会食

 ミートは、食事の間の前でレクイカと鉢合わせた。

 

「ああ、ミート。今からお食事?」

「そうだが……主にはもう会ってきたのか」

「ええ。これからの会食も、主やその側近らとすることになってる。シガミの主が、外の世界の話も久々に聞ければ、ってね」

 

 レクイカは少し間を置いて、

「ええと。……そうだ、ミートもこっちに来る?」

 そう聞いてくれて、ミートは少しだけ嬉しくなる。

 

「だが、おれは騎士でもないし、今や……」

「そう。じゃあ、また後で」

「っと、いや、まあ、そうだな、だけど、せっかくの機会だ……それにおれも、魔に属する者の話は、少し興味がある」

「ああそう。それなら」

 

 そこへはあーっと、溜め息が聞こえ、

「それで、いい詩でも書ければいいですけどね」

 いつの間にか、ミートの後ろに、ミカーが来ている。

 苦笑しているシトエや、ファルグらも一緒だ。レクイカと同席するわけだろう。

 

「うっ。それには、関係ない……が」

「あ、そうなのですか。吟遊詩人は辞めるのですか? じゃあ、一緒に会食する理由もありませんね?」

 

 シトエは、こらこら、とミカーをたしなめている。

 からかわれていることは、ミートもわかっているのだが、ミカーにはどうも言い返せないのだった。

 

「じゃあ、ミートも騎士として同席すれば、どう?」

 レクイカが、本心なのか助け舟なのか、ミートに言葉をかける。

 

「そういうことなら、まあ。ですね」

 ミカーも普通に納得して、それ以上からかってくる様子もなかった。

 ミートは少ししょんぼりとした様子で、彼女らに付いていく。

 

 会食の間は、民や他の騎士らの案内された大広間とは違い、小ぢんまりとしていたが、高級な品々が部屋の至るところに飾られている。しかし人間からすればおそらく誰が見ても、趣味がいいとは言い難い品々であった。

 

 シガミらは主の他に、四人が同席し、静かに会食は進んだ。

 運ばれてくるメニューも、奇怪な形状の果実や、何の肉か判断の付かない不思議な味の肉料理など、人間の口には合わないものばかりであった。

 

「どうかな? そちらの世界の方は」

「はい。線の雨のことは、ご存知でしょうか?」

 主の問いに、レクイカは聞く。

 

「ああ」

 

 主に、騎士らの視線は集中する。

 

「知っているが?」

「その……私達の国の至るところでその雨が発生し、国は、消えてしまっています。線の雨とは、一体どう説明できるものなのでしょうか?」

「きれいなもの、と思うが」

 

 レクイカは少々、返答に窮した様子だが、続けた。

「その、ですが、あれは滅びをもたらす雨です」

 

 主は、ふふふ、と笑い、

「何故、線の雨を恐れる? 受け入れればいい。そこにあるのは、とてもきれいな死……いや、死ですらない……雨の向こうの国へ静かに消えていく、というだけなのだから……」

 そう言い、再び微笑をするだけだった。

 レクイカはそれ以上は聞かず、他に取るに足りない世間話ばかりに終わった。

 

 会食の時間が終わると、民らも続々と大広間から出てきて、寝室の方に案内されていくところだった。

 浮かれない顔の者ばかりで、やはり出されたメニューは似たようなものばかりだったのだろう、と思う。

 

 ミカーとシトエは並んで、民達が歩いて行く様子を暫し見守った。

「あの主の言っていること、わかりました?」

 ミカーの呟きに、シトエは首を横に振る。

「でも、言葉まできれいでしたわね。線の雨を受け入れる……そういう選択もありかな、なんて。聞いてるとそう思えてきましたわ」

「うちの似非吟遊詩人よりも、よっぽど本物の詩人みたいでしたね」

「不吉だけれど、美しい言葉」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る