シガミの一族
森の中は、静かな闇に包まれていた。
ランプを掲げた城の遣いらが湖畔に並んで、丁重に一行を迎えた。
湖の中ほどに、ほんのり白く浮かび上がるようにして古めかしい城が建っている。中央に三階か四階建て程度の塔と左右に小さな尖塔が二つある。
彼らは、案じたような危惧は欠けらもないような上品さを窺わせる。
皆、一様に背が高く、美しい衣装を纏っていた。古代の魔術的な紋様が施されており、古い血筋を持つ一族なのだろうと思わせた。
彼らが人と違うのは、異様に長い、尖った鼻だった。それが奇妙な点を除けば、各々が美しく整った顔立ちをしている。
迎えられた民達は、城へ続く木造の橋を渡る。
湖には、城内から漏れる灯かりが映し出されていた。
城内に足を踏み入れると、外見は古城ではあるが、綺麗に片付けられており、古色な赤の絨毯が敷かれている。様々な、珍しい品々があちこちに飾られていた。
レクイカら代表者数名が主の間へと招かれ、民や他の騎士らは客間へと案内された。
食事の用意もしているところなので、待機していてほしいとのことだった。
ミートは、民らの方に一緒に行くよう指示を受けた。
レクイカは、ミカー、シトエ、ファルグら側近のみを連れ主の間に出向き、主の前に形式的に跪き、挨拶と礼を述べる。
「ようこそ。シガミ一族の土地へ」
シガミと名乗った一族の主が、出迎える。若い主だ。
シガミの側近達が部屋の両側に五名ずつ侍っている。
主ともども、一族の者は魔の者であるためか、一様に若く、年老いた者の姿は見えなかった。また、男女の別も定かでなく皆が揃って美しい中性的な顔立ちをしている。なので、余計に、尖った鼻が奇妙だった。
「この森の付近一帯は、古来私どもシガミの支配する土地でございまして、一見ただの何の変哲もない森に見えども、しっかり目を行き届かせておりましてな」
シガミは、レクイカらが足を踏み入れていたこともいち早く察知していた、と述べた。
「私どもは、礼節を重んじます故、こうして挨拶して援助を求めてきた者は誰なれど、無下には致しませんよ」
レクイカは、シガミの主に少々慇懃無礼を見て取ったものの、丁重に礼を述べた。
主の間を退出した後、シトエと並んで歩くミカーは、
「すでに監視下にあったのなら、かえってこちらから挨拶を申し入れてよかったですね」
と言った。
シトエも同意し、
「そうね。逆にもし、無断で通り抜けていたら、その方が軋轢を生んでいたかも」
と言い、郷に入りては郷に従えですものね、と付け加えた。
「すでにここは、人の土地ではないのだから……それにしても」
「ん? まだ何かあるのですか、シトエ」
「いえ。人ならざるものだからこそか、このシガミのお方々、美しい方ばかりで、その……」
「あら。惚れてしまいましたか。ミートのこと、擁護してたからそっちにほの字かと思ったのに」
「いやいや、そんなのじゃなく。羨ましいなってね。それにミートさんのことは別に、何とも」
「あら。ミートはやっぱりだめだめですね」
ミートの方は自分のいないところでも、またミカーにけなされているとは知らず、民らと食事の間に向かっていた。
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