帯びた長剣をすらりと抜き放つ。
「シガミ! シトエを出せ」
弓を構えるミカー、その両脇に剣を持った影騎士二名が立つ。ミカーは弓弦を引き絞る。ミート、レクイカが続いて入ってくる。
「ああら、あら。そんなに真っ赤になっちゃって、可愛娘ちゃんが台無しよ」
そう、シガミが話しきるかきらないかの内に、ミカーの放った矢はヒュンと一直線に飛んでいた。
トン。シガミの喉に突き立つ。
「ウッツウウ」
シガミは玉座から崩れ落ちた後、両の手で喉に刺さった矢を抜こうと、もがく。
「貴様ぁ」
シガミの部下二人が、飛ぶように向かってくる。
レクイカがミカーの前に出る。
「レクイカ!」
ミートは、ミカーから預かった短刀を抜いた。
レクイカは相手の切っ先を抜き放つ剣で受け身する。
すかさず、ミートは横合いから短刀を滑り込ませ、相手の喉元を切り裂いた。
「ミート、そんな短刀でよく……」
「レクイカ、もう一体を!」
脇を見れば、影騎士二人に挟まれて、シガミの側近だったもう一人も斬られ、声もなく血を噴き出しているところだった。
「やった……か?」
ミートは、部屋を見回す。
シガミの主ももう、起き上がらない。
「ミート。ありがとう」
レクイカがすぐにミートへ駆け寄る。
「でもそんな短刀で長剣の間合いに入っては、危なかったよ。私だって騎士、こんな森の魔にはやられはしない」
「ああ……お、おれも元・騎士だからな。大丈夫、さ。……でも、まあその、さっきのは咄嗟のことで、つい。自分でもよくやったと思う……その、手が震えて、短刀が手から取れん……」
「手を貸して」
ああ、はい、はいと言ってミカーが割って入る。
「レクイカ様は、どうか次のご指示を。ミートの後始末は私が」
「わかった。では……」
「お、おいおい、後始末って……。そこに転がってるシガミの死骸と同じような扱いで言うなって」
「黙ってください。しかし一体片付けたくらいで、情けないです。それも私の短刀の切れ味がよかったおかげですが。ほら、手。うぇ」
「おい、なんだそのうぇって」
ミートはレクイカに手を取ってもらえなかったことを残念に思いつつ、ミカーの手に触れ(手袋越しと言え)触れたことのない女人の手に触れていることにどきまぎとした。
「力を抜けですって!」
「いや、だからそれができないから……」
「……おまえなんか、顔が赤くないですか?」
「ば、ばかなことを……!」
「もういい。このまま行ってください。なんかきもい。どうせまだシガミの手勢が残ってるかもしれません、相討ちになってもいいから一匹でも多く殺すんですね」
「あ、ああ……。って、さっききもいって……」
レクイカは、影騎士の二人に、すぐ民の方へ加勢を、と伝えると、足元に転がるシガミ達に飛びついていた。
「シトエを、シトエを一体どこに!」
案ずる部下の名を叫び、敵を揺さぶっている。敵はまだ息はあるが、すでに喉を斬られているため、ひゅうひゅう息を漏らすばかりで答えることもあたわない。
「レクイカ……」――シトエはもう、だめだ。それより首領は片付けたのだから、まずは皆のとこへ戻ろう。そう、ミートは声をかけたかったが、レクイカは、立ち上がれないでいるようだった。
「言って。シトエを……どこに……!」
レクイカは喋ることもできない死にかけの敵をばちん、とぶつ。
「おい、レクイカ……」
「大丈夫です。ミートももう民の方へ行ってください。私達もすぐ行きますから」
レクイカはミカーが「レクイカ様。さ」と、肩に手を置くと、すっくと立ち上がった。
「ごめんなさい……皆。大丈夫……私は大丈夫です」
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